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2016年5月15日 (日)

ルセフ大統領職務停止-ブラジル

512日早朝、ブラジル上院本会議がルセフ大統領の弾劾裁判を賛成55票、反対22票で可決したニュースは、我が国でも早速報じられた。その是非について、11日午前10時から翌朝6時半までの20時間半をかけた、上院議員一人ひとりが壇上で発言する本会議の模様は、テレビで生中継された。弾劾理由は財政への不正操作関与の筈だが、大半はインフレや不況の責任を追及していたのではなかろうか。

ブラジルの上院議員は、下院同様、26州及び首都特別区単位で選出される。定数513議席の下院は人口に比例して議員数を割り当てるが、同81議席の上院議員は、27名が定員1名ずつの小選挙制、54名は2名ずつの中選挙区制で選ばれる。選挙区間の票の格差はとんでもなく大きいが、二院制を採る国では普通だろう。だが発言時間は等しく一人当たり15分間とされた。417日の下院本会議では遥かに少なかった。 

ルセフ氏は、自動的に職務停止、となった。これから最長6ヶ月間掛け、上院で行われる彼女に対する弾劾裁判がどんなものか、私には想像し難い。上院で行われる弾劾裁判には、4年前のパラグアイのルゴ大統領罷免がある(http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2012/06/post-2e10.html)。スペイン語でjuicio político、即ち政治判決、と言うその当時の表現が、ルセフ氏の場合にも外電のスペイン語版でも使われた。ポルトガル語では英語のimpeachemtを使っている。時間をかけるところが、パラグアイの場合とは異なる。ただ罷免理由が、財政赤字を少なく見せる操作への関与、と言うことに、そんなに審議時間を掛けられるものだろうか。

裁判中は、憲法の定めにより、テメル副大統領が大統領職を代行する。その意味では停職となるのは彼女一人、と思うが、彼は全員が新任の閣僚を任命した。たとえ代行、とは言え大統領の実務を担うのは一人、事実上の大統領だから、との理屈で、閣僚指名権を行使することに文句は言えまいが、結局、政府の全閣僚が失職した。

ルセフ氏に「上院の裁判」で「有罪判決」が出れば、彼は「代行」がとれ、2018年末まで大統領を務めることになるが、無罪判決が出て彼女が復職すれば、どうなろうか。テメル氏は省の数を32から9削減し、政府機構の効率化を誇示する。外電は、新閣僚が富裕な保守政治志向の富裕な中高年者、女性や非白人閣僚数はゼロ、と伝える。

新閣僚には、「ブラジル民主運動党」(以下PMDB)が、僅か1ヵ月半前にルセフ政権を離脱するまで、野党第一党だった「ブラジル社会民主党(以下PSDB)」を含む前野党陣営からも登用された。外相になったのは、http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2010/11/post-eaab.htmlにも書いたPSDBのジョゼ・セラ元大統領候補、74歳だ。 

ところで、56日、クーニャ下院議長が、こちらは連邦最高裁判所によって、職務停止を余儀なくされた。Petrobras 汚職スキャンダル司法捜査の妨害を理由としている。これは、昨年12月、彼が下院議長としての職務を、自らの捜査を回避すべく悪用している、との検事総長からの訴えに応えたものだ。その彼がその12月にルセフ弾劾のプロセス開始を決定した。職務停止の彼を継いだ「進歩党(PP)」のマラニャン下院議員は、59日、下院議長の権限として、417日の下院決議を無効とする決定を発表、同日夜には決定を撤回する、という迷走を見せた。

ほぼ同時期、政権側は、それを彼のルセフ氏への報復目的によるもの、プロセスを進める法的必然性が欠如している、との理由で、上院本会議票決を止めるよう最高裁に訴えていたものの、こちらは上院での票決を前に、拒否された。 

紆余曲折を経たルセフ停職には、大統領解任のための国民投票に直面しているベネズエラのマドゥーロ政権を始めとする「米州ボリーバル同盟(ALBA)」諸国などから、テメル政権不承認を含む強い反発が出ている。

南米諸国連合(Unasur)のサンペール事務局長の不当、とのコメントも伝わる。米州全体としては、戸惑いがあるのではなかろうか。4年前のパラグアイのように、Unasurやメルコスルで資格停止にする、と言うのは、世界第六位の経済大国、ラ米随一の国力を持つブラジルには、非現実的だろう。

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