Celac-EUサミット
1月25、26日、チリのサンティアゴでラテンアメリカ・カリブ共同体(Celac)とEUの第一回首脳会議が開催された。夫々33ヵ国及び27ヵ国なので60ヵ国の首脳、若しくはその代理者が集まった。ラテンアメリカ19ヵ国で欠席した大統領は、ハバナで療養中のチャベス・ベネズエラ、目下選挙戦のただ中にあるコレア・エクアドル、メルコスル加盟国として資格停止処分中のフランコ3大統領のみだ。
EUからはファン・ロンパウ欧州理事会議長(大統領)、バローズ委員長、メルケル・ドイツ、ラホイ・スペイン両首相の他、誰が出席しているのか、報道では見えない。最高指導者は41名が出席、とあるから、Celac加盟国が33ヵ国なので、上記3名以外は全て出席、となればEUからは11名、という勘定だ。
第一回Celac-EUサミットと呼ばれるが、2011年12月にCelacが発足http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2011/12/post-e24a.htmしたからであって、EUとラテンアメリカ・カリブ諸国とのサミットは1999年6月以来これで七回目になる。その後会場をマドリード、グァダラハラ(メキシコ)、ウイーン、リマ、そして再びマドリードで開かれたhttp://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2010/05/eu-0aa6.html。最後のマドリードに集合した最高首脳は30人、と聞くので、今回は良い方だろう。ラテンアメリカ側からは、欧州が深刻な経済低迷、ラ米が着実な経済成長と対照的な中、欧州側が活力を求めてきている、と映りかねない。だが、何といってもEUのラ米投資額が3,850億㌦にも上り、その逆など有り得ない。力の差は歴然としている。
どのサミットでもそうだが、宣言文が採択される。草案の中に欧州企業による対ラ米巨額投資への法的保護が入ったが、これはベネズエラ、アルゼンチンなどが強硬に反対し、削除された。明らかにスペイン、フランス、英国企業のアルゼンチン、ボリビア、ベネズエラ資産の各国政府による接収を標的にしたもの、と看做された。
それとは別に、チリ、ペルー、コロンビア、メキシコ四ヵ国の「太平洋同盟(AP)」への加盟希望をラホイ・スペイン首相が持ち出した。コスタリカも加盟申請中だ。APそのものは、2012年6月に正式に発足し、準備期間を経て、2013年3月末を以て動き出す。現在コロンビアだけが議会批准待ちの状態だ。加盟国間貿易において90%の商品が関税ゼロとなり、残る10%も確実な計画性を以て関税撤廃を行う。ピニェラ大統領は、EUとのサミット期間、ウマラ、サントス及びメキシコ各大統領と一緒にかかる中身を披歴し、APとしてEUとの自由貿易協定に進めたい、と抱負を語った。
この4ヵ国の人口は2億人を、GDPは2兆8千億㌦を超える。経済苦境のただ中にいるスペインには、年率3~5%とは言え着実に成長を見せるAPは魅力だろう。現在上記のスペイン、コスタリカの他にもオブザーバーとして我が日本、カナダ、豪州、ニュージーランド、パナマ、グァテマラ、ウルグアイが参加している。近くブラジルとポルトガルもオブザーバー参加予定だ。
ピニェラ大統領の抱負については、メルケル・ドイツ首相がメルコスルとか、APとか、別々に自由貿易を交渉するより、Celacと一括交渉が望ましいとコメントする。
Celac-EUサミットが終わった。27日、Celacサミットに移った。2011年12月の創設サミットを第一回目とすれば、第二回目となる。ピニェラ大統領は開会式で、Celacを作り上げたチャベス氏に最大の賛辞を寄せ、一日も早い復帰を願う、と挨拶した。
このCelacサミットには、ルセフ・ブラジル大統領が参加できなくなった。日本のテレビ、新聞でも報道されたが、27日の未明にリオグランデドスル州サンタマリア市のディスコテック、Club Kiss が火災にあって、何と231人が死亡した。1,000人の収容能力のディスコに2,000人が押し掛け、現地のロックバンドが演奏開始しようとしたところ、花火が天井に移ったため、と言う。ルセフ氏は、これほど大勢の死者が出た以上、大統領が国外に居て良い筈がない、と述べ、同日、ブラジルに急行したものだ。帰国したからと言って大統領に何か出来る訳が無い。2014年選挙への連続出馬が囁かれるだけに、悲劇が起きたのに外遊中、では、拙いとの判断だろう。
ともあれCelacサミットに移った。ここではモラレス・ボリビア大統領がチリに対して、太平洋への物資輸送主権を認めたらガスをチリに供給する用意がある、と発言し、ボリビアで物議を醸しているようだ。1879-83年の太平洋戦争(私のホームページからラ米の戦争と軍部のラ米確立期(1860-1910年代)の戦争参照)の結果内陸国になったボリビアだが、1904年の和親条約で太平洋への出口は確保する、と約束された自然の権利、つまり主権を伴った輸送の権利である、との解釈が根強い。チリ側は輸送の権利は妨げていない、と言う対応で来ているが、エネルギー輸入国たるチリにとって、ボリビアのガスは魅力だ。どう推移していくだろうか。
サミットでは、マルビナス(フォークランド)はアルゼンチンの主権下にあることへの支持、米国の対キューバ禁輸への反対、ボリビアの伝統的コカ使用への支持、ハイチへの最大の経済支援などが首脳決議に盛り込まれた。
最も着目すべきは、2013-14年の議長として、既定路線ではあるが、ラウル・カストロ・キューバ議長が指名されたことだ。あまりサミットには参加しないラウル氏だが、今回はさっさとサンティアゴ入りした。Celacは現実的に具体性や実効性に乏しい、と言うなかれ。今まで米州機構(OAS)から疎外された(OASとして2009年にキューバの復帰は認めたが、キューバ自体が断っている)国が、米州全体で米国、カナダの2ヵ国が外れただけの、33ヵ国もの共同体の代表になる。フェルナンデス・アルゼンチン大統領は、ラテンアメリカは新たな局面に入った、として、随分喜んだそうだ。
チャベス・ベネズエラ大統領は療養中のハバナから手紙を送り、マドゥーロ副大統領に代読させた。その中で、ラウル氏が議長を務めることは、半世紀に亘りキューバを疎外し続けた米国の失敗、と位置付け、喜びを滲ませている。