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2016年4月20日 (水)

オリンピックを間近にして-ブラジル

417日の下院(定数513議席)本会議でのルセフ大統領弾劾の模様の一部を、NHKのニュースで見た。議員一人ひとりが声を張り上げ、弾劾プロセスへの賛否を表明する。欠席者を除く511名の内、ルセフ解任を睨む弾劾に、367名が賛成、と叫んだ。

大統領に対する弾劾手続きは、下院で始まる。先ず特別委員会を組成し、ここで弾劾すべき、との結論が出れば、下院本会議で審議し、票決を行い、三分の二の賛成を得ると、上院に付託される。 

http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2014/11/post-9981.htmlを参照願いたいが、2014年総選挙では、総議席513の下院で、議席を確保した政党で政権与党を構成するルセフ陣営「人民の力」の、彼女が帰属する「労働者党」(以下PT)を始めとする9党で、303議席を占めた。全体の59%だ。今回の弾劾プロセスに反対票を投じたのが137名だから、その落差に唖然とする。

弾劾手続きのプロセスを強行したのは、クーニャ下院議長だが、彼は陣営の「ブラジル民主運動党」(以下PMDB)に属する。下院でPTと議席数の一、二位を争う。彼がプロセスを強行した時点で、同党はまだ連立離脱を否定していた。だが3月に離脱した。これに「進歩党(PP)」、「社会民主党(PSD)」なども呼応した。この3党だけで、140議席強だ。

ブラジルの下院議員は、州や連邦特別区の単位で、比例代表制で選出される。無記名ではなく、一人ひとりが壇上で賛否を表明する投票に、党の決定から逸脱した意見表明は、難しかろう。 

2014年の決選投票で、得票率で51.6%を挙げたルセフ氏は、151月に第二期目に入って間もなく、反ルセフ国民運動に見舞われた。3月以降、彼女の支持率は10%内外で推移している。不思議な国民、と言うのが私の率直な感想だ。だがそれは、不況への不満と、国営石油会社Petrobrasに纏わる汚職事件への反発によるもので、特に後者は、多くの政治家が捜査を受ける中で、彼女自身は対象になっていない。それでも、彼女にはPetrobrasの理事会議長を務めた経歴がある。国民の多くに、彼女が汚職に無関係とは言えない、と思われても頷けよう。

彼女への弾劾理由は、201415年財政の不当操作への関与、であり、歳入不足を経済開発銀行(BNDES)など国営銀行に肩代わりさせ、人気取り政策を進め、財政赤字を低く見せた。これは憲法上大統領罷免に繋げ得る「責任罪」、とする。だから、上記の国民運動とは一見、無関係だ。ルセフ陣営は、かかる財政手法は歴代の大統領も講じており、とってつけたような理由で民選大統領追放を強行するのは不正義であり、クーデター、と叫ぶ。国民の6割が弾劾賛成、とのアンケート調査があるようだが、この理由によって、自らが選出した大統領を罷免することに賛成か、と訊かれれば、どうなるだろうか。 

続くプロセスを委託された上院は、20日ほどをかけて、特別委員会での審議、本会議での採決へと進む。単純過半数で弾劾の裁判(juicio)実施が裁決されれば、上院内に法廷が置かれ、最大180日間かけて審議が行われ、その間、ルセフ氏は公職から離れ、PMDBの党首である76歳のテメル副大統領が大統領職を代行する。法廷では、彼女の側の弁明や意見陳述なども認められる。彼女の前任者で国際的に知名度も高くカリスマ性に満ちたルラ氏が招請を勝ち取った、南米で初めてとなる、ブラジル人の誇りとして記憶に残るだろう歴史的なイベント、オリンピックの開会宣言は、彼女にはできなくなるが、テメル氏が代わりを務めるのだろうか。

カリェイロ上院議長は、憲法を尊重し、彼女の十分な弁護時間を保証する、と言っている旨が伝わる。彼もPMDBに属する。上院法廷での180日の審議の結果、大統領罷免が決まると、同党を率いるテメル副大統領が正式に臨時大統領となり、2018年末の任期残を務めることになる。 

上述の反ルセフ国民運動の理由の一つ、Petrobras汚職に関わったとして、昨年3月に検事総長から示された現職議員34名の中に、クーニャ下院議長とカリェイロ上院議員の名もある。特に前者は、具体的な関与、金額が贈賄側から証言されており(クーニャ氏は否定)、スイスの銀行口座も発覚し、昨年10月から下院内の倫理委員会で議長解任への動きが出た。ただ、大統領弾劾の動きの中で、今は止まっているようだ。 

それにしても、国際社会はこの動きをどう見ているのだろうか。

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