アルゼンチン債務問題の決着
これまた旧聞だが、4月22日、アルゼンチン財務金融省は、「訴訟を起こしていたファンド(los fondos litigantes)」に対し93億ドルを支払ったが、これからの支払分を入れると、最終的には105億ドル、これは額面の40%の割引に相当する、と発表した。
昨年12月に発足したマクリ政権は、財務金融省を通じ、2005年、10年のリスケに応じなかった、ホールドアウトと呼ばれる債権者との交渉に臨んだ。欧米メディアがそれまで報じて来たところでは、
1) 今年の2月早々、5万と言われるイタリア債権者と、総額25億ドルを13.5億ドルに減額しての支払を纏め、次に米国勢との交渉に移り、総額90億ドルに対し65億ドルのオファーを行った。
2) 2月29日、ホールドアウトとの46.5億ドルの支払い協定を発表、額面の75%。協定発効にはアルゼンチン議会承認が必要
3) 3月31日、議会承認が実現
4) 4月13日、2005年、10年のリスケに応じた債権者への支払禁止命令(実務上の担い手である民間銀行に対するもの)解除
5) 4月19日、アルゼンチン国債165億ドル発行
と言う経緯を辿っている。
上記3)については、少数与党であるにも拘わらず、実現した。上記4)は、2014年7月のニューヨーク地裁のグリーサ判事の命令によるもので、http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2014/07/post-0f28.htmlなどでお伝えした。これでアルゼンチンはいわゆる「テクニカルデフォルト」に陥った。元本計13.3億ドルの債権全額プラス金利の支払いを求める2社(NML
Capital Ltd及びAurelius Capital Management)の請求全額を支払うまで、リスケに応じた債権者への返済履行禁止、と言う判決へのアルゼンチンの不服従への制裁、とした。アルゼンチン側は、リスケ時に約束されたRUFO条項(リスケに応じない債権者に、より良い条件は付けない)、として判決は受け難い、と主張していた。
一主権国家をデフォルトに陥れる一地裁判事の命令には、米政府も戸惑いがあったようだが、その時には司法の独立が壁となって、何の手も打たなかった。米国に好意的ではないフェルナンデス政権下だったからか。今年3月23日、米財務省から当該司法当局にその解除要請が為されている。その翌3月24日から2日間の、米国の現職大統領として19年ぶりとなるオバマ大統領のアルゼンチン訪問に合わせたものだろう。訪問は、自由主義経済を掲げるマクリ新政権下、同国との関係改善を目的としたものだった。財務省は22日のホールドアウトへの支払履行、及び19日の国債発行が、マクリ政権の政策変更の証明、と評価した。
ともあれ、国債発行はアルゼンチンの国際金融市場復帰を強烈に印象付けた。13.3億ドルではない、元本ベースでは計算上170億ドル(割引後105億ドル)のホールアウト債権の一括支払のインパクトが、それほど大きかった、と言えよう。プラッツガイ財務金融相によれば、購入者の3分の2が米国の投資家、発行額の4倍もの需要があった由だ。
165億ドルは、満期ごとに3、5、10、30年ものの4種類となっている。利率は、6.25%(3年もの)~7.62%(30年もの)で、私には高いのかどうか、判断がつかない。ホールドアウトへの支払原資として、またインフラ事業に充当される。前者が105億ドルなら、後者は60億ドル、と計算できる。なお、このニュースを伝えるロイターは、同時にアルゼンチン中銀による外貨準備高も伝えた。国債発行で67億ドル増え、358億ドル、と言う。冒頭で述べたようにホールドアウトに93億ドル支払ったら、国債発行額とのバランスは72億ドルだから、銀行手数料などを考えれば、増加額はこんなものか、とも思う。
マクリ政権下、公共料金引き上げ、失業増大に加え、通貨ペソの二重相場制廃止でインフレが加速し、4月始めの世論調査では彼の支持率は就任当初の77%から50%にまで下落した。この程度なら、ラ米の最高指導者の中では極めて高い部類にはいろうが、今国際的に騒がれている「パナマ文書」に名前が出た。だが、欧米メディアは彼に好意的だ。
アルゼンチンが国際金融市場に復帰できたことは喜ばしい。マクリ政権の政策変更の中では、食糧の輸出税の撤廃乃至引き下げも良かった。政権の思想的立場がどうあれ、資本主義経済に通貨の二重相場制は本来あってはなるまい。それでもメディアの、或いは米国のマクリ政権への高い評価には、違和感を覚える。