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2015年1月25日 (日)

米国の対キューバ関係正常化への動き(5)-二国間交渉

122日に、米国とキューバの外交関係回復交渉が行われたことは、日本の新聞でも報じられている通りだ。米国側はジェイコブソン国務次官補が、キューバ側はビダル外務省米国局長が、夫々の代表団の団長を務めた。125日の朝日新聞に、「思惑の差浮き彫り」として、同国務長官の翌23日の「キューバを自由で民主的な国にすること」との発言を、また、「人権状況を改善するようキューバ政府に圧力をかけた」とする声明を伝えた。後者についてはビダル局長の「キューバは圧力に屈しない」との発言も出ている。また、米国のテロ支援国家リストからキューバを削除するよう、強く求めた。

実際の会合では、米側が駐ハバナ米外交官に移動の自由を与えるよう要求し、キューバ側は反体制活動を促すようなことさえしなければ首都を離れても構わない、と応じ、且つ駐ワシントン利益代表部に銀行口座開設を認めるよう要求したこともあったが、双方とも、押しなべて極めて有意義且つ建設的な会合だったと評価し合いながら、解決すべき諸問題があり外交関係回復には時間がかかる、とした由だ。

ただ、翌23日、ジェイコブソン国務次官補がハバナに利益代表公邸で、外電ではよく名前が出るフェレールガルシア、エリサルド・サンチェス、ファリーニャス各氏ら7名の反体制活動家(dissident)と朝食を共にした。「白衣の女たち(Damas de Blanco)」のベルタ・ソレール氏は敢えて欠席したが、同グループの創設の元となった「黒い春」事件で逮捕され、後釈放されたメンバー3名と、その関係者1名が出席者に含まれる。キューバ側のビダル局長は、「彼らはキューバ国民を代表していない」として、早速、不快感を示した。同次官補は、その後外国ではよく知られる民主派のブロガー、ヨアニ・サンチェス氏、及び「黒い春」事件http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2010/06/post-1cb0.htmlの解決に仲介の労を取ったオルテガ枢機卿や、を訪問している。 

遡って116日、米国が講じた対キューバ規制緩和措置(一部については、http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2014/12/post-7f1b.html参照)が実施に移された。キューバ当局による「政治犯」53名全員解放を米国が確認して、4日後のことだ。

その翌17日には、米国議員団(上院議員4名、下院議員2名)の訪問を受けた。団長のリーヒ上院議員以下、全て民主党に属し、且つオバマ政権の対キューバ関係正常化路線を支持する人たちだ。彼らも118日には、同じ利益代表公定で、反体制活動家の15名と面談している。今回の米国の政策変更には彼らの中で意見対立が露呈された旨が伝わる。ここでは上記のソレール氏も出席し、関係正常化交渉を今行うことは、カストロ政権の強化に繋がる、として反対の態度を示した由だ。また上記のオルテガ枢機卿にも会った。だが折角のキューバ訪問だったが、ラウル議長には会えず仕舞いで19日に帰国している。

外交関係回復交渉の前日の21日、年に2度レヴューされて来た移住問題が協議された。キューバ側はビダル局長が団長を務めたが、米側はリー国務省次官補代理となっている。20年前に締結された協定(キューバ人の米国渡航希望者に発給するビザを年間2万人まで、などと取り決めたもの)の履行状況のフォローアップが主体で、外電だけでは中身がよく分からない。ただリー団長が「Cuban Adjustment Law1966年に定められ、76年に多少の変更が施された。キューバ人は米国のどの地点からでも入国を認め、移住は申請後1年間でこれを認める、とする優遇扱い。他国からだと入国地は特定されるし、移住手続きには数年かかる)」は維持する、と発言し、これにビダル氏が、同法は「違法移住を唆すもの」として攻撃したことが伝わる。有名な「dried foot wet foot」ルール(ボートなどでビザ無しで米国上陸を図るキューバ人を強制送還するのは、海上で拘束された場合のみ。一旦上陸すれば入国を許可するもの)が、同法に基づくものかどうかは、私は存じ上げない。 

お互いの政治姿勢がどうあれ、外交関係は回復されよう。若し冒頭の「自由で民主的」、「人権状況」が関係回復の条件、となれば、旧ソ連・東欧圏諸国や現在も続く中国、ベトナム、或いは長期に見られた長期独裁国家群との外交関係を維持し続けた米国の、外交政策の矛盾となる。122日の交渉の前日、ケリー米国務長官は、近いうちの大使館再開に期待していること、また適切な時期にロドリゲス・キューバ外相との会談の用意があることを明言していた。加えて4月の米州サミットだ。こと、この点に関しては、私は楽観している。 

116日に発効した制裁緩和措置について述べる。

非キューバ系米人の渡航に取得が義務付けられていた「特別許可証」(財務省が発行。取得に数ヶ月かかり、渡航希望者の意欲を削いできたもの)発行が撤廃された。これにより今後の渡航者数(キューバの統計では、年間9万人なのだそうだ)が3倍増、と囃す旅行会社の話が伝わる。外国人のキューバ渡航者数は300万人を超える(出身国別の数字は存じ上げない。最多とされるカナダ人が100万人辺りだろうか)、と言われる中、随分と小さな数字だが、本来米国民にはキューバ渡航が禁じられている。この中では大いなる前進、と言えよう。

情報通信分野の関連物資の輸出も解禁された。但し、キューバの民間企業や個人に対するものだ。認められる米国からの投資も然りで、農業分野も含まれる。貿易や投資が国家機関に集約されるキューバで、実効性がいかほどのものかは、私には分からない。

ただ家族送金(これまでの四半期500ドルが2,000ドルまで4倍増)や渡航者によるキューバ産品の土産購入などで少なくとも外貨収入は増えるし、対米関係変化の機運が盛り上がることは確かだろう。良い方に考えていきたい。

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