マドゥーロの行脚-ベネズエラ
ベネズエラは1960年9月、サウジアラビア、イラン、イラク、クウェートの4カ国と共に石油輸出国機構(OPEC)を創設した、OPEC原加盟国の一つだ。それから54年、この機構に加盟しているのは上記5ヵ国を含め12ヵ国、2014年の原油生産量は日量3,000万バーレル、全世界の需要量のほぼ3分の1見当だ。
ご存知の通り、国債原油価格は2014年後半より現在まで、半額以上の大下落に陥っている。同年11月末のOPEC総会では、ベネズエラなどがさらなる下落を食い止めるため、として減産を主張した。これに、世界の石油需給バランスが崩れたのは、オイルシェール開発による石油供給量の増大が原因で、その開発意欲を削ぐことで価格は再上昇に転じる、として、サウジアラビアが強く反対し、合意形成に至らず、生産水準は維持された。これが、価格低下に拍車を掛けた。
ベネズエラの石油生産量はWikipedia英語版で2013年推計が日量300万バーレル、メキシコ(293万バーレル)より一つ上の、世界第九位と出ていた。OPECの1割、世界の需要量からすれば、3%、に相当する。国連貿易開発機構(UNCTAD)によれば、2013年のベネズエラの原油輸出額は世界第12位の679億ドル。同年の輸出総額が米国CIAのWorld Factbookによる推計では918億ドルなので、その75%に相当する。精製品も含めた石油輸出額は9割ほどだろう。
2014年の輸入額が前年(593億ドル)並であれば、同年に限ると貿易収支は黒字だと思われる。だが輸入物資が食料を含め不足状態にあり、通貨が極端に下落し、年率60%を超えるラ米諸国でも跳び抜けたインフレに苦しんでいる。治安も悪く、昨年2月から4月まで、学生を中心とした激しい抗議活動が展開され、死者43名、負傷者800名を出したことは記憶に新しい。まだ石油価格が高かった時のことだ。2015年では石油価格の下落で、貿易収支が赤字に落ち込めば、状況は厳しさを増す。
2015年1月1,2日、マドゥーロ大統領は先ずブラジルを訪問した。一義的にはルセフ大統領の二期目の就任式出席がある。チリ、ウルグアイ、ボリビアの大統領や、米国の副大統領も駆け付けた。だが石油価格下落の中での本来の目的は、ブラジルからの支援確保ではなかったか。ブラジルは経済的には2014年は前年の2.5%成長からゼロに陥った。中間層による抗議運動が、大統領が再選されても繰り返されている。彼はルセフ氏との首脳会談の場を得たが、経済面では多分野での協力関係の維持、発展という、漠とした確認以外に、どのような成果が得られたか、よく分からない。なお、経済成長については、ベネズエラはもっと酷い。マドゥーロ氏自身の後日の発表(1月21日。議会における念頭演説)でマイナス2.8%だ。
それから間もない1月4日、中国、中東訪問に出た。ロシアにも脚を運び、帰国したのは17日のことだ。彼本人は、必要な投資、輸入を継続し経済安定に必要とされる手段(Recursos)を獲得、諸国訪問は成功だった、と自賛している。一国の首脳が13日間も国を空け遠隔の国々を回った。成果無しでは済まされまい。
3泊4日も費やした中国では、習近平国家主席との首脳会談もあったが、200億ドルの資金支援確保、が成果と言えよう。ただ石油供給(現在日量536千バーレル)を前提としたスキームなら、現行の240億ドルから減額になるのではなかろうか。中東では、本来はベネズエラの同盟国とも言えるイラン、減産による価格政策に真っ向から反対するサウジアラビア、及びカタールとアルジェリアと、OPECの4ヵ国を訪れた。石油価格回復策で何か合意があったのかを含め、取り立てて何が成果だったかは、外電をフォローするだけでは分からない。ロシアではプーチン大統領との首脳会談を行ったが、何が成果と言えるのだろうか。
1月22日には、モラレス・ボリビア大統領の三回目就任式に出席、コレア・エクアドル大統領共々、米州ボリーバル同盟(ALBA)の南米加盟3ヵ国首脳が久し振りに合流する。ベネズエラは石油及びその制製品供給を通じて、ALBA加盟諸国11カ国の盟主の地位にある。だが、IMFの予測では、この国は2015年経済もマイナス7%、大変な苦境を強いられている。大統領の支持率は20%台で、秋口には議会選挙が待っており、内政的にも苦境にある。今後のALBAについて、何らかの首脳間協議は行われるだろうか。
就任式にはまた、ルセフ大統領も出席する。二期目の彼女が最初に訪問するのが、ボリビア、と言うことだ。自分自身の就任式に出席してくれたモラレス氏への義理からだろう。マドゥーロ氏がこの機会を利用するかどうかの推測は控えたい。
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