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2013年9月29日 (日)

武器貿易規制条約

やや旧聞に属するが、201342日、国連総会で武器貿易規制条約(ATT)についての採決が行われた。日本外務省によれば、「締約国は(当該武器)移譲が平和及び安全に寄与するものか、害するものか、国際人道法・国際人権法の重大な違反やテロ関連条約上の違反行為に使用されるか否か等を評価し、否定的なリスクが重大なものである場合には,輸出を許可しない」、つまり、購入される武器の用途が反人道的と認められたら、売ってはならない、というものだ。184ヵ国中154ヵ国が賛成票を投じた。条約は、50ヵ国以上が批准、若しくは加盟手続て90日後に発効する。927日までに批准したのは8ヵ国だ。我が国の批准は、岸田外相によれば2014年通常国会を目指している。50ヵ国の最後にならなければ良いが、と思う。

1997年、つまり16年前にコスタリカのアリアス元大統領(任期1986-90年、2006-10年)が、本人を含めたノーベル平和賞受賞者らと共にスタートさせた、武器貿易に関する倫理基準を設けようとの運動が発端となっている。1980年代の中米危機解決に尽力したアリアス氏には、武器を手段とした暴力を厭う気持ちが強かったのだろう。平和主義のコスタリカには、同じく平和主義国家の憲法を憲法を持つ我が国と異なり、軍隊が無い。

200610月、コスタリカ、日本、アルゼンチン、英国、豪州、フィンランド及びケニアが共同で、「通常兵器の輸出入及び移転」の国際的共通ルールの決議案を国連に提出した(以後、上記諸国を「原共同提案7ヵ国」と呼ぶ)。通常兵器は、小兵器(拳銃など)及び軽兵器(携行用ロケット砲など)からミサイルまでを含む。核兵器などの大量破壊兵器は、この条約には含まれない。同年末、決議にはブッシュ前政権下の米国が反対、ロシア、中国などが棄権に回ったが、圧倒的多数で採択された。

その後、米国、ロシア、中国を含む28ヵ国の政府専門官グループで各国の個別事情などを加味した検討を行った上で、漸く条約案が纏まり、2009年にはオバマ政権が発足した米国も姿勢が賛成に転じた。冒頭の採択に至るまでさらに時間を掛けた。

ATTに賛成票を投じなかった30ヵ国の内、イラン、シリア、北朝鮮の3ヵ国が反対、ロシア、中国など23ヵ国が棄権、大統領選直前だったベネズエラを含む4ヵ国が投票不参加、となっており、米国は、賛成だった。ベネズエラを除くラ米(厳密には旧スペイン・ポルトガル植民地)18ヵ国の内、14ヵ国も賛成だ。キューバ、ニカラグア、ボリビア、エクアドルが棄権した。

ラ米十九ヵ国を見ると、元大統領が音頭取りをしたコスタリカの他、アルゼンチンも、マルビナス(フォークランド)紛争で犬猿の関係にある英国と共に、上記の原共同提案7ヵ国の一角を占める。条約署名は63日に始まり、同日早々と署名した67ヵ国の内、ラ米は両国を含む8ヵ国、となっている。この内コスタリカとメコは、もう批准も済ませた。

925日、国連総会の真っ最中、米国も署名した。自己防衛のための銃携行を認めた憲法に違反する、との理由で反対世論が高いだけに批准は難しい、と言い募るメディアも多いが、条約上は、国内流通への介入も国防権に基づく当該国への武器禁輸も行われない。人権侵害が明らかな国には武器が渡らない、と言う以上、反対は通しにくかろう。この日にホンジュラスが、また前日にコロンビアが署名したことで、ラ米の署名国は14ヵ国になった。 

ラ米の未署名国は、キューバ、ニカラグア、ベネズエラ、ボリビア、エクアドルの5ヵ国、つまり米州ボリーバル同盟(ALBA)諸国(グレナダなどカリブ5ヵ国はALBA加盟国ながら、署名済み)に限られた。中米統合機構(SICA7ヵ国、アンデス共同体4ヵ国、メルコスル5ヵ国のいずれも、地域統合体として纏まり得なかったのは、このためだ。この一方で、太平洋同盟4ヵ国は纏まった。27ヵ国から成る欧州連合(EU)は、統合体としての矛盾に苦しみながら、こう言うことでは一致団結する。ラ米とは、えらい違いだ。 

この条約は、シリアは対象とするのだろうか。欧米の観点からはアサド政権に人権侵害が存在するし、ロシアと中国は同政権による化学兵器使用の証拠は無い、との立場だが、それでもテロリスト活動の激しい国、となる。この両国が条約を受け容れ、批准乃至必要手続きを開始すれば、それから90日後には

翻って、麻薬組織に絡んだ暴力に苦しむメコ、グァテマラ、ホンジュラス、コロンビアはどうだろうか。米国が麻薬との戦い、として支援しており、政権側による人権侵害ではない、とする以上、対象国にはならない、とは思うものの、彼らの武器の大半が米国からのものだ。違和感を覚える。コロンビアに至っては、米国とEUがテロリスト指定をしているコロンビア革命軍(FARC)及び国民解放軍(ELN)との内戦が半世紀に亘って繰り広げられている。テロとの戦い、と言う免罪符があれば、対象国にならないのだろうか。 

そもそも、この条約の実効性が、私にはよく理解できない。巨大な軍事力と兵器産業を擁するロシアと中国が参加して初めて、その実効性は見えて来るのかもしれない。ALBA5ヵ国は、結局どうするのだろうか。友好国で条約反対のシリアとイラン、旗幟を鮮明にしないロシアと中国の出方を待っているのだろうか。欧米のみならず、ALBAが推し進めているラテンアメリカ・カリブ共同体(Celac)加盟諸国の殆どが署名している現実を、どう判断しているのだろうか。

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