第七回米州サミットに思う(2)
4月11日のサミット全体会議での様子がネットで出ているが、マドゥーロ・ベネズエラ大統領がオバマ大統領に向かって、身振り手振りを加え、2002年のチャベスおろしを引き合いに出し、米国は我が国の政権崩壊のクーデターに関与してきたではないか、内政干渉の前科がある、お互い敬意をもって接する、と言うなら、私から手を差し伸べる、何時でも会おう、と、やや興奮気味に語っている。ベネズエラを脅威と宣した行政令攻撃は、キューバのラウル・カストロ議長なども展開し、ボリビアのモラレス大統領は米国がキューバに謝罪すべき、とまで言い出し、同席しているオバマ氏の困惑した表情が印象的だ。
サミットと言うのは、通常は「参加国全てが一致できる共通事案」を事前に事務方で煮詰め、共同宣言の文案を固め、外相会合で承認したシナリオに沿い、必要に応じ政治判断を下す場ではなかろうか。出席者の国内での立場にも配慮せねばなるまい。少なくとも一参加国首脳に対し他参加国首脳が集中砲火を浴びせる会合は異様な気がする。
共同声明は発表されず、代わって、主催国パナマのバレラ大統領の報告が出された。率直の中にも敬意に満ちた討議が行われ、事前準備したアジェンダの9割に参加35ヵ国が合意した、米州の新たな時代の始まりを告げる、歴史的なサミットだった、としている。アジェンダには医療、教育、エネルギー、環境、移住、治安、市民参加、民主的ガバナビリティーなどが含まれていた。同大統領は、事前に、参加国首脳同士の自由闊達な対話の場にする、と表明していた。
サミットの合間に、オバマ氏はブラジルのルセフ大統領とも会談した。彼女は1年半前、米国政府に国賓として招かれたが、米国情報機関による盗聴問題でこれを断ってきた。オバマ氏から直接、再度の招待を受け、今度は応じた。一方国内では、彼女の政党である労働者党(PT)、連立を組むブラジル民主運動党(PMDB)と進歩党(PP)などの有力議員に嫌疑がかかっている国営石油会社(Petrobras)を経由した汚職問題で、支持率が、驚く無かれ、13%にまで急落する、と言う信じ難い状況に追い込まれている。かつて同社も管掌していただけに、国民の57%が、彼女も実体を知っていた、と見ており、63%が彼女への司法捜査を支持している旨の報道もあった。このサミット初日の10日に、前議員3名(PT1名、PP2名)が収監された、とのニュースが入った。
彼女は昨年10月末に過半数の得票で再選され、第二期目を今年1月1日に発足させたばかりだ。3月15日、もう彼女の退任を要求する参加者数が200万人とも言われる大規模デモが行われた。サミット後の帰国翌日の4月12日にも繰り返された。参加者は半減した由だが、大変な数字で、私などはその展開の速さに驚くばかりだ。1992年に退任に追い込まれたコロル元大統領(在任1990年3月~92年8月)の場合、不正蓄財が理由に挙げられた。彼女にはかかる破廉恥罪は報じられていないが、上記の低支持率が気にかかる。
オバマ氏は、「繁栄のための同盟」を構成する北部中米三ヵ国(グァテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル)、及び同三ヵ国を含む中米統合機構(SICA)加盟諸国の首脳との個別会談にも臨んだ。前者は米国に、経済開発を梃子に同国への不法移民の流れにブレーキをかける計画への協力を期待してきた。他の参加国もサミット期間での首脳外交に余念が無かったようだ。だが中身の報道は、外電を追い掛けてもあまり見られない。
次の第八回サミットは、3年後、ペルーで開催される。その時点では今回サミットを歴史的なものにした主役の、オバマ、ラウル・カストロ両首脳は、いずれも任期を終えている。次期主催国のウマラ氏も同様だ。アルゼンチンのLa Nación紙によると、同国のフェルナンデス大統領は全体会議で持ち時間の8分間を大きく超える20分間、オバマ氏が中座している中で、激しい米国批判を行った、とされる。彼女もサミット出席は今回が最後になる。今回主役の一人、マドゥーロ氏はどうだろうか。
オバマ氏が14日、テロ支援国家のリストからキューバを外し、この決定を議会に送ったことは、我が国でも報道された通りだ。今後の両国間交渉の動きを注視していきたい。