米国の対キューバ関係正常化への動き(3)
昨年12月17日の米国、キューバ両国首脳が関係改善への交渉開始発表時、アルゼンチンパラナ市でメルコスルサミットが行われており、AFPは集合した加盟諸国首脳が、これを、拍手を持って歓迎した旨伝えていた。12月14日のハバナでの「米州ボリーバル同盟(ALBA)」サミットに出席したメルコスル加盟国のベネズエラのマドゥーロ、加盟プロセス中のボリビアのモレロスの両大統領が、原加盟4カ国首脳共々、出席していた。いずれも、対米強硬派で知られる。
マドゥーロ氏は、オバマ大統領の提起は勇気有る、歴史的に必要なもの。彼の政権期で、多分最も重要な一歩で、「Estoy muy feliz。自分は幸せだ」とまで語っていた。発表翌日の18日、そのオバマ大統領は、議会が裁決し、マドゥーロ氏が激しく反発していたベネズエラ制裁法に署名した。これは、昨年2月から数ヶ月間に及ぶ学生を中心とするマドゥーロ政権への抗議活動http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2014/03/post-f9f2.htmlへの抑圧に関わった、とされる政府職員の一部に対し、米国への入国を禁じる、というもので、対キューバ制裁とは異次元の、制裁としてはごく軽微なものだ。
だが、国民の眼に及ぼす影響は大きい。上記抗議活動の元となったラ米域内最悪のインフレと物資不足、及び治安の悪さは続いている。そこに、国際石油価格の大幅下落だ。経済状況は一層悪化し、彼への支持率は30%を切った、と伝わる。本年秋口に議会選挙が行われる筈だが、3分の2近い議席を有する与党、ベネズエラ統一社会党(PSUV)には逆風だ。結果によっては、2016年に大統領リコール手続きも有り得る。
キューバは、命綱とも言うべきベネズエラで、「米州ボリーバル同盟(ALBA)」への関与見直しを主張する「民主統一会議(MUD)」への政権交代でも起きると、一大事に陥る。83歳にもなったラウル・カストロ議長としては、早めに手を打っておく必要に迫られたのかも知れない。そんな中、本年1月1日、ブラジルのルセフ大統領の二期目就任式に駆け付けたマドゥーロ・ベネズエラ大統領がバイデン米副大統領と挨拶を交わしていた、と、5日の朝日新聞の記事に出ていた。彼もまた、対米関係改善に動く必要性を認識し始めたのだろうか。
元々、マルビナス(フォークランド)領有権問題で、米国が英国を支持している上にNML Capital Ltdら、いわゆる「ハゲタカファンド」との債務問題を抱えるアルゼンチンのフェルナンデス大統領も、対米関係に苦慮する。それでも、ボリビアのモラレス大統領との二国間首脳会談の場で、対キューバ政策変更を発表するオバマ大統領を称え、「アルゼンチン国民、南米人、地球上のメンバー、政治活動家として、我々は」との枕詞を並べ、「estamos muy
felices。幸せに思う」、と言っていた。この国も10月25日に大統領と上院議員の3分の1、及び下院議員の半数を選出する総選挙が行われる。フェルナンデス氏は出馬できない。8月始めに行われる予備選で各政治勢力の候補者が決まる。世論調査では、彼女の「勝利戦線(FpV)」の有力候補と、彼女の第一期政権時代の副大統領で急進党を中核とする「拡大戦線UNEN)」の有力候補が夫々3割ずつの支持を集めているが、対米関係での違いは分かり難い。
ラ米最大国のブラジルのルセフ大統領は、第一期目の2011年の最初の訪米時、オバマ大統領に対キューバ制裁停止を掛け合ったことで知られる。また2012年の第六回米州サミットが、キューバ抜きでの最後、と強調した。彼女は2013年9月に、米国から国賓待遇での招待を受けたが、CIAによる盗聴事件発覚で訪米そのものを止めている。上述のメルコスルサミットでは、オバマ氏の対キューバ政策変更について、「壊れた関係を修復するのは可能、ということを示しており、文明の中で変革を見せる時だと信じる」とのコメントを発していた。第二期目に入ったが、経済情勢に陰りが見えるだけに、彼女への批判がまだ続く。なお彼女の労働者党(PT)は、2018年の次回選挙でルラ前大統領の復帰を進めている。
ラ米第二の大国、メキシコのペーニャニエト大統領は、メキシコ政府が支援し認めてきたことの決定的且つ歴史的な動きであり、両国の関係正常化に貢献する用意がある、とした。彼の制度的革命党(PRI)政権時代、キューバ孤立化の路線をとった米州機構(OAS)構成諸国の中で、唯一キューバとの外交、通商関係を維持し続けたことが正しかった、と強調するものだろう。今月6日、ワシントンでのオバマ大統領との首脳会談で、このテーマを取り上げ、最大限の貢献を申し出た。ゲレロ州のイグアラ市における地元警察による9月26日の学生襲撃事件は未解決状態で、抗議運動が続いており、ペーニャニエト政権も厳しい状況下にある。
そのOASは、加盟諸国は1970年代初めから徐々に二国間関係を再開し残るは米国のみになっていた2009年になって、キューバの資格停止を漸く解除した。米国は、キューバが民主主義条項を満たしていない、として消極的対応だったが、解除自体には反対はしない、との立場だったため、本来可能な復帰は、キューバ自身の判断で、実現していない。本年4月10、11日にパナマで開催される米州サミットにラウル議長が出席する機会を捉え、実現するのではなかろうか。インスルサOAS事務総長は、「オバマ大統領の意思だけで経済制裁はできず、議会による関連諸法の廃止手続きが必要」と冷静な見方を示しながら、廃止されることを期待する、と明言している。
ラ米諸国はどこでも、米国・キューバ間関係正常化を歓迎する。国連や欧州連合(EU)も然りだ。そもそも国際社会は、米国の対キューバ制裁自体を非難し続けてきた。現実的には、ここまで来たことを率直に評価し、両国間交渉を冷静に見守り、必要に応じ協力して行って欲しいものだ。
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