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2014年8月31日 (日)

マリナの台頭-ブラジル大統領選の行方

105日、ブラジルで総選挙が行われるが、ルセフ大統領(労働者党、以下PT66歳)の連続再選が危うくなって来た。元々国内外のビジネス界では彼女への評価が低いところに、昨年央からの中間層を中心とする反政府運動の中であっても、彼女の勝利を疑う向きは少なかったのではあるまいか。そこに登場したのが、環境保護活動で知られるマリナ・シルヴァ前上院議員(ブラジル社会党、同PSB56歳)で、この829日に発表されたDatafolhaによる世論調査では、総選挙での第一回投票でルセフ氏と並び、決選投票では10ポイント差をつけて勝利、と出た。他の調査会社2社の最近の世論調査でも、第一回投票でルセフ氏に肉薄し、決選投票ではシルヴァ氏の勝利、としている。 

シルヴァ氏は、2010年大統領選にも緑の党(PV)から出馬し、19%の得票率で三位につけた(http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2010/10/2010-23c1.html参照)。アマゾンの環境保全に取り組む彼女は、行政官から大統領になったルセフ氏とは異なり、アクレ州リオブランコ市会議員、同州議会議員、連邦上院議員を歴任、生粋の政治家だ。軍政時代の1982年にルラ前大統領が立ち上げたPTに、その3年後、27歳で参加、初めて上院議員に選出されたのは199410月、36歳だった。任期は8年だ。200210月、連続再選された。1994年も2002年も、上院議員は各州から2名ずつ選出された。私の理解に間違いなければ、この場合、各政党から2名ずつ州毎の候補者が指名され、その中から州内有権者が2名選ぶことになる。比例代表制でこそないが、政党指名を得られなければ、立候補できない仕組みだろう。彼女を指名したのはPT、と憶えておきたい。

ルラ前大統領の政権下では、環境相を務めた(在任20031月~085月)。ルセフ氏はその間、鉱山エネルギー相、大統領府長官を務めており、いわば同僚だった。20085月、環境相を辞任したが、ルラ政権下でアマゾン開発を進める当時のマンガベイラ・アンガー国家戦略担当相らと相容れなかったため、と言われる。辞任後党内では浮き上がった存在となり、上院議員の身分のまま、翌098月、PVに移籍した。だが、10年選挙敗退から3年経ち、政治思想面で肌合いが合わぬPVとは袂を分かった。新党結成を準備中のところ、2014年選挙には間に合わない、とのことで、ルセフ政権を離脱したPSBに参加、今回選挙では同党のカンポス大統領候補とのペアで副大統領候補として出馬した。

カンポス候補自身は、ルセフ氏にも、ブラジル社会民主党(PSDB)のアエシオ・ネヴェス上院議員(53歳。1985年のブラジル民政復帰後初の大統領で、就任後3週間で死去したネヴェスの孫に当る)にも脅威ではなかった。ルセフ対ネヴェスの決選投票に進むことは、ほぼ確実視されていた。ところが813日、カンポスが航空機事故で死去した。21日、PSBは彼の代わりに彼女を大統領候補に立てた。 

ルセフ陣営は「人民の力と共に」との名称で、彼女のPT(議会上院で第二党、下院で第一党。以下、同)の他、ブラジル民主主義運動党(PMDB。第一党、第二党)などの9政党から成り、現有議席数は上下両院とも6割を占める勢力だ。しかも彼女は、ルラと言うカリスマ政治家が後ろ盾だ。これに対するシルヴァ陣営の「ブラジルのための結集」は、6政党から成るが、PSB(第九党、第七党)という小政党を筆頭とした小勢力に過ぎない。強力な後ろ盾も無い。そもそも、彼女自身は四半世紀近く、PT の中で政治家としての地歩を築いてきた。そのPT の候補であるルセフ氏より、同党との付き合いは遥かに長い。同党が推す候補と、一度ならず二度までも戦う。加えて前回、彼女を大統領候補に引き上げたPVをあっさり袖にした。何とも節操が無い、と思われないのだろうか。それこそが、彼女の魅力と映るのだろうか。 

彼女はポルトガル系とアフリカ系の血が混じっているそうだが、本人は黒人、と申告している由だ。外見上、米国のオバマ大統領よりも黒人に近い印象を受ける。最近ブラジルでは黒人、乃至その混血が過半数に達したようだが、若し大統領になれば黒人としては初めてのことだ。アマゾン地帯の貧困家族に生まれ、幼くしてゴム農園に駆り出され、読み書きを覚えたのは16歳になってから、と言う。アマゾン熱帯雨林保存活動家として、ブラジルではよく知られるシコ・メンデス(Chico Mendes1944-88)に付き、森林破壊反対運動に加わり、政治家となっても自然保護活動家として国内外で知名度を上げてきた。環境保全に功績のあった人に贈られる国際的な賞を幾つか獲得している。 

ブラジルでも既成の有力政党に反発する、いわゆる無党派層は多いようだ。民政移管が行われた1995年以降、先ずPSDB8年間、次にPT12年間、政権党の座にある。無党派層は、この政治状況を変え得る政治家を待ち望んで来ている、と言う。ある世論調査会社によれば、若者を中心に、有権者の3分の1に上る。PSB支持層と、シルヴァ氏個人の支持者に加えた潜在勢力、と言えよう。

今回の総選挙では、任期4年の下院の全513議席と、任期8年の上院(定数81議席)の内27議席が改選される。下院は欧州やラ米では一般的な比例代表制を取り、今は小政党に過ぎないPSBの大幅議席増はあろうか。2010年選挙では、彼女が2割近い集票力を見せ付けたのに、PVの得票率は前回比僅か0.2ポイント増の3.8%に留まり、議席は下院のみ13から15への微増に終わり、州を一つの選挙区とする上院は、引き続きゼロだった。またブラジルは、議席を有する政党が下院では21、上院でも15ある多党時代にもある。何らかの地殻変動は起きないだろうか。

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