シオリかマクリか(3)-アルゼンチン大統領選
11月15、16日、トルコのアンタルヤで開催されたG20。パリの同時多発テロのフランスを除く加盟18カ国で、アルゼンチンだけが首脳を派遣しなかった。フェルナンデス大統領は12月10日、つまり一月もせぬ内の退任が決まっているから、と言うのは理由にはなるまい。彼女はアルゼンチン国内外のメディアにはさんざんだが、支持率は決して低くないし、存在感も大きい。後任には自ら指名した「勝利戦線FpV」候補のブエノスアイレス州知事、シオリ氏を望んだし、前述したようにペロニスタの結束を呼び掛けたのも当然の流れだった。その彼女が、ニュースになることがめっきり減った。表舞台に出ることでシオリ不利を醸し出すから、とも思えない。聊か、気にかかるところだ。
欧州系(白人)が国民全体の97%を占め、ローマ法王まで出した国、アルゼンチンは、このブログで前にも述べたことがあるが、民主主義国としての歴史は浅い。1930年9月以降の半世紀、軍事クーデターが繰り返され、選挙で選ばれた大統領で任期を全うできたのはペロン第一次(1946年~52年)のみで、他は、連続再選第二期のペロンを含め、全て任期途中に起きた軍事クーデターで追放されている。66年6月から83年末まで、3年間を除いて長期軍政を経験した。末期には82年の無謀な対英マルビナス(フォークランド)戦争で敗北している。
1983年12月の民政復帰から32年経った。この間1999年からの4年間を除く28年間で政権を担ったのは、アルフォンシン(「急進党(UCR)」)、メネム(「ペロン党」)、そしてキルチネル夫妻(ペロン党「勝利戦線FpV」)の3組だけで、アルフォンシン政権は経済政策に失敗し軍の一部の蜂起にも悩まされ、選挙を前倒しまでして、本来任期を5ヶ月間残して退陣した。メネム政権は国営企業の民政移管を進める一方で、通貨統制(カヴァロ経済相の名前を冠したカヴァロ・プラン。国内通貨のペソの対ドル連動)でインフレ収束には成功、憲法を改正した上で連続再選された。97年のアジア、98年のロシアの通貨危機伝播の対応に失敗しながらも、任期を全うした。彼の政権下の10年余りで、対外債務は倍増した。
1999年、逆政権交代を果たしたUCRのデラルア政権は、前政権が残した巨額債務と巨額の国外流出で流動性欠如を来たし、これに続く市中預金引き出し規制での国民抗議運動への有効な対策が打てず、暴動も起こり、任期半ばで退陣した。二人置いて議会指名で就任したドゥアルデ(ペロン党。1999年大統領選で次点)新大統領は、ほどなく債務不履行(デフォルト)に入り、アルゼンチンは国際金融市場から締め出された。彼の政権はそれまでの通貨政策だった対ドル連動(ペック)制を断念し、変動相場制に移行したが国内通貨ペソは対ドルでいきなり4分の1にまで落ち込み、インフレが再燃し、同年の GDPは大きく落ち込んだ。彼も任期途中で辞任、14年前のアルフォンシン同様、選挙を前倒しした。
2003年4月の大統領選には、「ペロン党」が分裂、メネム、キルチネル、サアの3候補が立候補することになり、選挙法廷は党名使用を禁止した。誰も40%以上の得票で二位に10ポイント差、或いは45%の得票に達せず、メネム、キルチネル両候補が決選投票に進出する筈だったが、第一位だったメネム候補が決選投票で敗退の世論調査を前に辞退、キルチネル候補の当選が決まった。
IMF、世銀、米州開銀など国際金融機関とリスケ交渉入りしたのは、キルチネル政権発足後間もない2003年6月のことだ。05年には、第一回目のデフォルト債務スワップ(30~66%割引、乃至は低金利での長期返済)を行った。債務再編に経済政策を条件付けるIMFを嫌い、06年初頭、前倒し一括返済を行った。国民の大喝采を受けたが、それでは国際金融市場復帰はできない。だが折からの資源ブームの恩恵などで大幅な貿易黒字を背景に、隣国ブラジルなどと共に、経済成長期に入り、失業率も低下、政権は安定した。政権末期には閣僚のスキャンダルなどで連続再選の道を断念したが、支持率は60%を超えていた、と言われる。
夫の辞退を受けて出馬したフェルナンデス候補は、総選挙時の第一回目投票で45%の得票率で当選を決めた。彼女自身は法律家であり議員としての政治活動経験を持つ政治家だったが、食糧輸出税引き上げを巡る農業協同団体との軋轢や、よく知られる国内大手メディアとの確執などを乗り越えたのも、夫の存在は大きかった。低所得家族の子どものための補助金(AUH)は、2009年に彼女のイニシアティヴで実現した。社会弱者救済で活躍したペロン夫人のエビータを想起させる。10年8月、債務の第二回目スワップも実現させた。残念なことに夫は同年10月に死去した。彼女は翌11年の総選挙時の第一回投票で54%の高得票率で連続再選を果たした。彼女の第二期にも、メネム時代に民営化された国営石油会社YPFの再国有化など、目に付く政策は多い。
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