コロンビア政府とFARCの和平の行方
7月20日、キューバと米国が国交回復を実現した日、コロンビアは205回目の独立記念日を祝った。
この日、コロンビア革命軍(FARC)が、六回目となる一方的停戦に入った。忘れてはならないことだが、FARCと政府との和平対話は、当事者同士の双方向停戦抜きで行われている。FARCは、和平協議期間中の双方向停戦を、始めから要求してきた。だがサントス政権は、停戦期間を彼らの体力回復と戦闘能力の向上に使われる、との懸念を理由に、これに応じて来なかった。だから停戦、と言えば、常にFARC側の「一方的」停戦を指してきた。五回目は、昨年12月20日からの「無期限」停戦だ。
2月末からの和平対話の際には、途中から国軍幹部とFARCから成る小委員会で、停戦とゲリラの武器引渡しの行程に関わる小委員会も開かれた。この小委員会が、3月7日までに、地雷撤去共同作業について、合意に導いた。国連によるとコロンビアは、世界で最も地雷が敷設された国の一つであり、1990年以降、1.1万人の死傷者を出している。先ず国連からの大いなる賞賛を得た。
当初FARCの一方的無期限停戦に懐疑的だったとされるサントス政権だが、次第にこれを評価するようになっていた。地雷撤去合意を受けた格好だが、3月10日、空軍によるFARC拠点への襲撃(空爆)で空爆停止令を出す。ところが4月15日に、停戦中の筈のFARCによる前14日の襲撃で、軍、警察に11名の志望者が出る事件が起き、停止令を解除した。FARCの一方的停戦の間も、交戦は行われている。軍や警察からの軍事行動には対応せねばならないからだ。ことこの事件については、いずれ真相解明されようが、どちらに非が有るかは、ここでは置いておく。
FARCの一方的無期限停戦は、5月22日に破棄された。空軍による襲撃(空爆)で27名の戦闘員が死亡したが、これへの報復が理由とされる。死亡した一人は、ハバナでの和平対話参加メンバーだった。それ以降、各地でFARCによる襲撃が繰り返され、一部では石油パイプラインや送電線塔の破壊で、石油流失による環境問題や大規模停電を来たしている。軍や警察との交戦状況や被害者についての実態は、外電を追うだけではよく分からない。破棄から1ヶ月で兵士、警官、及びゲリラを合計すると死亡者数は約80名、との報道もあった。
その中でもハバナでの和平対話は続けられた。停戦破棄直前、地雷撤去共同作業の現地での検証作業も実現した。停戦破棄から間もない6月4日には、和平協定締結後の真実委員会創設にも合意した。和平プロセス保証国を務めるキューバとノルウェーが、立会国のベネズエラ、チリと共に、政府・FARC双方に、敵対状況緩和(descalamiento)を強く促したことも、緊張が高まる中での和平対話継続に貢献したことだろう。
7月8日FARCは、保証国、立会国が呼び掛けた精神に則り、との表現付きで、同20日から一ヶ月間の一方的停戦を発表した。これをもとに、12日、政府も軍事行動の抑制を約束し、敵対状況の緩和が共同声明の形で合意された。
サントス大統領は15日、幾つかのメディアに、7月20日からのFARCの一方的停戦期間は4ヵ月であり、この期間に最終和平合意が成らなければ、その時点で自分が和平プロセス打ち切りを判断する、と表明している。http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2014/06/post-1ef7.htmlの通り、大統領選でこの和平形成こそ重要と訴え当選した彼の、文字通りの正念場になるのだろうか。
ところで、和平対話ではこれまで、農地改革(2013年5月)、FARCの政治参加(13年11月)及び非合法麻薬問題(14年5月)について合意を見てきた。概ね半年毎に一つのアジェンダを纏めてきた格好だ。ところが、昨年の大統領選から1年を過ぎ、第4番目のアジェンダである武力抗争被害者への賠償問題は、今以て決着が付いていない。
半世紀にも及ぶ武力抗争で、22万人が死亡し、数百万人が国内避難を余儀なくされている、と言われる被害者(犠牲者を意味するlas víctimasで表現)を語るとき、和平交渉に関わるFARC幹部を含むリーダーらの免罪は不可、と言うのが政府や司法の見解だ。かつての恩赦を期待しても今の国際社会では通用しない、和平協議締結後は速やかに司法手続きに入り、懲役を含む判決には従うべし、と言う。FARCは、一日たりとも投獄は受け容れない、との立場にある。
この難問を抱えたまま、7月23日、第39回目の和平対話が開始された。FARCは、上記真実委員会の立ち上げを急ぎ、公平な検証が為されることを前提とした司法手続きで合意形成に舵を切りつつあるようだ。
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