グァテマラ大統領選が終わって
10月25日、グァテマラ大統領選の決選投票で、46歳のモラレス氏が67.44%と、圧倒的得票率を確保して、次期大統領に決まった。この得票率は1985年、民主化後最初の選挙でセレソアルバロ候補(在任1986-91)が得た68.37%、1999年にポルティーヨ候補(在任2000-04)が得た68.33%に次ぐものだ。
私事で恐縮だが、私は、ラ米動静は通常欧米メディアのネット記事で得るだけで、生きた情報が少なく、このブログ発信の中身がどこまで実態を反映しているか、よく自問する。今回のグァテマラ選挙の動きを日頃から伝えていた外電はスペインのEFE程度で、9月6日の総選挙、そして今回の決選投票辺りで、漸くAP、Reuters、AFPも発信した。どれも、決戦投票を制したモラレス氏を、テレビなどで弟と共に活躍してきたコメディアンで、政治は素人、政権プログラムも政策立案チームも持たず、彼の「国民集結戦線(Frente de Convergencia Nacional、FCN-Nación)」は退役軍人が設立した新興政党、と報じている。同党として初めての総選挙では、知名度の低さ故か、軍人アレルギー故か、議員定数158の議会で獲得したのは、僅か11議席に過ぎず、大統領に選出された候補者の政党としては、1985年の民主化以来では圧倒的に少ない(上記セレソアレバロ与党は51議席、ポルティーヨは63議席)。
5月2日に総選挙が公示された段階では、前回2011年の大統領選で次点だった「自由民主会派(LIDER)」のバルディソン候補が最有力視されていた。グァテマラの国会議員は比例代表制で選出されるが、極めて不思議なことに議員の政党離脱、他党への移動が罷り通っている。前回選挙で14議席を得たLIDERは、在グァテマラ日本大使館によれば、今年8月時点で62議席にまで急増していた。だが総選挙での大統領選では、彼は第三位で、決選投票に進めずに終わった。前にもこのブログで書いたが、グァテマラでは1995年以来、前回選挙で次点に付けた新興政党の候補者が大統領に当選しており、彼が初めての例外となる。LIDERの新議席数は44へと落ち込んだが、それでも議会第一党だ。
今回出馬が認められた元コロム夫人で60歳のトーレス候補(前回断念についてはhttp://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2011/08/post-d44e.html参照)は、「国民希望同盟(UNE)」から出馬し、得票率でバルディソン候補と0.37ポイントと言う僅差で二位につけた。UNEは議会第二党となる36議席を獲得した。決選投票に進んだが得票率32.56%に留まり、モラレス候補に大差で敗退した。
総選挙直前となる9月2日、ペレスモリーナ大統領が辞任した。同8日から拘禁されている。総選挙公示直後の5月8日、バルデッティ副大統領が辞任、彼女も8月に拘禁されていた。メディアが伝えるところでは、「ラ・リネア」(業者の税関での税逃れの口利きを電話で行うこと。贈賄を見返りとする)と呼ばれる腐敗スキャンダルに主体的に関わった、と言うもの。通常、大統領には不逮捕特権が付与されている。グァテマラも同様だ。この特権剥奪には、国会で3分の2以上の票決が必要だ。8月に票決が行われた際には、それに届かなかった。
その後、Comisión Internacional Contra la Impunidad en Guatemala(CICIG)及び公共省(実態は独立機関たる検察庁)が最高裁に、同大統領への不逮捕特権剥奪のための予審を請求、認められた。そうしたら、今度は国会が再度票決を行い、全会一致で特権剥奪が決まった。ペレスモリーナ辞任、続く拘禁には、このような背景がある。
上記のCICIGの在グァテマラ日本大使館の邦訳は「グァテマラ無処罰問題対策国際委員会」となっている。ベルシェ政権下(2004-08)の2006年12月にグァテマラ重大犯罪の捜査と起訴で検察庁への助力機関として設置され、2年毎に委託期間の延長が今日まで繰り返されてきた。このCICIGと検察庁が4月、「ラ・リネア」にペレスモリーナ政権の要職者が関与している、と発表した。彼らの資料には副大統領のみならず、複数の主要閣僚が入っており、大統領は5月以降、次々に交代させていく。また、CICIG委員長(コロンビア人)は、現役国会議員への捜査も行っている旨を公言した。グァテマラ国民には政界が腐敗しているとの認識が醸成され、大統領個人にも退陣を求める市民の抗議行動が繰り返された。モラレス氏が脚光を浴びることになったのは、CICIGの活躍で既存政治階級への不信感を募らせた国民に、政治経験の無さが清新さを植え付けた結果だろう。
グァテマラには貧困層が多く、悲しいほどに高い殺人率を抱え、米国への違法移民も止まらない。財政危機も控えていると言われる中で、圧倒的少数与党。欧米メディアは、彼の政権の多難を強調する。
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