シオリかマクリか(2)-アルゼンチン大統領選
ブエノスアイレス州知事(シオリ、58歳)対ブエノスアイレス市長(マクリ、56歳)の一騎打ちとなるアルゼンチン大統領選決選投票。ご存知の通り、人口290万人のブエノスアイレス市は、特別行政区であり、1,670万人のブエノスアイレス州には含まれない。
アルゼンチンには23の州があるが、知事の数は、ブエノスアイレス市長を他の州知事と同列に扱うため、24となる。「市長」と言う邦訳で、メディアも英語ではmayor、スペイン語でalcaldeを使うが、1994年の憲法改正で、正式には「ブエノスアイレス自治市政府長官(jefe de gobierno de la Ciudad Autónoma de Buenos Aires)」と称すようになり、州知事同様の権限が付与された。
アルゼンチンは1983年の民政復帰からまだ28年しか経っておらず、選挙で大統領に当選した人は5名しかいない。その中でブエノスアイレス州知事対ブエノスアイレス市長の大統領争いは、1999年にも行われた。だが総選挙時の第一回投票での、一、二位得票者がそうだった、と言うわけで、今回のような一騎打ちは初めて、そもそも、決選投票自体が初めてだ。ともあれ、1999年選挙で一位だったのは、初代ブエノスアイレス自治市政府長官で「急進党(UCR)」のデラルア候補で得票率は48%、つまり憲法上第一回投票で45%以上を挙げたので、決選投票無しに大統領と決まった。彼は、市長で、二位は知事でペロン党のドゥアルデ氏だ(デラルア退任後、何人か後の臨時大統領になった)。
シオリ氏がペロン党で知事、と言うのはドゥアルデ氏と同じだが、マクリ氏は、UCRとの連合こそ組んでも、いわば独立系だ。
シオリ氏はブエノスアイレス市で生まれ育った。政界に入った切っ掛けについては、私は存じ上げない。少なくとも上記ドゥアルデ氏のように、青年時代から政治活動に携わった、とは聞かない。元々祖父が始めた電子機器販売会社と、スウェーデンの在アルゼンチン子会社に勤めていた。またウォーターボート競技の選手として活躍した。1997年、40歳でペロン党ブエノスアイレス市選出の下院議員、2003年、46歳でキルチネル政権の副大統領、07年、50歳でブエノスアイレス州知事、となる。2010年から4年弱、ペロン党の党首の座にもあった。「勝利戦線(FpV)」はあくまでペロン党の一派で、圧倒的な主流派とは言え、党内の他の勢力が堂々と分派活動している。その党首と言っても、外からは何とも理解し難い。
マクリ氏は、ブエノスアイレス州に属するタンディル市で生まれで、大学卒業後、父親の建設と製造の企業グループで幹部を務めていた。サッカークラブのオーナーとしても知られる。上記デラルア氏もドゥアルデ氏同様、青年時代から政治に身を投じたが、マクリ氏はどうだろう。ブエノスアイレス市長を志し、2003年、44歳で自ら立ち上げた「変革への約束」から立候補し善戦、この時は敗退したが、国政選挙でこの党がいきなり下院5議席を獲得している。05年には、UCRの右派系分派と「共和国提言(PRO)」を結成、48歳になった07年の市長選でFpV候補を破ったことで、幾分騒がれたようだ。2010年、PROを選挙母体、としてではなく、正式党名とし、翌11年、前回と同じ候補者と戦い、連続再選された。
10月25日の第一回投票で第三位だった前述のマッサ議員がかつて市長を務めたティグレ市は、ブエノスアイレス州に属する。アルゼンチンの有権者の38%を抱える同州は、伝統的にペロン党の牙城とされる。だが、10月25日に同時に行われたマクリ後任を選出する知事選では、非ペロニスタのPRO から出馬したビダル現ブエノスアイレス副市長が、現官房長官のアニバル・フェルナンデス候補を破り、同州初の女性知事に決まった。FpVにとり、本来、とんでもない一大事と言える。
フェルナンデス大統領は、ビダル知事誕生は評価、全国25知事の内の5人が女性となることを喜んで見せた。だが、決選投票でのシオリ不利の予想に危機感を抱き、ここ12年間の実績(2000年前後の経済混乱を収拾、失業率の劇的な低下、AUHと呼ばれる低所得者層の子どもたちの補助制度など)と政策の継続性を含む政治安定性のため、として、シオリへの投票を訴えている。マクリ候補は、YPFへの国家介入やAUHには本来批判的だったが、これらは継続すると約束する。フェルナンデス氏は、当選目的だけの変節、と断じ、激しく非難する。
政権側のマクリ攻撃は、FpV政権下で築き上げられた安定性が変革の名の下に破壊される、と言う点に集約されそうだ。彼の陣営はこれを、国民に恐怖を植え付けようとしている、と逆批判する。決選投票に向け、双方のネガティヴ・キャンペーンが眼に余る。
(続く)
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