マクリ政権発足へ-アルゼンチン
キューバを除くラ米18カ国の大統領選で、第一回目投票で一定の得票が無い場合、得票一、二位の間で決選投票が行われる制度を持つのは13カ国だ。今年はグァテマラ、昨年にはエルサルバドル、コスタリカ、コロンビア、ウルグアイとブラジル、13年にはチリ、11年にはペルーの、夫々の現大統領は決選投票で選出されている。これら8カ国の内、連続再選が認められているのはコロンビアとブラジルだけだが、いずれも現職の連続再選だった。残る6カ国中4カ国で、与野党交代があった。
制度を持ちながら第一回目だけで現大統領が決まったのは、ボリビア(2014年)、エクアドル(13年)、ドミニカ共和国(12年)、ニカラグア及びアルゼンチン(いずれも11年)だが、ドミニカ共和国を除く4ヵ国が連続再選で、与野党交代はゼロだ。決選投票を経験してこなかったのは、ニカラグアとアルゼンチンだけだった。
そのアルゼンチンでの国政選挙史上初めてとなる決選投票で、反ペロニスモ政党連合「変革しよう(Cambiemos)」のマクリ・ブエノスアイレス市長、56歳が得票率51%強で選出され、与野党交代も実現することになった。彼の政治イデオロギーは、保守、中道右派、などとされる。中道左派とされ12年間政権の座にあるキルチネリズムを倒したことから、欧米メディアには、来る12月6日のベネズエラ議会選、2016年のペルー総選挙でも右揺れが期待できる、と歓迎する記事が散見される。
史上初めて、と言えば、大統領候補者同士のテレビ討論会もあった。10月25日の総選挙を10日後に控えて、及び決選投票を一週間後に控えての二度行われた。
前者は、大統領選出馬が認められた6名の候補者を一同に集めようとしたものだが、世論調査を見る限り、40%以上の得票で、第二位に10ポイント差を付ける(従って総選挙時に当選を確定する)可能性が高い、とされていたシオリ候補は、対抗者を攻撃する性格の討論会には参加しない、と辞退し、他の5名から「国民を嘲笑う態度」として、批判されていた。これが10月25日の選挙結果に繋がったのか、決選投票を余儀なくされ、そして最終的にマクリ候補に敗退する遠因となったのだろうか。延引ことにそれまで彼は、が、結果は得票率で38%、マクリ候補に2.5ポイント差をつけただけで、決戦投票を余儀なくされた。
後者では、シオリ候補はマクリ候補の政見である「変革(cambio)」では社会政策(廉価な公共料金、弱者への補助金など)を後回しにし、失敗した1990年代の新自由主義政策を再び導入し、国民生活を危険に陥れる、と攻撃していた。これをマクリ候補は、社会政策は続ける、と言っているのに、国民に不安を煽っている、と反撃していた。ただ、キルチネリズム政策の誤りと断定したインフレを、自分は収束する、と言う一方で、外国為替の4年前からの二重相場制の速やかな撤廃も明言した。扱いを誤れば、国内通貨ペソの急激な切り下げと、ハイパーインフレの再来に繋がりかねない。
マクリ次期大統領は、フェルナンデス政権から年率二十数パーセントのインフレと外貨不足による経済不振と言う負の遺産を引き継ぎ、その解決に当ることになる。彼は、物議を醸したYPF国有化http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2012/05/ypf-c0ea.htmlについては、これを踏襲する、としながら、外資受け容れ促進を政見に掲げる。2001年デフォルトと、その後のIMFへの対応によって締め出された国際金融市場への復帰も掲げるが、これには2005、10年の債務リスケに参加しなかった米国債権者の、一向に解決の兆しも見えないニューヨークでの訴訟http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2014/07/post-774d.html問題が残っている。前述のテレビ討論でシオリ候補が、IMFとハゲタカファンドに屈服する恐れがある、と強調していた。
ところで、総選挙での議会選結果は、どなたかご存知だろうか。全国選挙管理局(Dirección Nacional Electoral)のどこを見ても分からない。どこから取ったか、英語版Wikipediaに掲載されている州毎の結果を追っていく限りでは、「勝利戦線(FpV)」は、上院では改選議席で増やし、非改選を足すと総議席72の6割を占め、一方下院では不調だった2003年中間選挙ほどではないが、改選議席を大きく減らし、総議席数257の4割に留まったようだ。Cambiemosは上院では僅か4分の1、下院で3割強の議席で、いずれもFpVには遠く及ばない。他の政党と組めば、下院では多数派になる可能性はあろうが、上院はどうにもならない。国家財政が関わる社会政策は、現政権から踏襲せざるを得まい。ただ、私の勝手な分析が当っていれば、のことで、きちんとした公表を望んでいる。
気になるのは、首脳の個性が出る外交政策だが、彼は、ベネズエラをメルコスル資格停止にすることを公言している。同国の議会選も注視しながら推移を見て行きたい。