帰国したチャベス
2月18日の早朝、ハバナで二ヵ月間の入院生活を送っていたチャベス・ベネズエラ大統領が帰国した旨を、彼自身のツイッターが伝え、マドゥーロ副大統領がテレビを通じて確認した。このニュースは日本の新聞も報道しているが、帰国してもなお姿を現さず、政府が実際の容態を秘匿したまま、単に陸軍病院に入院した、との発表があったのみだ。帰国には、マドゥーロ氏の他、長女とその夫であるアレアサ科学技術相、実兄でバリナス州知事のアダン・チャベス氏、そしてカベーリョ国会議長が付き添った、とある。普通には出迎えを華々しく報じるテレビも沈黙している。キューバでも極めて重要な人物なのに、見送る写真や記事は出ていないようだ。
これより3日前、ハバナで入院中のチャベス氏が前日付けのキューバの日刊紙を手に、病室のベッドの上で二人の娘に囲まれている写真が流された。彼の写真が出たのは、ハバナ向け出発した12月10日以来初めてだ。その間、以前と異なり、ツイッターを通じた国民向けメッセージすら出さず、彼の容態についてはアレアサ科学文化相やビイェガス通信相、或いはマドゥーロ副大統領による回復している、複雑な状況と戦っている、と言った散発的な報告が出し続けられた。この間、ハバナを訪れたモラレス・ボリビア、フェルナンデス・アルゼンチン、ウマラ・ペルー各大統領も、彼の容態についてはおろか、彼と会ったのかどうかにすら口を噤む。
チャベス氏が氏と仰ぐフィデル・カストロ氏が最近のキューバ人民権力会議投票の後、極めて厳しい闘病を余儀なくされた、ただ、回復しつつある、というコメントを出し、その直後に上記の写真が公開された。その前から呼吸系統の感染症も政府として公表していたが、写真公開と同時並行的に、気管支に管を通して呼吸を助けている、とも言い始めた。写真は、どうも却って国民に不安を深めたようだ。笑顔を見せてはいるが、エネルギッシュなイメージからはほど遠い。
実は彼の帰国日に政府系新聞が第一面で、新たに選挙が行われればマドゥーロ氏の勝利、と書いている。チャベス帰国発表前に書かれた記事だと言う。既に「新たな選挙」の可能性に触れるようになった。野党勢力は最近、次の候補者を決めておく必要がある、と言い出したところだ。野党統一候補として10月7日の選挙で、11ポイント差で敗れたカプリーレス現ミランダ州知事は、チャベス氏帰国が実現した以上、マドゥーロ氏以下政府幹部はまともな仕事に復帰して欲しい、と言いつつ、これまでの政府の報告に虚偽の疑いが濃い旨を追求する。最近通貨ボリーバルの切り下げが行われたことについても、やらない、と言っていたのに嘘をついた、と攻撃している。マドゥーロ氏は、大統領の生命についてあげつらう野党勢力を激しく攻撃する。選挙モードに入ったのだろうか。
彼の帰国で、国会乃至は最高裁判所で新任期の宣誓が、物理的に可能となる。手続上、マドゥーロ氏以下の政府が正統性を確保する。憲法上、正統な大統領が死去する、或いは辞任すると、それから30日以内に後任者を決めるための選挙が必要となる。チャベス氏は12月10日段階で、何かあった場合にはマドゥーロ氏を後継者とする、旨を公言していた。世論調査会社の一つは、長引くチャベス不在が国民の不安を増大させて来た、帰国さえすれば、公の場に姿を現さずとも、ツイッターだけのメッセージを流すだけであっても、国内にいることで安心感を与え、これがマドゥーロ後継への地均しに繋がる、と捉えているが、頷ける見方だ。
翌19日、国連訪問に向かっていたモラレス・ボリビア大統領がカラカスに立ち寄った。チャベス氏の家族や大統領代行中のマドゥーロ氏とは会ったが、当人には会えなかった旨を、ニューヨークで明らかにした。総選挙に大勝したばかりのコレア・エクアドル大統領は、カラカス訪問を言いながら、時期は数日、数週間中、とはっきりさせない。盟友中の盟友二人のこの状況、見過ごすわけには行くまい。地均しと言えば、ラテンアメリカ統合の関わりでも、当面のチャベス氏の存在感は不可欠だろう。
1月26日、ラテンアメリカ・カリブ共同体(Celac)サミットで、代理出席のマドゥーロ氏が、ハバナからのチャベス氏のメッセージを読み上げた。本人が起草したメッセージなのか疑わしいが、キューバのラウル・カストロ議長が向こう1年間、Celac議長を務める重要な時期であり、同国を支えるチャベス氏の存在は、極めて重要だ(関連記事http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2013/01/celac-eu-35ac.html参照)。そうでなくとも、米州ボリーバル同盟(ALBA)を通じた、或いはキューバにとって石油と医療・教育スタッフを交換し合う二国間経済交流の相手としても、ベネズエラは死活的に重要だ。
チャベス帰国当日、国際的にはすっかり有名人になったキューバ人ブロガーのヨアニ・サンチェス氏が、1月15日のキューバ政府による海外旅行規制解除発効を受け、念願の海外旅行に出て、先ずブラジルのレシフェに到着した。彼女は反体制派に属するが、国内でキューバ民主化を進める、として、帰国できない条件での国外渡航を見合わせて来た。キューバ革命を支持するブラジル人グループによる反ヨアニデモも行われたが、かかる行動ができないキューバから見れば羨ましい限り、と応じた由だ。20日にはブラジル野党PSDBの招待でブラジリアの議会下院でスピーチを行っているが、この時は与党労働者党(PT)も歓迎の辞を述べた。彼女はこの後3ヵ月を掛け、アルゼンチンなど数ヵ国を回る。キューバにも自由の波が押し寄せているようだ。
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