コロンビア大統領選
5月25日、国際的な関心を集めるウクライナと同じ日に、コロンビアでも大統領選挙が行われた。FARCとの和平対話の今後を占う重要な選挙だ。結果は、これに否定的なスルアガ元蔵相(55歳)が得票率29.25%で、これを進めるサントス大統領(62歳)の25.69%を3.5ポイント上回り、第一位だった。投票率が白票や無効票を入れても40%で、前回2010年大統領選より10ポイント下がった。今年3月9日の議会選では44%だったが、それよりも低い。投票率が低いのは、この国の選挙の特徴でもある。それでも米州機構(OAS)が気にしている、とも伝えられる。ともあれ、この二人が6月15日の決選投票に進むことになる。
サントス大統領は、彼の「国民社会統合党(la U’)」、今回彼を支持する「自由党」及び「急進変革党(CR)」を加えた「国民統合」で出馬した。上記議会選では、la U’が得たのは上院定数102議席中21、下院定数164議席中39だったが、「国民統合」で見ると、夫々47、92、上院でこそ過半数に若干満たないが、下院では6割近い(英文Wikipediaによる。全国選挙評議会(CNE)のホームページでは見つからず)。つい最近まで、彼の圧倒的優位は動かしがたかった。
http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2014/03/post-4a0a.htmlでもお伝えしたように、彼はペトロ・ボゴタ市長を3月に解任した。高等司法評議会が地方裁判所の判決を棄却したことへの行政措置だが、解任には慎重な手段が講じられるべき、との国際人権委員会の意見書をもとに、速やかなる地位回復をボゴタ最高裁判所から出され、4月には復権させた。ともあれ民選市長の地位を一行政部門が脅かす、という、国際的には理屈の通り難い問題の処理が行われていた。これも選挙戦上はサントス有利に働いた筈だが、彼の優位が萎んだのは、実はこの後だった。
スルアガ候補は、ウリベ前大統領が対FARC対話路線を取るサントス政権に反発し、自ら創設したla U’を離党してまで結成した「民主センター(CD)」から出馬したが、上記議会選でのCDの獲得議席は上院こそ同数第二位の19だが、信じがたいことに下院は第六位、12に過ぎない。連合相手はいない。何が彼を第一位に引き上げたのだろうか。ここ一月の間、スルアガ陣営では、選挙キャンペーンの参謀がメールの違法傍受のスパイ罪で起訴された。だがサントス陣営でも参謀の麻薬組織の献金(本人は否定)スキャンダルが起きた。22日、初めての候補者テレビ討論会が行われ、サントス氏が公然とスルアガ氏をウリベ氏「操り人形」扱いする、大統領らしからぬ態度が見られ、評価を下げたようだ。いわば敵失の為せる技かもしれない。
そもそも、サントス大統領はウリベ政権時代の国防相、スルアガ候補は蔵相、いわば同僚だった。ついでながら、今回選挙で第三位に着けたのは、伝統政党である保守党のマルタ・ラミレス前上院議員(59歳)で、得票率は15.52%だったが、彼女もウリベ政権下で1年強、国防相を務めたことがある。また議会にはウリベ与党のla U’から出た(退任後、元の保守党に復帰)。つまりこの3人全てに、ウリベ前大統領の、いわば息が掛かっている。この3人だけで、7割もの票を得ている。経済社会政策面では、大きな違いは無い。違うのは、ゲリラ組織との和平に対する姿勢だ。
ウリベ氏の存在力の大きさには眼を瞠るものがあろう。ウリベ氏は上記議会選で上院議員になった。大統領経験者には極めて異例のことだろう。この国では、私は寡聞にして聞いた事が無い。そのウリベ氏はFARCには頑なな対応を取り続ける。一方で、政権時代には「コロンビア自衛組織連合(AUC)」の武装解除を断行し、国内治安は好転、彼の寝食を犠牲にしたともされる熱心な仕事ぶりもあって、国民支持率は任期終盤にあっても高まる一方だった。
良し悪しや好悪は別として、FARCの存在感も高い。この組織の前身が結成されたのは50周年も前のことだ。反政府武装勢力がこんなに長く続くものだろうか。力で抑えようとしたウリベ政権時代、確かに兵力が殺がれはしたが、今なお8千人を抱える。歴代の政権も、自警団(パラミリタリー)を使ってまで制圧を試み、失敗を繰り返した。自警団による人権侵害、という副作用も生んだ。「国民解放軍(ELN)」も長い。結成年という意味ではFARCより若干前になる。
5月16日、大統領選の9日前、FARCは政府側とのハバナでの対話で、麻薬問題の解決に関わる合意を得た。和平の5テーマの内、農業政策(2013年5月決着)と政治参加の保証(同、11月)が既に合意されており、残るのは内戦犠牲者への保障、及び武装放棄の2つのテーマだけとなった。全項目についての和平協定が年内に実現する可能性は高まっている。
この日FARCは、和平対話には未参加のELNと共に、大統領選が平穏に行われるように、と、5月20日から28日までの一方的停戦を決めた。サントス再選を支える意図は明白だったが、反発する有権者が多かった、との見方もある。
スルアガ氏は、FARCとのハバナでの和平対話を、彼らが武力行使の放棄を宣言するまで中断する、と言ってきている。且つ、ゲリラ幹部は服役せねばならない、とも言う。彼らを誘拐、テロ、麻薬と結び付けてとる国民には頼もしい。だが、幹部が服役すれば、和平は、一体誰と進められる、と言うのだろうか。加えて、議会勢力を考えると、彼の指導力には限界があろう。他党の協力を得る必要がある。サントス氏は議会勢力についての懸念は小さいが、肝心の決選投票では、やはり他党の協力が不可欠だ。
l 保守党:ラミレス候補は、自らが当選すれば4ヶ月間は和平対話の猶予を与えるがそれ以上は待てない、と言って来た。スルアガ氏に近いと言える。議会では上院19、下院27議席を得ている。
l 「民主代替の極(PDA)」:クララ・ロペス前ボゴタ市長(63歳)。第四位ながら、得票率はラミレス候補と拮抗する15.25%。対話継続に前向き。彼女は上記ペトロ市長同様に行政監察庁により解任されたモレノロハス元市長の正式後任として、サントス大統領から指名を受けた人だ。PDA自体はゲリラ組織だったM-19を前身としている。議会では上院5、下院3の小党ではあるが、FARC の武装解除、政党化には自らの経験も生かせよう。
l 「緑の連合」:ペニャロサ元ボゴタ市長(59歳)は8.29%の第五位に終わり、党自体も議会では上院5、下院6の、やはり小党の一つに過ぎない。だが、彼とロペス候補の票を足せば、計算上サントス氏の過半数獲得は可能となる。