ベネズエラの反政権抗議活動(2)
昨日4月17日の朝日新聞の朝刊の国際欄に、ベネズエラの反政府抗議活動の記事が大きく載った。一触即発の様相で眼が離せないウクライナ情勢が紙面を賑わしているが、反ヤヌコヴィッチ運動が大統領追放、ロシアのクリミア併合、東部諸都市での武装分離運動、と展開する状況下で、ベネズエラの動きを報道してくれた。
ベネズエラにはウクライナとは事情が全く異なる。親欧・反ロと親ロ・反欧という、お互い歩み寄れない対立軸や、ロシアという強大国が直接介在する領土や民族の問題が、ベネズエラには無い。反政権抗議運動が本格化して既に2ヶ月以上が経過したが、41名の犠牲者や数百人の負傷者は出しているが、武力抗争には発展していない。ただ、親政権・反政権両派が憎み合い流血をもたしているのに、国際社会が動かなかったことは、私には不思議だった。マドゥーロ大統領が内政干渉を嫌ったことも一因だろう。一年前の大統領選で僅差敗退したカプリーレス氏が、何時までも彼を大統領として認めようとしないように、妥協を嫌う国民性もあろう。この点、何やらタイに似た気がしないでもない。それにしても、だ。
4月10日夜から11日未明にかけて、「民主統一会議(MUD)」及びマドゥーロ政権側の両派リーダーたちとの会合が行われ、全行程がテレビ中継された。これにはブラジル、コロンビア及びエクアドルの3カ国外相と、ローマ法王庁の特使が「善意の証人」として同席した。全国規模の抗議活動(http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2014/03/post-f9f2.html参照)
が始まった2月12日の「若者の日(Día de la Juventud)」以来、MUDが、カプリーレス・ミランダ州知事以下が集まってマドゥーロ大統領以下との会合を持ったのは、実に初めてのことだ。
4月15日夜、同じく「善意の証人」が同席する二度目の会合が持たれた。今度は政権側からはアレアサ副大統領、MUD側からはアベレード幹事長以下であり、多忙な中で駆けつけてくれている三ヵ国外相には失礼な話ではなかろうか。だが双方が、立憲主義、暴力反対、真実委員会の設置など、幾つかのテーマで合意が形成されたことで、進展があった、との見解を示しており、外相らの評価はそれなりに高いようだ。
国際社会の仲介を嫌うマドゥーロ大統領だが、南米諸国連合(Unasur)には助力を求めた。これが、上記ブログで述べた3月12日のサンティアゴでのUnasur外相申し合わせに繋がっている。彼が断交宣言したパナマが推し進めた米州機構(OAS)は、3月22日の常任評議会で、ベネズエラ問題の議題化を否決した。パナマは、反政権派の急先鋒と目されるマチャード議員にベネズエラ情勢を訴える機会を与えるべく、この日の評議会でパナマ代表席を譲り出席させたが、発言機会は失われた。
Unasur外相団がカラカスを訪れたのは、その3日後だ。ベネズエラを除く11カ国の内、コロンビア、エクアドル、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、ボリビア及びスリナムの7カ国外相が集まり、政界、経済界など各層の代表たちや、抗議活動の実際の主役である学生運動のリーダーとも、丸二日間掛け、話し合った。その結果、政権側・反政権側両派の対話を上記「善意の証人」同席で行うことを、マドゥーロ大統領とカプリーレス知事以下の政権側、MUDに納得させた。外相団は4月7、8日にも、チリも加えた8名で再訪問し、両派を準備会合の名目で一同に集めている。学生代表や上記マチャード議員らは、出席していない。
4月10日(11日未明まで)と4月15日の二度の会合だけでは、先行きを云々することは難しい。MUDは抗議活動で拘束されたままの学生を含む「政治犯」釈放を要求の第一に掲げるが、政権側は暴力行為を働いた者(主として学生。一部に親政権派。警察も含まる)や煽動した者(政治家)は「政治犯」ではない、と主張、司法プロセスに委ねるべし、との立場だ。だが対話にMUD急進派や学生運動のリーダーを参加させ、いわゆる国民和解に進めるには、政権側の一定の譲歩は不可欠だろう。
4月4日、検察庁は2月12日以来、抗議活動による死亡者を39名、負傷者を608名、逮捕されたのは延べ2,285名で拘留中が192名、という報告を行った。この内の夫々8名、194名、17名(但し拘留中)は、公権力側から出ている、とした。夫々31名、414人、175名が、学生を中心とした市民、となる。その後死亡者は2名(1名は公権力側)増え、上記の41名になった。一般市民の中に、デモに反発する一団(Colectivosと呼ばれる。政権親衛隊のようなもの)がどれだけ含まれるか、の報道は無い。
