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2012年11月29日 (木)

アルゼンチン債務問題の混乱

1122日、ニューヨーク地方裁判所判事がアルゼンチン政府に対し、ヘッジファンドのNML Capital Ltdが保有する同国デフォルト債の13億㌦を、1215日までに支払うよう命じる判決を出した。不履行の場合は、同国リスケ債保有者への返済分が30億㌦あるが、それを代行するニューヨーク・メロン銀行の支払いを差し止める(即ち新たなデフォルトを起こさせる)、と言う。

ご存じの通り、アルゼンチンは2001年にデフォルト宣言を行い、その後債務の大半が20052010年にリスケされ、多くが金額をカットされた。NML Capital Ltdはリスケに応じなかったいわゆるholdoutsの一社だが、判決では支払いは元本、金利全額、となっている。同社はガーナ司法当局にも債権者権利確保を訴え、同国裁判所がその手段の一環として、102日にアルゼンチン海軍の練習船差し押さえを命じた。練習船とは言え一国家の軍艦である。3.7億㌦が支払われるまで係留する、と言う命令の由で、乗務員の多くは3週間後に航空便で帰国したが、44名はまだ残っている。実は、私には理解不能な展開である。

1126日、アルゼンチン政府は、ニューヨーク地裁の判事命令が債権者を公平に扱う国際ルールに明らかに違反しており、また国内法制上実行不可、として、ニューヨーク管轄の控訴裁判所に控訴した。今月末南米諸国連合(Unasur)サミットが行われるが、開催国ペルーのウマラ大統領がアルゼンチンを訪問した際に昼食を共にしたフェルナンデス大統領は、これを米国の裁判官による「一種の司法植民地主義」と指摘した上で、南米共通のテーマでもある、としてサミットの場で協議しよう、と呼び掛けた。 

アルゼンチンの対外債務残高は、国家統計局調査院(INDEC)によれば、2011年末時点で額面1,416.1億㌦、市場価格1,204.8億㌦となっている。対外債務には国家が抱える国債などの借金と、民間企業が調達する借入金があり、アルゼンチンの場合は公的債務だけに限定すれば額面736.7億㌦、市場価格543.4億㌦、としている。INDECの統計には誤りがある、との指摘もある。だが、概ねこの数字に近いと言って良かろう。ただ、いわゆるholdoutsをフェルナンデス大統領は「ハゲタカファンド」と呼び1セントたりとも払わない、としており、彼らの債権額は反映していない筈だ。 

200112月、当時のルア政権が公的対外債務のモラトリアムを宣言した。Wikipediaの英語版によれば、対象額が1,440億㌦、とある。

ラテンアメリカの対外債務総額が3千億㌦を超え返済不能だ、とキューバのフィデル・カストロ議長が叫んだ1982年、8月にメキシコ政府による外国民間銀行への債務返済猶予要請が、ラテンアメリカのみならず世界の対外債務危機をもたらした。その時の同国の対外債務残高が850億㌦だった。当時の対外債務額は、ブラジルが世界最大で870億㌦だった。アルゼンチンは430億㌦、ラ米では堂々第三位だ。

それから7年後の1989年、アルゼンチンはハイパーインフレを含む経済混乱で政権を任期より半年も早く投げ出したアルフォンシン大統領の末期、対外債務は700億㌦に膨らんでいた。確か、民間債務を含んでいたと記憶する。上記の1,440億㌦は、その数字の倍額である。 

2005年、キルチネル政権は625億㌦についてリスケを行った。Wikipediaのスペイン語版によれば債務残高の76%に相当する。つまり公的債務は822億㌦だったことになる。その翌2006年、今度はIMFからの借入金(2001年に実行)について、一括期前返済を行った。金額は98億㌦だ。2010年、残る債務のリスケを実施したがこれに応じたのは129億㌦分で、2011年にはパリクラブ交渉が行われ、90億㌦について決着がついた。以上を加算すると942億㌦になる。いわゆるholdoutsの分は、債務残高の7%程度の110億㌦と一部外電は伝えてくれる。これを足すと約1,050億㌦だ。Wikipedia822億㌦とは、230億㌦の差が有る。金利発生分だろうか。

2005年のリスケでは、①割引無しで33年返済、金利は25年間1.33%でそれ以降は5.25%30%割引で30年返済、金利は3.11%、③66%割引で28年返済、金利は8.28%の三つの選択肢があった。同じWikipediaによると、夫々150243119億㌦だったので、合計は512億㌦、計算が合わない。2010年のリスケでは企業債権者向けは①66%割引か②2017年満期の金利8.25%のグローバルボンドへの切り替え、個人債権者向けは③割引無し、と言う。①と③の合計は約90億㌦で、金利については公開しなかった由だ。2005年リスケに応じなかった金額の69.5%に相当、と言うから、残るは57億㌦の計算となる。上記の110億㌦の半額だ。やはり金利分だろうか。

上記INDECによる2011年末の公的対外債務の内、リスケ債権は額面423.1億㌦、市場価格227.8億㌦、となっている。2005年と2010年に行われたリスケ合計額が754億㌦だから、額面との差は331億㌦もあることになる。 

そもそもニューヨークの地方裁判所判事がアルゼンチンという主権国家に、リスケを拒否した債権者への全額支払いを強要でき、これがデフォルトを招く事態を招きかねない、として格付け会社と金融市場が反応していることに、私の頭は付いて行けないでいる。アルゼンチンはリスケ債権への支払いはきちんと履行しているし、IMFには期前返済を実行し、パリクラブ交渉も決着させた。ただ、はっきりしていることがある。リスケの中身や交渉経緯がいただけない。こんな国の出す債券への格付けは下がる一方だ。国際金融市場への復帰は覚束ない。従ってリスケ履行はひたすら国際収支を黒字にし続けることでしか達成できない、綱渡り状態にある。しかし、今回ばかりは、アルゼンチンを応援したい

