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2015年1月15日 (木)

米国の対キューバ関係正常化への動き(4)

112日、関係正常化交渉の開始に当たり、米国が解放を求めていたキューバ国内で収監されている(米国政府が「政治犯(political prisoners)」と規定する53名が、全員解放された、とのニュースが、外電で飛び交っている。米国がどう捉えようと、善悪はともかく、典型的な共産党一党支配の社会主義国では、旧ソ連・東欧や、現在でも中国、ベトナム同様、「政治犯」或いは(政権に対峙する)反対派(opponent)は有り得ない。従来キューバ政権は、反体制活動者(dissident)を、キューバの体制崩壊を目論む米国及び外国の右翼勢力による雇われ人(mercenary)と見てきた。社会主義国キューバでは、犯罪者、と見做される。

申し訳ないが、私はこの53名については、ロイターが1227日付けで初めて報じた時、変な話だ、と思った。ニュースの出所も、どうも反体制派グループのようだった。16日に米国の国務省報道官が、「キューバ政府は我々が求めた政治犯の解放を始めた」、と述べたニュースを報じた際、人数も対象社名も特定しない、と言っていた。そして112日、ケリー国務長官が一部議会メンバーに対し、実は釈放済みだった政治犯を含めて53名、と言う数字を明示した。報道官は、数週間、乃至数ヶ月前から何人かが釈放されていたこと、53名は米国のみならずヴァチカンが解放を求めた人たち、とも明らかにした。

加えて申し訳ないが、私は両首脳合意に伴い行われるのは、2012年にキューバ提案に繋がるCuban fiveの残り3名と米人グロス氏の囚人交換であり、キューバ人の米国スパイを加えたもの、とばかり思い込んでいた。オバマ大統領がそれまでの半世紀余りの愚策を反省し、国際社会が当然視する対キューバ制裁解除への道を切り開くもの、と取った。ラウル議長自身、オバマ大統領との合意事項が、キューバの基本的理念(社会主義体制)を変えず、進められる、と述べていた。 

去る12月末、パフォーマンスアーティストとして世界各地で活躍してきたキューバ人のタニア・ブルゲラ氏が、ハバナの革命広場で、「公開集会」を企画した。集まるキューバ人が、米国との関係改善交渉が開始されるのを機に、個々人の意見や希望を1分間ずつ、マイクを使って発言する、というものだ。収容人数が100万人を超える、とされる革命広場は、革命記念集会、メーデーなどの重要な政治イベントの会場として使われてきた。キューバ建国の父と言われるホセ・マルティの銅像と、チェ・ゲバラ他数名のキューバ革命の英雄たちの巨大画像が置かれている。そこで自由発言集会を開催しようと言う感覚に、私などは、キューバはここまで変貌したのか、と、驚くばかりだ。結局、申請を受けた当局はこれを認めず、関係者の逮捕、拘束に動いた。彼女も捕まった。拘束された人たちは数時間後、乃至翌日には解放されているが、この事件に外電がすぐさま反応した。また米国国務省も直ちに批判声明を出した。

米国政府が政治犯と見做す53名の大半の解放は、上記事件の僅か1週間後に始まり、僅か数日で完了した。そして上記の国務省報道官やケリー長官の発言である。米国が要求する反体制派(キューバ側に言わせれば、犯罪者)の解放を交渉開始の条件、とされながら、これを受けた。それも上記事件への米国の批判から間もなく、となれば、キューバ革命政権が、ついに米国の圧力に屈した、と捉えられても仕方なかろう。

ラウル氏の兄、フィデル氏の死亡説が、マイアミ辺りで流布されているようだ。今年に入って、アルゼンチンの元サッカー選手、マラドーナ氏が彼からの111日付け手紙を受領した、と言うニュースが、手紙の写真つきで、ベネズエラの体制派テレビ局が報じたのは、勿論死亡説を否定するためだろう。ただ、今回合意や53名の解放について、201312月、マンデラ元南ア大統領の葬儀の場でラウル氏がオバマ氏と握手を交わしたことを、直ぐ「素晴らしい出来事だった」と称えた人が何の発信も行っていないことが、私には気にかかる。 

「黒い春」http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2011/03/post-7a88.html事件ではカトリック教会とスペイン政府の尽力があった。対象者は75名の内の53名、奇しくも今回と同数だ(残りは彼らが動く前に健康問題などで釈放済みだった)。収監されている人たちも分かっていたし、国際人権団体からは「良心の囚人」扱いも受けていた。彼らの殆どが、国外に出て、一部は残留した。

20118月、その国内残留組の一人、フェレールガルシア氏(44歳)が他の残留組と共に立ち上げた「キューバ愛国同盟(UNPACU)は、今やキューバで最大、最も目に見える活動的な反体制組織、と目される。上記ブログで照会したエリサルド・サンチェス氏(70歳。非合法組織の「人権と国民和解のキューバ委員会(CCDHRN)」のリーダー)や、ハンストを繰り返したファリーニャス氏(53歳)ら、数千人といわれる。四半期ごとに拘留中の政治犯情報を提供するCCDHRNは、反体制派について最も精通した組織だが、サンチェス氏は53名のリスト作成の相談に預かっていない、と憤っている由だ。

また「黒い春」事件で組成された「白衣の女たち(Damas de Blanco)」は、相変わらず毎日曜日の街頭行進を続けており、一般市民への露出度の高い反体制組織となっている。そのリーダー、ベルタ・ソレル氏(51歳)に至っては、この度釈放されたグループのメンバーが53名に含まれているかも含め何も知らされておらず、米、キューバ両政府にリストを開示するよう、求めているほどだ。 

一体、53名はどうやって選ばれたのだろうか。ヴァチカンだろうが米通商代表部だろうが、反体制グループの協力抜きでは作れない。反体制グループはどんどん生まれているようで、前述の革命広場のイベント関係で拘束された人たちのグループも、私は寡聞にして知らない名だった。

ともかく、両国の関係改善のための協議は、12122日にハバナで開催される。キューバ側の状況がどうあれ、見守りたい。

 

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