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2014年10月 9日 (木)

ルセフとネヴェス-ブラジル大統領選の行方(2)

105日のブラジル総選挙で、ルセフ大統領(労働者党、以下PT66歳)が得票率42%、第二位は34%を獲得したアエシオ・ネヴェス上院議員(ブラジル社会民主党、以下PSDB53歳)で、この二人が三週間後の1026日の決選投票に進むことは、日本の新聞でも大きく報しられた。つい一週間前までの世論調査で二位を走っていたシルヴァ前上院議員(ブラジル社会党、同PSB56歳)は21%の第三位で、レースから退場した。番狂わせとは言えない。10月に入って行われた世論調査では、全て、ネヴェス候補が彼女を僅差で上回るようになっていた。それでも得票率で13ポイント差が付いたのは、予想外と言える。 

http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2014/01/20142-6825.htmlで触れたシルヴァ候補の台頭だが、蓋を開けると、2010年選挙の得票率19%を2ポイント上回っただけで終わった。上記ブログを書いた時点から半月間、第一回目投票でルセフ候補と拮抗、決選投票で勝利、との世論調査結果が続いた。9月下旬になって失速するが、それでも決選投票進出は間違いない、と思える状況にあった。メディアは、ルセフ候補によるネガティヴ・キャンペーン(ブラジル史上、これまでに無かったほど激しかった、と報じるメディアもある)が奏功した結果、と言う。曰く、3年間で4回も政党を変えた節操の無さ。曰く、財源を示さぬ政見。曰く、政策立法化に必要な議会における支持政党の薄弱な基盤。曰く、一時的経済低迷をルセフ政見の失政と決め付ける一方、説得力のある対案を示さない無責任さ。

シルヴァ候補が失速して上向いたのは、しかし、ルセフ候補ではなく、もう一人の対立候補、アエシオ・ネヴェス候補だった。世論調査では、9月末まで20%以下だったこの人への支持率が、急上昇した。

彼の母方の祖父は、1985年ブラジル民政復帰後の初代大統領、タンクレド・ネヴェスだ。ご周知の通り、ブラジルは軍政時代も議会は機能し、大統領も、議会を中心とする選挙人団による投票で選出されていた。ただ、大統領は軍人に限られ、政党は196579年は軍政与党(ARENA79年の政党法改正で社会民主党(PDS)に名称変更)と公認野党(MDB。同、PMDB)しか認められていない。祖父は下院議員(6379年)、上院議員(7982年)、ミナスジェライス州知事(8283年)を経て、直接選挙運動に身を投じ、まだ選挙人団による選挙だったが、文民でありながら85年の大統領選にPMDBから出馬、当選した。ただ就任せぬまま同年4月に死去した。

彼の父親アエシオ・クーニャ氏も1963年から民政復帰の後の87年まで下院議員を務めた。義父と同じく公認野党MDBPMDB)に属した。

彼が父親の後を継ぐ形で、下院議員として政界に入りしたのは、87年のことだ。弱冠26歳だった。やはりPMDB から出ている。1988年、PMDB 非主流派が社会民主党(PSDB)を創設、彼も、どの段階か、この新党に移籍し、2003年、42歳で、同党からミナスジェライス州知事選に出て当選、祖父と異なり、二期を務め上げた。11年からはやはり祖父同様に上院議員に進み、13年、53歳で同党の党首になっている。毛並みも経歴も、正しく政界のエリート、と呼ぶに相応しい。 

やはり決選投票でPTのルセフ候補とPSDBのセラ候補とが激突した2010年選挙を振り返ってみたい。前者の第一回目の得票は47%で、決選投票ではこれに9ポイント上積みした56%、後者は11ポイント上積みの44%だった。今回同様に第三位だったシルヴァ票の19%分が、そのまま分散された格好だ。ただ、彼女を担いでいたのは小党の「緑の党」だったことで、19%の殆どは、いわば「マリーナ(シルヴァ)人気」の票だった、と言えよう。組織的な締め付けは考え難い。

今回、彼女を担いだPSBは、先ず先ずは中堅どころの政党だ。今回の同党得票率がどれほどか、今のところ分からない。だが彼女の21%の、少なく見積もっても3分の1は、同党の組織票だろう。その党が8日、幹部29名による投票で、決選投票ではアエシオ・ネヴェス(以下、ネヴェス)候補を押すことを、組織として決めた。一方、ルセフ候補の第一回目の得票率は、それよりも2010年より5ポイント下った。彼女が決選投票で勝つには、8ポイントを超す上積みが必要だ。総選挙直前のDatafolhaによる世論調査では、決選投票はルセフ53%、ネヴェス47%、となっていた。PSBのネヴェス支援発表の前であり、これより拮抗、乃至は逆転も有り得よう。

12年間に及ぶPT政権にうんざりしている経済界の期待は高そうで、ブラジルの株式市場は上昇、ブラジルの通貨、レアルも上がった。ルセフ大統領に何故か批判的な欧米メディアも、かかる状況を好感しているようだ。 

ネヴェス氏の政見の中で注目したいのは、大統領の任期を5年にし、再選は禁じる、と言う点だ。元々、そうだった。連続再選を認め、一期を4年とするように変えたのは、彼のPSDBのカルドーゾ第一次政権下の19976月のことだ。シルヴァ氏がかかる条件付けをしている、と報じられるが、聊か、唐突な感じがする。また、彼は市場経済を奉じ、経済活動への政府の介入を最小化する、小さな政府を目指している、とされる。確かにシルヴァ氏の選挙キャンペーンでは自由主義経済活動の推進、を掲げ、だから欧米メディアの好感を得ていた。だが、PSBは、実は政治思想面では左派に属する。その支持者たちが、彼の小さな政府路線を支持していくのだろうか。ルセフ陣営にはPSDB以上に右寄りで、且つ、現在議会第二党の地位にあるブラジル民主運動党(PMDB)が入っているし、あまり気にすることもないとは思うが。

ところで、ブラジルの条件付給付金制度(Conditional cash transfer)でボルサ・ファミリア、と呼ばれる子供手当て制度がある。6歳から15歳までの子供に予防接種と通学を義務付け、見返りに一定額を給付するものだが、世界各国に広がった。PTのルラ前政権の目玉政策と言われるが、元々ボルサ・エスコラと呼ばれ、やはりPSDBのカルドーゾ政権が始めた。1,200万家族が受益する、世界最大規模のプログラムとされる。大きな政府の代表的な政策ではなかろうか。ネヴェス氏は、これへの継続性を持たせる為の法制化をうたう。

最近ロイターがルセフ大統領とネヴェス氏の政見の違いを纏めて報じてくれた。だが、実は両氏の間の違いが、よく分からない。上記もその一つだ。ともあれ、決選投票の行方が最も見え難い選挙、とまで言われるが、その通りだろう。

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