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2016年5月21日 (土)

メディーナの連続再選-ドミニカ共和国大統領選

私事で申し訳ないが、キューバに3度、計6年間駐在したのに、スペインによる十五世紀末からのアメリカ植民地統治の基点だったドミニカ共和国には、歴史的な関心を強く持ちながらも、行ったことが無い。現役時代、市場として管轄する立場にありながら、一時期には勤務先の駐在員もいながら、残念なことだと思う。この国の動きは主としてAPReutersAFP及びEFEの報道が便りだが、印象としては、それらの外電のこの国への関心は低そうだ。眼が、どうしてもキューバ、ブラジル、アルゼンチン、ベネズエラ、コロンビア、ペルー、そしてメキシコに行ってしまうのだろう。私の方も、この国をブログで取り上げるのは前回大統領選の時http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2012/05/post-a8ab.html

以来、つまり4年ぶり、となる。 

去る515日、この国で総選挙が行われた。この国では、1996年以降、大統領選と自治体選の2年後に議会選が行われてきた。1966年以降二度に亘り連続再選を繰り返したバラゲール(1906-2002。大統領在任1966-781986-96)が、1994年選挙時、自らの任期を2年間、議会の任期4年は不変、としたことが元になっている。それをラ米で一般的な、且つ94年以前はドミニカ共和国でも採用されていた総選挙(大統領、議会同時選挙)方式に、22年ぶりに戻した。前回議会選で当選した議員の任期を4年から6年に延長することで実現した。 

中央選挙委員会(JCE)開票作業が手作業のためか、5日経った段階での開票率が92.9%台だが、大統領選は「ドミニカ解放党(PLD)」の、また副大統領候補に前回同様、副大統領候補をフェルナンデスレイナ前大統領(1853~。在任1996-20002004-12)夫人のマルガリータ・セディーニョ現副大統領(51歳)に立てたメディーナ(64歳)現大統領の得票率が約62%であり、連続再選は確定している。この得票率は、ドミニカ内戦後の1966年選挙以来、特殊例(197074年にPRDが選挙をボイコット)を除くと、最高だ。2012年に就任して早速断行した財政改革、その後の高い経済成長や優先政策としての教育振興で高い支持率を維持しているのが、何よりの勝因だろう。

バラゲールの最後の政権下で決まった大統領連続再選禁止は、メヒーア(1941~。大統領在任2000-04)政権時代に解除、フェルナンデスレイナ第二次政権で復活した。そしてメディーナ(64歳)現政権下でまたしても解除されている。 

大統領選で二位につけたのは「現代革命党(PRM)」から立候補した48歳のアビナール候補で同時点の得票率は35%だ。副大統領候補にはメヒーア(1941~。大統領在任2000-04)元大統領の息女、カロリーナ・メヒーア(47歳)氏を立てた。

この国では、上記バラゲール時代が終わると、PLDと、「ドミニカ革命党(PRD)」の二大政党時代に入った。いずれもボッシュ(1909-2001)が創設した。後者が最初で、1939年、トルヒーヨ(18911961)独裁を離れて亡命していたキューバで立ち上げた。1973年に自ら離党し、前者を作った。要するにこの二大政党は同根だ。今回のアビナール候補は、2012年大統領選で、PRDの副大統領候補だった人で、その後、大統領候補だったメヒーア氏と共に、PRMに移った。一方で、PRDの今回候補者は同党のバルガスマルドナード党首だったが、途中で立候補を見合わせ、メディーナ氏への支持を表明していた。理由は、彼の国民統合政府への共鳴、の由だが、同根同士、あまり違和感は無いのだろう。一方でアビナール氏は、バラゲールの「社会キリスト教改革党(PRSC)」の協力を得ている。 

31地方(provincia)及び首都特別区を単位とする議会選は、定数32議席の上院が夫々から一人ずつを選ぶ小選挙区制を採っており、選挙直前、PLD31議席、独占状態だった。同190議席の下院も、PLD102で過半数を確保している。在外議員7名を除く183名が比例代表制で選ばれ、内5名は少数政党に配分される。拘束名簿方式なので、正しく政党同士の選挙だ。第二党はPRD45、第三党がPRM35となっており、この3党で182議席を占める。これがどう変わるか、開票が大統領選よりも遅れるのは、他ラ米諸国同様であり、辛抱強く待たねばならない。だが、メディーナ第二期で少数与党になることは考えられないし、且つ、PRDが協力的だ。ラ米資源国と異なり、資源の国際価格の動向に振り回されることも無い。正常安定は続きそうだ。

