二つのサミット-イベロアメリカとUnasur
12月9日、メキシコのベラクルスで開催されていた第24回イベロアメリカサミットが閉幕した。スペインの前国王、フアン・カルロス一世の熱意で、欧州と旧スペイン・ポルトガル植民地諸国を繋ぐサミットとして産声を上げた1991年から、毎年開催されてきたが、2013年10月の第23回サミットには、イベロアメリカ(以下、ラ米で表記)十九ヵ国のうち11ヵ国の首脳が欠席するなど、ここ数年、このサミットの意義と持続性が疑問視されてきた(http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2013/10/post-6c7f.htmlご参照)。
今回のサミットには現スペイン国王フェリペ六世が初めて臨んだ。レベカ・グリンスパン(コスタリカ元副大統領)二代目事務総長も然り。ある意味で重要な会合だった、と言える。それでも6ヵ国の首脳が欠席した。またエルサルバドルのサンチェスセレン大統領は体調を崩し、途中で帰国している。
欠席については、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアの3カ国は常連だ。メキシコ及びスペイン両政府は、キューバ政府に対して、ラウル・カストロ議長への、閉会式だけも、との出席説得に努めたそうだが、奏功しなかった。ボリビアにも、23回欠席同様、理由はある。アルゼンチンは今回又してもフェルナンデス大統領の健康問題が背景に有る。何しろ11月下旬にオーストラリアで開催されたG20サミットにすら欠席した。世界主要19ヵ国の一角にアルゼンチンが入っていることを誇る彼女としては、G20への欠席は厳しい選択だったかも知れない。ともあれ、だから少なくともこの5ヵ国については欠席で騒ぐことはあるまい。ただ域内最大国のブラジルも前回同様、欠席だ。気にはなる。
ホスト国のメキシコは、9月26日に起きた教育大学生襲撃事件に揺れている。何しろ、ゲレロ州イグアラ市の市警が捕縛した43名が2カ月以上も行方不明で、実は彼らを地元の麻薬組織に引き渡した可能性が濃厚となり、麻薬組織に繋がった警察、その背景に市長夫妻有り、とのとんでもない図式が公然と語られる。捕縛前には学生数名が殺害され、行方不明者の内1名の遺体が出て、他も生存が絶望しされている。よく分かっていないことが多いが、これがペーニャニエト政権の責任を問う事態へと発展し、各地で反政権抗議活動が起きている。サミットでは、この件についての指摘は一切行われなかった。
このサミットで、ラ米の2014年経済成長が1.1%の低水準に終わる見通しで、内、ベネズエラがマイナス3%、アルゼンチンはマイナス0.2%で、ブラジルはプラスだが僅か0.2%、との国連ラテンアメリカ・カリブ委員会(ECLAC)報告が披瀝された。OECDのグリア事務局長(メキシコで外相、財務相を歴任)が出席し、太平洋同盟諸国(メキシコ、コロンビア、ペルー、チリ)のように、成長度合いの高い国もある、と指摘しながらも、ラ米は構造改革に取り組むべし、と訴えている。
12月4日、エクアドルのグァヤキルで南米諸国連合(Unasur)サミットが開会され、5日にはキトに移り、首都圏北部にあるCiudad Mitad del Mundo(赤道直下の町、の意。同名の記念碑で知られる)に約4千万ドルをかけて建設されたと言われるUnasur常設本部の開所式が行われた。本部は初代事務総長の故キルチネル前アルゼンチン大統領の名前が冠され、業務は2015年1月に開始される。上記イベロアメリカサミットに欠席のフェルナンデス大統領は、これには出席し、謝意を述べた。グァヤキルでは、持ち回り議長国のスリナムからウルグアイへの交代式が行われている。
サミットには加盟12カ国首脳の全員が出席した。ただ、チリのバチェレ、ペルーのウマラ両大統領は、キトの行事には出席せず帰国した。またウルグアイのムヒカ大統領もキトには寄らず、メキシコに向かった。79歳と言う年齢を考えて2,850メートルの高地行きを避けたのか、健康問題を理由にしている。
Unasurは、メルコスルとアンデス共同体(CAN)の如く経済統合体を超えた、欧州連合(EU)のような地域統合を目標に創設された(私のホームページラ米の地域統合のUNASUR、ALBA、太平洋同盟をご一読願えれば幸いです)。このサミットでは共同宣言文に、功労者たるルラ・前ブラジル、故チャベス・前ベネズエラ大統領、そして上述の故キルチネルを称える文言が入った。ただ組織としての行動が、どうもよく分からない。なるほど、同宣言文に、域内における諸国民の往来、就職、就学の自由に向かう、として、新事務総長のサンペール元コロンビア大統領の持論とされる「ciudadanía suramericana(南米人)」構想を打ち上げた。ただそれに至る道筋は、期限を含め、不明だ。また、防衛協力推進のため、として「南米防衛学校」の創設も決議されたが、時期、規模などはどうなっているだろうか。
出席した各国首脳は演説で、統合の重要性を、石油価格下落に対する処方箋までも含め、縷々述べる。ただUnasurとして組織的に取り得る具体策が出るわけではない。ホストのコレア・エクアドル大統領は、世界における不正義に対抗するためにも地域の結束は不可欠であり、南米統合は後戻りできぬ、としながら、Unasurでは何らかの決議には全会一致が必要で、組織として効果的機能が果たせていない、として、制度改革を訴えた。
以上、二つのサミットでは、ハバナで行われているコロンビア政府とコロンビア革命軍(FARC)との和平交渉支援への意志が表明された。特にUnasurのサンペール事務総長には、自国の5百万人とも言われる国内難民を生じさせた内戦終結への思いは強い。イベロアメリカサミットでは、20万人の大学生交流計画も、教育・文化交流促進の一環として発表された。加盟諸国首脳が集まる、と言うだけでも、意義深い。だが、どうしても機構、組織面での脆弱さが目に付く。
イベロアメリカサミットは、次回よりは2年毎の開催となる。Unasurには今まで常設本部すら無かったし、議会はボリビアのコチャバンバに建設中の段階で、統合体としてはEUに遠く及ばない。私などはメルコスルとCANとの統合が現実的とも思える。
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