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2013年11月23日 (土)

チリ13年総選挙

これまた随分時間が経ってしまったが、1117日、チリで大統領(任期4年)、上院議員(任期8年)20名(全38名のほぼ半数)、下院議員(任期4年)120名を選ぶ総選挙が行われた。本命とされるミチェル・バチェレ元大統領(62歳)は得票率46.7%50%以下、第二位の与党候補、エヴェリン・マテイ前労相(60歳)の25%に大差をつけながら、1215日の決選投票に臨むことになった。二人とも女性であり、父親が空軍司令官同士という共通点がある。

議会下院では、現与党会派「同盟(Alianza)」の10議席減の48議席に対し、野党会派「新たな大多数(Nueva Mayoría)」は従来の「民主主義のための諸党連合(Consertación)に新たに共産党が加わり11議席増やし、68議席、文字通り過半数を制した。ただ、政党単独で見れば

第一党:独立民主同盟(UDI28議席。マテイ候補が所属

第二党:キリスト教民主党(PDC22議席。同、フレイ元大統領

第三党:国民革新党(RN19議席。同上、ピニェラ大統領

第四党:社会党15議席。同上、バチェレ候補・前大統領

同数第四党:民主主義党(PPD15議席。同上、ラゴス元大統領

の順になっている。

上院をみると、現在少数与党の「同盟」はさらに1議席減らした。これに対して現在丁度半数の「新たな大多数」は2議席上積みし、非改選分を加えても過半数を確保した。政党単独では、UDIRNが同数第一位の8議席ずつ、PDC、社会党及びPPDが同数第三位の6議席ずつとなった。 

マテイ候補は、民政移管後1989年に行われた最初の総選挙で、36歳にしてRNから下院議員に当選したが、1993年に離党、同年の選挙では会派としては同じUDIから出て再選された。1997年、やはり同党から、今度は上院議員に当選、2006年に再選された。20103月に発足したピニェラ現政権の労相に就任したのは、翌111月のことだ。チリの有力政治家と言える。

上記5党で、1989年の民政移管後大統領を出していないのは、上下院とも第一党の彼女のUDIのみだ。同党については、このブログでも何度か紹介した。かつての自由・保守両党の流れを汲み、政治勢力が最後に出した大統領はホルヘ・アレッサンドリ(1896-1968。在任1958-64)なので、仮に彼女が当選すれば半世紀ぶりのこととなる。だが、この可能性を語る向きは、殆ど無い。 

つまり、バチェレ氏当選は固まったとみて良い。関心は、決選投票での彼女の得票率に向けられる。総選挙の僅か3週間前に発表した彼女の公約の内、重要な項目は、マテイ候補の会派「同盟」(議席数で、上院42%、下院40%を占める)からの賛同が無ければ、殆どが実現不可能で、圧勝して民意を前面に出す必要があるから、と思われる。 

先ず、高等教育の無償化が軸の、教育制度改革がある。このブログでは取り上げたことが無いが、高い教育コストに抗議する学生運動が長期化し、且つ先鋭化、ピニェラ現政権は奨学金や貸付金で対処したが、抜本的解決に程遠く、抗議運動は折に触れ再発している。その解答として、彼女はこの公約を打ち出した。ただ教育制度改革の議決に必要な賛成票は、七分の四、つまり58%と言う。これが実現できなければ、学生の抗議運動の再燃は不可避だろう。

今般バチェレ氏の会派、「新たな大多数」に入った共産党は議席数を倍増させ、6議席となった。増えた3名の内2名が、最も先鋭化された2011年学生運動のリーダーたち、と伝わる。同党以外にもそのリーダーたちは2名いる。彼らが同会派を離脱するのは大いに有り得ることだ。

その財源確保策として打ち出した公約が、税制改革だ。現行20%の法人税の25%への段階的引き上げが軸となっている。これに必要な賛成票は過半数、と言われ、障壁は低い。年金制度の改革なども公約に有るが、その財源にもなる。ただ、企業家にとっては溜まったものではない。着実に成長を続け、ラ米の優等生とされるチリの政界は、民間企業の利害に敏感だ。私には、与党会派を巻き込む反対の声も上がって来るような気がする。 

他にも、チリ特有の選挙制度が小党に不利な公平性の欠如が言われてきたが、この改正も公約の一つになっている。だがこれには五分の三、つまり60%の賛成票が必要だ。さらに、母体が危険、乃至は暴力による妊娠の場合の中絶を認めるための法整備を行う、と言う。議決上の障壁は、私は不案内だが、メディアは難問の一つに挙げる。

一方、彼女は憲法改定も公約に掲げる。現行の1981年憲法は、ピノチェト軍政時代に作られた。上記のように、法案によって議決のための賛成票数が一定しておらず、この統一を目指す。また、議決されても、その合憲性を憲法裁判所が判定すると言う制度が謳われており、この廃止も図る。その他、色々あるようだが、憲法改定には議会で三分の二の賛成を確保する必要がある。 

選挙戦の最中、マテイ氏がバチェレ氏を、第一次政権では公約の実現率は三割に過ぎなかった、と糾弾した。その通りだ。ならばピニェラ政権がどうだったか、との反省をしている訳ではない。この国の憲法上、圧倒的多数派による政権でなければ、重要な政策の実現性には、元々無理がある。だからこそ、政権交代しても政策の連続性が保たれると言う国民の安心感もある。バチェレ氏がピノチェト独裁下で迫害を受け亡命を余儀なくされた社会主義者であれ、退任時80%の支持率を得ていたのも、政策運営が新自由主義経済の容認を含め現実的だったからかも知れない。国会議員の再選は無制限だ。チリには現職再選が圧倒的に多い。それだけに、急激な改革には馴染まないのかも知れない。

今回選挙で10.9%の得票で第三位に付けた「左翼革命運動(MIR)」のオミナミ候補は、改憲を第一の政見にする。ただ、決選投票でバチェレ候補を支持する気は無さそうだ。10.1%で第四位のパリシ候補は企業家だが、マテイ候補不支持を言明している。 

圧倒的勝利で、「同盟」を説得し公約実行率を上げるか、5060%台の得票で結局、第一次政権時同様、重要な公約に手付かずで終わるか、注目したい。

 

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コメント

オミナミ候補はMIRの候補者と言ってもいいのでしょうか。実父はMIRの書記長だったですが、かれは進歩主義者党に属し、左派というよりはもともとの社会党に近く、中道左派的に感じるのですが。チャベスの評価などからみて。新自由主義には反対していますが。

投稿: ウラ | 2013年12月17日 (火) 20時18分

コメントを有難うございます。私筆者の間違いであります。本日バチェレ勝利についての記事を出しましたが、そこで訂正致しました。政党名を革新党としましたが、Partido Progresistaの正しい和訳は「進歩党」でしょうね。

投稿: | 2013年12月18日 (水) 15時49分

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