ベネズエラ独立革命200周年に集まった大統領たち
4月19日、カラカスにALBA加盟国(旧スペイン、ポルトガル領19ヵ国では、ベネズエラ、キューバ、ボリビア、ニカラグア及びエクアドル5ヵ国。他にアンティグア、ドミニカ、サンビセンテ・グラナディナのカリブ島嶼国)首脳とフェルナンデス・アルゼンチン、フェルナンデス・レイナ・ドミニカ共和国両大統領が集まった。このことで、一寸書いておきたい。
1810年4月19日、カラカスのカビルド(市会)が、スペイン本国のセビリャ自治評議会政府(ほどなくカディスに移動)によって軍務総監に指名されたばかりのエンパランを罷免し、自らの行政最高評議会を立ち上げた。カビルドというのは植民地人の議会のことを指すが、それまで植民地社会に根を下ろした有力者たちがレヒドル(regidor。参事と邦訳されている)と呼ばれる議員となって様々な問題を協議し合う場だった。司法行政の権限はアウディエンシア(audiencia。聴訴院と邦訳される)という本国による植民地統治機関にあり、国王勅任の軍務総監が全権を担っていた。つまりカビルドは国政に関わる権限は殆ど持たされていなかった。それが一人の軍務総監の追放によって行政権を手中に収める決議をした。これは植民地もセビリャ同様、フンタ(junta)と呼ばれる自治評議会を立ち上げる権利を行使する、というもので、独立宣言ではない。だから、ベネズエラはこの日を独立記念日とはしていない。だが、ラテンアメリカの独立革命史上、最重要年の一つとして記憶されている。フェルナンデス大統領はベネズエラ議会で演説し、200周年万歳、と締めくくったそうだ。5月25日はアルゼンチンも同様の記念日が到来する。同様の集まりはあるのだろうか。
200周年記念日では、2009年8月10日、南米諸国連合(UNASUR)サミットがキトで開催された。同市の市民がアウディエンシア長官を追放し自治評議会を立ち上げた日で、エクアドルではこの日を独立記念日としている。ベネズエラにとっての4月19日よりも重要な日だと言えよう。ちょうどコレア大統領がUNASURの年次議長を務める年だったことがあろう。また、同年10月14日にはラパスでALBAサミットが開かれている。やはり200年前の同地で、市民による自治評議会を立ち上げる事件が起きていた。キトもラパスも植民地当局によって解散させられ、エクアドルは1822年5月に、ボリビアは1825年3月に、ボリーバルにより解放された。
カラカスの集まりは「サミット」になるのだろうか。この機会にチャベス、コレア両大統領が、5月30日のコロンビア大統領選にウリベ政権与党「国民社会連合党(’la U’)」候補として出馬したサントス前国防相への懸念を表明した。2008年3月に対コロンビア断交に踏み切ったエクアドルは、昨年末には代表部の相互設置で復交への第一歩を踏み出したが、今日に至るも正式な国交回復に至っていない。懸念は、断交の基になったエクアドル国境地帯にあったFARC拠点に対するコロンビア軍の越境作戦が、当時のサントス国防相の責任に帰する、との考え方にあり、また、ウリベ現大統領の対外政策の継承を表明するサントス候補に対するチャベス大統領の反発がある。サントス候補は、逆に、いずれも内政への干渉がましい言動、と批判する。
オルテガ大統領は、2011年末の大統領選への連続出馬の機会を求め、法的整備を進めようとしている。だが議会はこの3ヵ月間、政治問題に関わる法案審議を拒否し続けて来た。オルテガ支持者による激しい対議会抗議が奏功したのだろうか、漸く審議に入ったようだ。聊か国内情勢が気にかかる状況にあり、ちょっと眼が離せない。その中でカラカスに来た。ALBAはホンジュラスのロボ政権を承認しない立場だが、中米諸国はEUとの「連合協定」を推進する必要に迫られている。その前提がロボ・ホンジュラス政権承認だ。ニカラグアも無視し続ける訳にいかず、4月に入って両国大統領は対話を開始した。既に承認したかも知れない。これをALBAの首脳陣の了解を取り付けたい。
カストロ議長のキューバは、サパタ服役囚が刑務所の待遇に抗議し80日間のハンストを実行し2月央に衰弱死した。これに抗議をする形でジャーナリストのファリーナ氏がハンストに入り、現在収監中の26名の政治犯解放を訴え、現在は入院して点滴で生命をつないでいる。彼の場合、以前にもインターネット検閲に抗議するなどハンストを繰り返してきたために、国際的知名度が高く、人権問題に過敏な国際社会のキューバの体制に対する反発を強め、人権団体のみならずメディア界、EU、及び、当然だが米国から、轟々たる非難が寄せられた。その中でのカラカス来訪だった。ファリーナ氏のハンストは米国やメディアに唆された不満分子に利用されたもの、というのが政権側の主張だ。また最近、クリントン米国務長官が、カストロ兄弟は国民の支持を繋ぎとめるため米国と敵対関係にある現状を維持する方が得策、と考えている、と批判した。これには本末転倒、と反撃している。ALBA加盟国は、キューバ側の主張を一致して支持できる首脳が集まる。
モラレス大統領はこの後帰国し、自然保護を叫ぶ団体など世界中から2万人以上の参加者による国際集会を主催した。「気候変動と母なる大地の権利に関わる人民の国際会議」と名付け、ボリビアはここ1年間で1,000万本の植樹を行い、また母なる大地の権利を保護する省を設立すると宣言した。これにはチャベス大統領も出席している。2020年までに世界の主要国は二酸化炭素の排出量を半減させること、などを、年末にメキシコのカンクンで開かれるCOP16で提起する、とのことだ。