アルゼンチン債務問題(3)
アルゼンチンのリスケ債保有者に対する支払が、当該金額を委託されていたニューヨーク・メロン銀行により実施されない状態は、支払期限から30日間のグレースピリオドが終わった7月30日までに実行されず、同国は再びデフォルトに陥った。同銀行は、ニューヨーク地裁の一人の判事の命ではあっても、これに従わねば違法行為になるのだから、実行できる訳が無かった。
実は、そのグリーサ判事が土壇場で支払を認めるのではないか、と、私自身は密かに期待していた。市場から二束三文で購入した国債を額面で交換することを専らとするファンドの言いなりになる判事が、世界最大の経済大国であり、世界の金融市場の本拠であり、民主国家の鏡、国際社会のリーダーを自負する米国に存在し、最高裁がその判決を追認し、政権は司法権の独立を盾に黙認すること自体、債務問題に苦しむ世界の多くの国々への脅威だ。アルゼンチン政府が「ハゲタカファンド」とは話し合わない、と言うのを、この判事も最高裁も、当事者同士で話し合うべし、と呼び掛けていたが、こちらが本当の判決だ、と、解しようと思ってきた。
そして、29日と30日の二日間、キシロフ経済相を団長とするミッションを送ったアルゼンチンは、この判事が指名した調停役のポラック氏と共に、原告のファンドとの話し合いの場を持った。だから期待した。同経済相は、まさにその29日、カラカスでのメルコスルサミットにフェルナンデス大統領に同行する立場だった。メディアは驚きを持って彼がニューヨークに赴いたことを伝えた。原告に対し、リスケを引き受けた債権者同様の条件をオファーした。何しろ本年12月31日までそれ以上の条件提示を禁じた、いわゆるRUFO条項(Rights Upon Future Offers)がリスケ時に取り決められている。30日には、アルゼンチンの民間銀行協会(ADEBA)代表団も加わり、原告が保有する債権の買取り案も出た。だが、結果的に話し合いは決裂となり、ポラック氏が、これでアルゼンチンはデフォルトに入った、と述べた。
日本時間の31日朝7時のニュースで、格付け会社のスタンダード&プアー社(S&P)が、アルゼンチンがデフォルトを起こしたため、同国国債の格付けを、SD(selective default。選択的債務不履行)にダウングレードした、と伝えた。つまり、債務者が選択した債務については支払不履行を起こしたが、その他については履行するだろうとS&Pは判断する、と言うものだ。外電を負い掛けると、これはニューヨーク・メロン銀行の営業時刻終了をもって発表された。そして、キシロフ経済相が直ちに反応した。債務者としての義務は、アルゼンチンは果たした(支払期日前、約定通りに同行に振り込んだ)、債権者に支払われなかったのはニューヨーク地裁のグリーサ判事が同行に差し止め命令を出したからで、これはデフォルトとは言わない、と反論した。
ともあれ、何もS&Pが判断せずとも、他債務は履行されている。7月26日には5月にリスケ合意していたパリクラブ債務の第一回目支払い(AP電によれば、金額は6.4億ドルの由だ)も行われた。最近の外電を追い掛けると、不履行金額は5.4億ドルに限定されている。8億ドル送金した筈で、差額分は支払われていることになる。ペソ建て分は、ニューヨークは関与していない筈で、外貨建てでもニューヨーク以外での決済もあろう。何も騒いでいないところをみると、支払われていると見て良い。
メディアが伝えて来ないことに、RUFO条項があるから来年1月まで交渉はできない、とのアルゼンチンの言い分についての、判事、ファンド、調停役の見解が有る。29日のメルコスルサミットで出された、アルゼンチンへの連帯と支持の特別宣言、米州機構(OAS)を含む(但し米・加を覗く)域内統合体のアルゼンチンの立場への支持表明にしても然りだ。アルゼンチンのみならず、債務問題を抱える国々に与える影響についても、そうだ。原告への100%支払命令の根拠として、グリーサ判事がパリパス条項を挙げることへの疑問も述べない。
或いは、どう見ても「ハゲタカファンド」としか言えないファンドの言い分を認める一地方裁判所の判事の判決に、米国政府や銀行が唯々諾々と従うことへの掘り下げも無い。債権者の内、リスケに応じた92~93%と言う圧倒的多数のコメントも取らない。第一、リスケの中身も70%棒引き、程度しか述べない。現在の債務情況の実態も極めて大雑把だ。
米国で、最高裁判所までが認めた判決であり、司法決着済みのことに突っ込む必要も無い、との構えかも知れない。それにしても、グリーサ判決に対してアルゼンチンが行った上告は、最高裁が棄却したが、その際には何の理由も示さなかった由だ。これも多少は掘り下げが欲しい。
IMFのラガルド専務理事が明言したが、アルゼンチンのデフォルトが世界経済に及ぼす負の影響は殆ど無いだろう。アルゼンチンが国際金融市場から疎外されるのは、これまでの十数年間と同じで、普通には高い貿易黒字から得られる外貨準備を使っての債務支払を粛々と行い、より健康体になっていくことを願いたいところだが、ペソ下落が続きインフレはベネズエラに次ぐ高水準だ。気にはなる。上記のRUFO期限到来後、何とかなれば、と思う。
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