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2012年11月11日 (日)

オバマの再選

ラテンアメリカ(以下、ラ米)関係者の大半は、米大統領選でオバマ氏がロムニー氏を制したことに安堵したことだろう。

米大統領選は良く知られるように各州に割り当てられた選挙人の総取り合戦であり、2000年選挙では得票率が低いブッシュ氏が選挙人獲得数で上回り当選した。今回は選挙人獲得数では332名対206名と、一見圧勝したオバマ氏だが、得票率は50%、ロムニー氏との差は僅か2ポイントだった。投票者の1割に当たるヒスパニック系有権者の71%がオバマ氏に投票した、との報道もある。ヒスパニック比率の高い州における彼の得票率を見ると、伝統的に共和党の強いテキサス(ヒスパニック比率38%。以下、同)とアリゾナ(30%)を除き、どこもオバマ氏が高い。ニューメキシコ(46%)、カリフォルニア(38%)、ニューヨーク(18%)、ニュージャージー(18%)、イリノイ(17%)では二桁ポイントの得票差だ。ネヴァダ(27%)、コロラド(21%)では46ポイント差で、フロリダ(23%)では1ポイント差と、全国平均を下回った。

未だに大使抜き外交関係が続くベネズエラのチャベス大統領は、二期目の彼にはラ米への介入は無用に願う、分裂状態の米国社会の統合に力を注ぐことだ、と憎まれ口を叩くが、米国の選挙戦終盤でオバマに買って欲しい、と公言もしていた。所詮米国の選挙であり、ラ米諸国の指導者がどの候補を望む、と言えば内政干渉で普通には口にできないが、全体としてオバマ敗退を望む人は少なかった筈だ。何かの報道でラ米諸国ではオバマ氏に好意を持つ国民が多い、とあった。オバマ氏が黒人(実際には母親が白人なのでラ米流に言えばムラート)、つまりアングロ・アメリカンではないから親近感がある、ことも一つの理由かも知れないが、ニクソン、レーガン、ブッシュ父子、と、ここ数十年間で共和党から大統領になった人たちの評判そのものが悪く、その裏返しのようにも思える。

ロムニー氏は外交政策に関しては、基本的にオバマ政権のそれを踏襲する、とは言っていたが、ラ米関係者で対ラ米政策の踏襲を信じ切れる人は少なかろう。少なくともボリーバル米州同盟(ALBA)諸国への姿勢が強硬化しないとは考え難い。ラ米関係者のALBAに対する好悪は別として、対キューバ制裁が再び強化され、ベネズエラとの対立関係に拍車が掛り、ボリビアやエクアドルの対米反発の度合いが高まり、これがメルコスル諸国に伝播することは懸念しよう。

オバマ大統領が歓迎したコロンビア革命軍(FARC)と政府との和平対話にしても、ラ米随一の経済大国でもあるブラジルが積極的な支援を申し出ているにせよ、キューバとベネズエラ抜きでは進展しない。そのブラジルにしても、両国とは親しい関係にある。何よりコロンビアにとっては、半世紀近く反政府武力闘争を続けて来たゲリラの武装解除が実現する。もう一つのゲリラ、民族解放軍(ELN)との和平に繋がる可能性が見える。コロンビアのアキレス腱は麻薬とゲリラだ。前者はかつてのメデジン・カルテルの如き強力な組織が崩壊し、小規模化して来た。ゲリラの武力放棄は、ラ米第三位の人口大国コロンビア、及び米州全体の悲願でもある。それには、キューバとベネズエラの役割が不可欠だ。米国の政権交代で頓挫するのは、余りに勿体ない。

20154月、第七回米州サミットがパナマで開催される。キューバを除くラ米18ヵ国の中でALBA4ヵ国は、同サミットにキューバが招かれない場合欠席する旨を言明している。ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチンも同様だ。この時点まで任期が確定している大統領は、この7ヵ国の内、チャベス・ベネズエラ、オルテガ・ニカラグア、及びALBA外ではフェルナンデス・アルゼンチンの3名、コレア・エクアドル、モラレス・ボリビア各大統領は再選され、ブラジルではルラ前大統領が復帰していよう(私のホームページの内、ラ米の政権地図政権一覧表参照)。キューバ自体に大きな変化も有り得ようし、断定は控えたいが、オバマ大統領再選が無ければ米州サミット自体が雲散し、米州機構(OAS)の存在意義喪失の深刻な事態を招いたかも知れない。 

仮に米国で政権交代があれば、麻薬問題に関する米国のラ米諸国に対する要求は強まったのではなかろうか。麻薬戦争を強化したメキシコのカルデロン政権下、麻薬組織への武器密輸が増大し、おぞましい凶悪犯罪が頻発した。メキシコの麻薬戦争は、国家権力が麻薬組織を力で捩じ伏せ、弱体化させても、新たな組織が台頭する様を見せつけている。一方で、一部組織の強大化すら招いた。暴力は中米にも伸びた。寧ろ免罪化こそ麻薬対策に効果的、との考え方が、一部ではあるがラ米指導者にも広がってきている。米国が自らの価値観で麻薬対策を無理強いしても、反発は強まる。国際協調を外交の基本に捉えるオバマ大統領は、少なくとも米国からの武器密輸取り締まりの重要性を認識し、麻薬組織との戦い方に発想の転換を呼び掛ける声に耳を傾ける。

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