抗議活動の中身は一部上記のブログでもお伝えした。この国の公権力で警察を言う場合、国軍の一翼を担う「国家警備隊(GNB)」、内務・法務・平和省傘下の「国家警察(PNB)」及び、地方自治体に帰属する地方警察がある。夫々出番は異なる。Colectivosが妨害することもある。これを黙認した、彼らは火器で武装していた、として、デモ隊がGNBやPNBを非難する場面も報じられてきた。デモ隊が道路封鎖のためのバリケードを築けば、公権力側がこれを撤去しようと動く。その際に投石や棒などを使った殴り合いが起きる。他の場でも、同じ光景は繰り広げられる。火炎瓶が投げられ、公権力側は催涙弾などで応じる。治安部隊以外による火器使用も目撃されている。デモ隊の暴発を(地方警察を動かさず)黙認したとして、二人の自治体首長が解任され、拘留中だ。
抗議活動は、もとは西部タチラ州サンクリストバルでの女子大生への性犯罪を切っ掛けに、2月4日、高犯罪への抗議から始まり、2月12日以降、全国規模に広がった。主役は各地の大学生、いわば、恵まれた中流階級の、社会人にもなっていない人たちで、彼らが高犯罪に加え、高インフレ、物資不足に抗議する一方で、貧困層がかかる抗議活動に反発するのは、何となく歪に感じる。
国民和解に向けた対話は動き出したが、学生らは抗議デモを続けている。彼らも、反政権派の政治家たちも、対話を拒否する急先鋒の面々を含め、平和なデモであるべし、と呼びかける。政権側も、平和的デモを合憲性の観点から、容認する。両派の対話が順調に進み、抗議活動で当初提起された問題解決への糸口を両派一緒に掴み、具体的対応策が実行に移されるよう、祈るばかりだ。Unasurの役割に期待したい。
| 固定リンク
「南米」カテゴリの記事
- リコールと対話と-ベネズエラ(2016.06.27)
- コロンビア政府・FARC間停戦協定調印(2016.06.25)
- ケイコの敗北-ペルー大統領選決戦投票(2016.06.10)
- ルセフ大統領職務停止-ブラジル(2016.05.15)
- アルゼンチン債務問題の決着(2016.04.29)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
始めまして。
ベネズエラについての記事、拝見させて頂きました。
私は、ベネズエラの友人の支援をしたいと考えている日本在住の大学生です。
唐突ではありますが、個人的にお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか?
お返事お待ちしています。
投稿: きよ | 2014年4月28日 (月) 01時36分
きよ様
現役時代に関わったラテンアメリカを外電などで追いかけている立場ですが、役に立てますか?
投稿: | 2014年4月28日 (月) 12時11分
心強いお返事を、ありがとうございます。
ぜひ、お願い致します。
ラテンアメリカに関わられていたとの事、ベネズエラを
良く知る上でも、ぜひお話を伺わせて頂きたいです。
返信が遅れてしまい、真に申し訳ありません。
投稿: 中村季世 | 2014年5月10日 (土) 08時23分
中村様
ベネズエラのご友人が反政府デモ活動に参加しておられるのであれば、当面は、デモの許可を当局から取得すること、国家警察や国家警備隊への投石やバリケードは「暴力行為」と見做されるので、関わらないよう、アドバイスしたほうが良いと思います。マデロ政権が嫌なら、先ずは2015年9月の、つまり一年強先の議会選挙、次には憲法上認められている2016年のリコール選挙まで待つのが、普通の考え方でしょう?
投稿: | 2014年5月10日 (土) 11時49分
お返事ありがとうございます。
ベネズエラの政治の仕組みを私もよく知らなかったので
勉強になりました。
平和的に問題が解決して欲しいと考えます。
しかし、今現在、治安の悪化や生活必需品不足が起こっている状態だと聞くので、選挙までまつという事は難しいかとも思います。
ところで、私の友人たちはベネズエラ国外におり、
国内が落ち着くままでは帰らないという事でした。
私は今後、日本にいてできるベネズエラ支援を考えて
います。
投稿: 中村季世 | 2014年5月11日 (日) 09時19分