新たな大統領選-ベネズエラ(1)
3月8日の故チャベス氏(以下、故人につき敬称略)の国葬には、死亡発表後、モラレス・ボリビア、ムヒカ・ウルグアイ両大統領と共に直ちに駆け付け、軍事アカデミーでの遺体安置に参加し、ほどなく帰国したフェルナンデス・アルゼンチン大統領(他の二人はそのまま留まった)、及び南米諸国連合(Unasur)資格停止中のパラグアイのフランコ臨時大統領を除く、中南米の全首脳が参列した。チャベスが親しかったアフマデネジャド大統領、他、域外諸国の首脳も何名か参列している。
この日、マドゥーロ副大統領(50歳)が暫定大統領に就任した。国会指名の形を採った。憲法上は、大統領が任期途中で辞任、乃至は死去した場合、国会議長が大統領代行になる旨の規定がある。だから、カベーリョ議長が就任するのが自然だ。野党はこれを茶番、としてボイコットした旨、報道された。
3月9日、ベネズエラ全国選挙評議会(CNE)は、大統領選を、憲法解釈上も技術的にも認め得る範囲で4月14日に行うこと、そのための選挙戦は4月2~11日の9日間とすること、Unasurに選挙監視ミッション派遣を要請すること、を発表した。最高裁判所が1月早々に出した、当時のチャベス政権が継続中、との裁定はあるが、本来の任期満了の去る1月10日から新政権に入っている、新政権発足から4年以内に大統領が死去した場合、30日以内に新たな大統領選を行うことを定めた憲法に沿ったもの、と言う。ややこしいが、与野党ともにその積りでいたので問題はあるまい。
3月11日、与党ベネズエラ統一社会党(PSUV)からマドゥーロ暫定大統領、反政府勢力の民主統一会議(MUD)からカプリーレス・ミランダ州知事が、大統領候補として正式に登録した。
マドゥーロ氏は、故チャベス後継を自認し、事実、昨年12月に癌手術のためハバナに向かう前に彼によって後継指名されていた。だが憲法上、現職副大統領のままでは、大統領選に立候補できない。大統領選に出馬するからには、副大統領は辞任せねばならない。それで暫定大統領になった。最高裁は、わざわざ暫定大統領は大統領選立候補が可能、との裁定を下した。結果、(暫定)大統領として選挙に臨めることになった。国民全体からすれば、「長い癌との戦いの末に逝った我らが指導者」への愛着は強い。その後継指名を受けた現職の大統領。戦いの優位性は極めて高い。
MUDは、この経緯に対し不正、違憲を叫びつつも、それ以前より彼が与党候補になることを前提に動いて来た。昨年10月7日の大統領選(ブログ記事http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2012/10/20-b98f.html参照)で、統一候補として、あのチャベス氏に得票率で11ポイント差まで迫った実績を持つカプリーレス氏に、再び候補を一本化したものだ。インフレ、悪化一途の治安、通貨ボリーバルの突然の切り下げ、生前のチャベスの健康問題に関わるあまりに不自然な情報で、政府攻撃を進めて来た。
マドゥーロ暫定大統領は、チャベス亡き後のPSUV序列第一位のカベーリョ国会議長と異なり、軍人出身ではない。労組幹部出身とは言え、ブラジルのルラ前大統領のように自ら政党を創設したわけでもない。若くして国会議長になり、また外相にもなったが、どうしてもチャベス氏の影が透けて見える。彼が訴えるのは、「チャベス革命」の継承であり、MUDに対する「米国帝国主義配下」断定だ。政策面の具体的な施策は、少なくとも外電ニュースからは窺えない。MUDの上述の攻撃に対する反論も、あまり見えない。米国帝国主義に操られベネズエラの不安定化を謀りチャベス革命を破壊する、と決めつけ、カプリーレス氏をファシスト呼ばわりする。
だが、国葬に殆どの域内首脳を呼び寄せた国際的知名度、国内では貧困率が高い中で強力に推進して来た貧困対策、何より強い指導力、カリスマ性で国民を惹きつけてきたチャベスの、正統な後継者である。2年間に及ぶ、特にここ2ヵ月間は壮絶さを想起させる、彼の癌との闘いが、国民の脳裏に焼き付いている。一月後の選挙時も変わるまい。
マドゥーロ候補が大統領になれば、言わば「チャベス無きチャベス体制」に入ろう。ベネズエラではビセンテ・ゴメス(1857-1935。私のホームページから十九世紀末以降のカウディーリョでも少し述べている)死後の10年間が「ゴメス無きゴメス時代」とされる。この頃は議会による間接選挙で大統領が選ばれたが、初代のロペス・コントレラス(1883-1973。暫定含め在任1935-41)はゴメス政権の陸海軍相だった人だ。その政権下で同じ陸海軍相を務めていたメディーナ(1897-1953。在任1941-45)が引き継いだ。ただ、ゴメスは親米姿勢が強く、発見された石油資源を、当時ではどこの国も国有化するのに、英米の石油メジャーに委ねた。だから、並び立てられるのは、マドゥーロ氏にとって我慢できないところだ。
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