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2015年2月17日 (火)

選挙の年に-アルゼンチン(1)

去る118日、ニスマンと言う検事が死亡した。至近距離から頭部へ銃弾が打ち込まれており、自殺説が有力のようだが、自らの遺体の近くに落ちていた拳銃は、アシスタントの所有物であり、身の危険を訴え借り受けたもの、とのことだ。

彼は2004年(2006年から、とする報道もある。ともあれ、フェルナンデス現大統領の亡夫、キルチネルの政権期)から、19947月に起きたアルゼンチン・イスラエル相互協会AMIA)本部襲撃事件(以下、AMIA事件)捜索を担当してきた。担当検事となって約10年経った今年114日、つまり死の僅か4日前に、フェルナンデス大統領や政権幹部らが、2007年にアルゼンチン政府の求めで国際刑事機構(インターポール)により出されていたAMIA事件への関与容疑者への逮捕状を無効化した、との告発を裁判所に行った。政権側は、インターポール逮捕状は今も有効で、告発には何の証拠も無い、馬鹿げたもの、と一蹴したが、19日、つまり死の翌日には、議会での証言に出席することになっていた。

彼の死亡には不可解な面が多い、実際には殺害されたのでは、と、1ヶ月も経ってなお、政権に絡む変死事件として、国内外のメディアが騒いでいる。大統領のフェルナンデス氏までが、彼の死にアルゼンチン情報機関の元エージェントの影を指摘する。何しろ軍政時代を含め辣腕を発揮してきた人物で、昨年末解任されたばかりだ。この事件を担当する検事は、彼に出頭を促しながら、未だに聴取できていない。 

この変死事件は、上述のように政権に絡む。要するに、AMIA事件に重要な役割を果たしたと思われるイラン要職者を、フェルナンデス政権が隠蔽しようと画策している、とイメージを高める。この事件の1週間後にスペインのEFE通信が伝えたある雑誌の世論調査では、不支持率が一ヶ月前に比べ11ポイント上昇、50%を超えたそうだ。

昨年12月に踝を骨折したフェルナンデス大統領が、車椅子で登場し、上記元エージェントを抱えていたアルゼンチン情報庁(SIDE)を解体する法案を議会に送った、と発表した。SIDEは、米国の中央情報局(CIA)のような機関のようだが、行政トップの統制が及ばない、と言われる。法案を送られた議会では、野党が審議に応じない、と伝えられる。変死事件にかこつけ、国民の眼から政権の隠蔽体質を逸らすための法案、と言う。与党は議会で過半数の議席を持つ。今年1025日、大統領と下院の半数、及び上院の三分の一を選出する総選挙が行われる。野党側は、法案が通っても、総選挙で議席を増やし、廃棄する、と公言している。 

大統領選では、フェルナンデス大統領は憲法上、連続三選は狙えない。有力候補4名を下記する(年齢は選挙時)。ただ、各政治勢力の正式な候補は89日の予備選で決まる。

1. 「勝利戦線(FpV)」シオリ・ブエノスアイレス州知事(58歳)

2. 「刷新戦線(FR)」マッサ下院議員(43歳。1年間、フェルナンデス第一次政権官房長官を務めた経験有り)

3. 「共和国提案(PRO)」マクリ・ブエノスアイレス市長(56歳)

4. 「急進党(UCR)」コボス下院議員(60歳。フェルナンデス第一次政権で副大統領)

今のところ、マッサ議員の人気が一番高いようだ。

議会戦では、上院(定数72議席)が三分の一の24議席、下院(同257議席)が半分の130議席が争われる。逆に非改選は上院が48議席で、この内与党FpV28、グループとしては計34を占め、2議席でもとれば過半数が維持できる。問題は下院(非改選127議席)で、単独42、グループ計50なので、改選議席の三分の二ほどを確保して漸く全体の過半数だ。

そこに、ニスマン変死事件が起き、フェルナンデス大統領の評判が大きく落ち込んだ。彼の告発後1ヶ月経ち、彼の同僚検事が彼の告発に基づく公訴(大統領を含む対象者への捜査)請求を裁判所に持ち込んだ。国内外のメディアは大々的に報じる。政権側が「司法権によるクーデター(golpe judicial)」と言おうが、国内の専門家が証拠に具体性の無い事案、とコメントしようが、国民の大統領を見る眼には険しさが募る。選挙の年、与党FpVには大変な逆風と言える。

コボス議員のUCRと中道左派政党との連合体、「UNEN拡大戦線」は、現有議席数が上院21、下院61で、FpV勢力に次ぐ。ペロン党非主流派を中心とするマッサ議員のFRの勢力は、夫々6及び34だが、今のところ支持率は上記4名の中で最も高い。マクリ知事のPROは同420だが、UNENとの連合も視野に入っているようだ。

(続く)

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