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2016年5月15日 (日)

ルセフ大統領職務停止-ブラジル

512日早朝、ブラジル上院本会議がルセフ大統領の弾劾裁判を賛成55票、反対22票で可決したニュースは、我が国でも早速報じられた。その是非について、11日午前10時から翌朝6時半までの20時間半をかけた、上院議員一人ひとりが壇上で発言する本会議の模様は、テレビで生中継された。弾劾理由は財政への不正操作関与の筈だが、大半はインフレや不況の責任を追及していたのではなかろうか。

ブラジルの上院議員は、下院同様、26州及び首都特別区単位で選出される。定数513議席の下院は人口に比例して議員数を割り当てるが、同81議席の上院議員は、27名が定員1名ずつの小選挙制、54名は2名ずつの中選挙区制で選ばれる。選挙区間の票の格差はとんでもなく大きいが、二院制を採る国では普通だろう。だが発言時間は等しく一人当たり15分間とされた。417日の下院本会議では遥かに少なかった。 

ルセフ氏は、自動的に職務停止、となった。これから最長6ヶ月間掛け、上院で行われる彼女に対する弾劾裁判がどんなものか、私には想像し難い。上院で行われる弾劾裁判には、4年前のパラグアイのルゴ大統領罷免がある(http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2012/06/post-2e10.html)。スペイン語でjuicio político、即ち政治判決、と言うその当時の表現が、ルセフ氏の場合にも外電のスペイン語版でも使われた。ポルトガル語では英語のimpeachemtを使っている。時間をかけるところが、パラグアイの場合とは異なる。ただ罷免理由が、財政赤字を少なく見せる操作への関与、と言うことに、そんなに審議時間を掛けられるものだろうか。

裁判中は、憲法の定めにより、テメル副大統領が大統領職を代行する。その意味では停職となるのは彼女一人、と思うが、彼は全員が新任の閣僚を任命した。たとえ代行、とは言え大統領の実務を担うのは一人、事実上の大統領だから、との理屈で、閣僚指名権を行使することに文句は言えまいが、結局、政府の全閣僚が失職した。

ルセフ氏に「上院の裁判」で「有罪判決」が出れば、彼は「代行」がとれ、2018年末まで大統領を務めることになるが、無罪判決が出て彼女が復職すれば、どうなろうか。テメル氏は省の数を32から9削減し、政府機構の効率化を誇示する。外電は、新閣僚が富裕な保守政治志向の富裕な中高年者、女性や非白人閣僚数はゼロ、と伝える。

新閣僚には、「ブラジル民主運動党」(以下PMDB)が、僅か1ヵ月半前にルセフ政権を離脱するまで、野党第一党だった「ブラジル社会民主党(以下PSDB)」を含む前野党陣営からも登用された。外相になったのは、http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2010/11/post-eaab.htmlにも書いたPSDBのジョゼ・セラ元大統領候補、74歳だ。 

ところで、56日、クーニャ下院議長が、こちらは連邦最高裁判所によって、職務停止を余儀なくされた。Petrobras 汚職スキャンダル司法捜査の妨害を理由としている。これは、昨年12月、彼が下院議長としての職務を、自らの捜査を回避すべく悪用している、との検事総長からの訴えに応えたものだ。その彼がその12月にルセフ弾劾のプロセス開始を決定した。職務停止の彼を継いだ「進歩党(PP)」のマラニャン下院議員は、59日、下院議長の権限として、417日の下院決議を無効とする決定を発表、同日夜には決定を撤回する、という迷走を見せた。

ほぼ同時期、政権側は、それを彼のルセフ氏への報復目的によるもの、プロセスを進める法的必然性が欠如している、との理由で、上院本会議票決を止めるよう最高裁に訴えていたものの、こちらは上院での票決を前に、拒否された。 

紆余曲折を経たルセフ停職には、大統領解任のための国民投票に直面しているベネズエラのマドゥーロ政権を始めとする「米州ボリーバル同盟(ALBA)」諸国などから、テメル政権不承認を含む強い反発が出ている。

南米諸国連合(Unasur)のサンペール事務局長の不当、とのコメントも伝わる。米州全体としては、戸惑いがあるのではなかろうか。4年前のパラグアイのように、Unasurやメルコスルで資格停止にする、と言うのは、世界第六位の経済大国、ラ米随一の国力を持つブラジルには、非現実的だろう。

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