イベロアメリカサミットに思う
これまた旧聞だが、10月18、19日にパナマで開催された第二十三回イベロアメリカサミットには、ラ米十九ヵ国首脳の内の11名が欠席した。2011年のアスンシオン(パラグアイ)での第二十一回サミットと同数だ。十九ヵ国中11カ国もの首脳が欠席しては、存在価値が疑われても仕方が無い。この点は当ブログでもhttp://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2011/11/tantas-cumbres-.htm報告した。アスンシオンの後のカディス(スペイン)で開かれた第二十二回サミットへのラ米首脳の欠席は、当時米州内統合体で資格停止処分を受け、サミットに招かれなかったパラグアイを除き、6ヵ国に減った。二十一回サミットの首脳欠席国の内、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、エルサルバドル、ホンジュラス、ドミニカ共和国5カ国首脳は、出席に名を連ねた。
その内のブラジルは、言うまでも無くラ米随一の大国だ。他5ヵ国が今第二十三回にも出席しているのに、ブラジルは欠席に戻った。
イベロアメリカサミットについては、キューバ(フィデル・カストロ前国家評議会議長が健康問題で実質的に退任した2006年以降)、ベネズエラ(故チャベス前大統領がフアンカルロス・スペイン国王に諌められた後の2008年以降。当ブログのhttp://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2010/12/post-2965.html参照)及び、ニカラグア(理由は分からないが、2009年以降)が欠席の常連だ。
キューバには、ソ連崩壊の1991年の第一回以来この統合組織に入って、国際社会での決定的孤立を回避できた、という意味で、非常に重要な筈だ。このサミットでは、都度、米国による同国への禁輸を非難する声明を出している。ただ首脳があまりにも老齢であり、その度のサミット出席には難があった。だからこれら3ヵ国が同じ目線でこのサミットを見ているとは思えない。
ともあれ、上記3ヵ国を除く16カ国で今回サミットに首脳が欠席した8ヵ国を見てみよう。
第二十一回から3回連続で欠席したのは、アルゼンチン、ウルグアイの2ヵ国のみだ。前者のフェルナンデス大統領は、第二十二回の時は健康不安問題があり、今二十三回は直前の10月8日、頭蓋骨腫の摘出手術を受け、一月間の術後療養中で、来る27日、同国では下院議員半数、上院議員3分の1を改選する中間選挙があるのに与党の「勝利戦線(FpV)」応援活動もできない。先日同国を訪問した隣国のモラレス大統領すら面接が叶わなかった。第二十一回は夫の故キルチネル前大統領の喪中にあったし、第二十二回も健康不安を抱えていた。マルビナス(フォークランド)領有権問題でアルゼンチン支持を声明で謳い続けている同サミットを、彼女がないがしろにするとは、考えられない。後者のムヒカ大統領は、77歳の高齢でもあり、そうそう外遊はままなるまい。だが二十一回サミットは隣国で開催されていた。イベロアメリカサミットに恬淡としていることは知られる。
ボリビアとエクアドルは、言うまでも無く欠席常連3ヵ国と共に米州ボリーバル同盟(ALBA)を形成する。だが同サミットには、出席常連国だった。前者のモラレス大統領は、確かに、先住民の自分はスペイン国王と同席するのは気が進まぬ、と公言こそすれ、ずっと出席して来た。今回サミットには、その国王が健康状態を理由に欠席したのに欠席したのは、ロシアからの帰国途中にスペイン政府から「無礼な」仕打ちを受けた(その後謝罪を受け、一応公的には関係を修復)記憶が生々しい。今回サミット出席は何となく気が乗らなかったのではなかろうか。後者のコレア大統領の同サミットへの評価は、一寸分かり辛い。
聊か気になるのは、ブラジルのルセフ大統領だ。彼女の前任者ルラ前大統領が積極的な参加者だったのに、彼女が就任した年に、しかもメルコスル原加盟国で隣国のパラグアイで行われた第二十一回サミットに、フェルナンデス、ムヒカ両首脳共々、欠席した。彼女にとって良いデビューの機会だった筈だ。二人とは異なり、前回サミットには出席した。今回サミットのタイミングに米国に国賓として招かれた彼女は、内部や個人的な連絡を含め、電話やメールが同国の安全保障局(NSA)に盗聴されていたこと、またそれをきちんと説明するようオバマ大統領に申し入れたにも拘わらず、一切の弁明も謝罪も得られなかったことで、これを辞退した。私の単なる推測だが、ワシントン訪問の途次パナマ立ち寄る計画だったのではあるまいか。だとすれば、このサミットに対する捉え方が軽い、と言うことになる。
もう一つ気になるのは、ピニェラ・チリ及びウマラ・ペルー大統領の欠席だ。前者は、成程、総選挙を2ヵ月後に控える。だが外交は与党の得点稼ぎにプラスの筈だ。また後者は、出席したいが叶わない、とのコメントを出してはいる。しかし、太平洋同盟4ヵ国が割れた格好になってしまった。加盟を間近に控えたコ/スタリカ、及び加盟意向を鮮明にしているパナマも、メキシコとコロンビア共々サミットに出席した。太平洋同盟についてはつい先日、モラレス・ボリビア大統領が米州分断を諮る米国の陰謀、と決め付けたばかりだが、スペインも加盟に関心を抱き、カナダや欧州連合(EU)の関心も高い。結束を見せつける場を放棄したようなチリとペルーの欠席には、意外感がある。
残る1ヵ国が中米随一の人口を抱えるグァテマラだが、ペレスモリーナ大統領はデビュー年の第二十二回サミットにも欠席した。彼は麻薬の免罪化に熱心で、先頃の国連総会でも、これを訴え、マリフアナ消費の合法化を進めるウルグアイと米国の2州の動きを肯定的に評価、国際社会の麻薬に対する見方を変えるべきだ、と主張していた。だが、イベロアメリカサミットへの評価は分からない。
話を戻して、結果的に、ラ米十九ヵ国で首脳欠席は、政治姿勢で言えば、左派5ヵ国全て、中道左派が4ヵ国、右派が2ヵ国となった。左寄り政権の大半が欠席、右寄りの大半は出席、とは言えるかもしれない。民族的に先住民乃至アフリカ系比率が高い諸国の首脳の多くが欠席した。だがヨーロッパ系比率が高い諸国もコスタリカを除き軒並み欠席だ。人種構成では単純化は避けよう。
イベロアメリカサミットの存在意義自体が、キューバとアルゼンチンを除くと、聊か分かり難い。地域統合体でもない。きょう日、欧州連合(EU)との掛け橋でもあるまい。私にはこれが23年間も続いたこと自体が不思議に思える。米州サミットの方がまだ分かり易い。イベロアメリカサミットは、ちゃんと本部をマドリードに持ち、国際的に知名度の高いイグレシアス前米州開発銀行(IADB)総裁が事務局長を10年近く努めて来た。だが、米州サミットの事務機関でもあるOASほど組織化されているわけでもない。それでも、見守って行きたい。
2014年にベラクルス(メキシコ)で開催される第二十四回サミットからは、2年毎のサミットになる。米州サミットの頻度より高いことに変わりは無い。なお、事務局長も改選され、運営費負担割合はスペイン、ポルトガル分が従来の7割(!)から6割に引き下げられる。