コロンビア政府・FARC間停戦協定調印
6月23日、世界中の耳目を集めた英国の欧州連合(EU)離脱の国民投票の只中、コロンビア政府とコロンビア革命軍(FARC)の停戦協定がサントス大統領とFARCの最高指導者のロンドーニョ司令官(通称「ティモチェンコ」)との間で、2012年11月からの交渉場所、ハバナで調印された。我が国でも主要メディアが大きく取り上げた。
調印式には潘基文・国連事務総長、和平プロセス保証国(キューバとノルウェー)からは前者がラウル・カストロ国家評議会議長、後者はブレンデ外相が、同立会い国(ベネズエラ及びチリ)からは、前者がマドゥーロ、後者はバチェレの両大統領が、そして、ペーニャニエト(メキシコ)、サンチェスセレン(エルサルバドル)、メディーナ(ドミニカ共和国)の各大統領も出席した。
国連は今年1月25日、安保理事会が和平最終協定調印後の和平監視団を決議した。バチェレ氏が今回の停戦協定調印を「コロンビアのみならず我が米州全体にとり歴史的な一瞬」とコメントしたような、今回協定の重要性に鑑み、事務総長出席、となったものだろう。首脳出席が無かった米州各国からも次々に祝意が寄せられていることを伝えている。
保証国、立会国以外で出席した首脳では、メディーナ氏はラテンアメリカ・カリブ共同体(CELAC)の持ち回り議長を務める。上記バチェレ氏コメントと同じ意識が為すものだおう。ペーニャニエト氏は、太平洋同盟の盟主の意識もあろうし、コロンビアから米国への麻薬回廊として苦しんでいる背景もあろう。サンチェスセレン氏はエルサルバドルの「ファラブンドマルティ国民解放戦線(FMLN)」のゲリラだった人で、1992年1月の政府との和平協定を経てFMLNが政党に移行し、2009年には政権を担うようになった歴史の体現者だ。今年4月始め、サントス氏が同国を訪問、和平プロセスへの協力を取り付けていた。
コロンビアのFARCとの対話について私はブログでは昨年7月http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2015/07/farc-a0e2.html以降、書いて来なかった。ここで紹介した和平最終合意までの猶予は4ヵ月、との昨年7月のサントス大統領の突きつけは、本人が同年9月にハバナに赴き、ラウル氏立会いでFARCのロンドーニョ氏と初めて会談を持ち、今年の3月23日まで、に延長していた。武力抗争で22万以上の死亡者、600万以上の国内避難民を出したFARCの戦闘員や幹部に対する困難な司法判断が関わり最大の難関とされた内戦被害者への償いの問題は、昨年末に決着を見た。だが、武装解除と調印する最終和平協定の最終承認を巡り、議論は続き、上記の期限は過ぎていた。
武装解除とは、一定期間に、特定の場所(数十箇所とされる)でFARCが武器を引き渡すメカニズムを指す。その後、武器は破壊され、溶かされ、平和のモニュメント建造に使われる、と言われる。FARCが自衛の場合を除き国軍に対する一方的停戦に入って久しい。国軍もFARCへの戦闘行為は控えている。双方向での完全な停戦に、FARCの武装解除は不可欠だ。FARCが懸念するのは、10年前に武装解除した、とされる自警団(パラミリタリー)の後継武装勢力のFARCメンバーに対する攻撃のようだ。武器引渡しに国連機関の関与は決まっている。それでも、安全面での対策作りに時間が掛かったのだろう。
協定の最終的承認は、国民投票で行われる。FARCは、憲法改正が不可欠との立場を貫いて来たが、5月12日の合意文書で、現行憲法の枠内での国民投票を認めることを確認した。司法分野では検事総長自身がFARCメンバーへの懲罰を強く主張しているし、ウリベ前大統領のように、和平プロセスを批判する政治勢力も無視できない。あと2年強でサントス政権は終わる。和平協定発効から武装解除、政党活動開始、2018年3月に予定される次の議会選参加を考えると、FARCに残された時間は少ない。実を取ったのだろう。
政府は国民投票を遅滞無く進めるための「和平特別法案」を議会に提出していたが、6月6日に承認された。その前段階で、その正統性判断を憲法裁判所に仰いでいる。そして、サントス大統領はFARC との和平最終協定調印を、それも7月20日に、今度こそボゴタで行う、と言明した。政府にとって、もう一つのゲリラ、国民解放軍(ELN)との和平プロセスが次の大きな課題となる。こちらは、一向に進んでいない。FARCとの最終協定の実相をELNが見守っているのかも知れない。
英国が離脱を決めたばかりのEU、そして左翼ゲリラに厳しかった米国のいずれも、和平後のコロンビアへの支援を打ち出し始めた。和平が成っていない現状でも、コロンビアは経済成長を続けている。当然の動きだろう。
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