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2012年9月28日 (金)

ペーニャニエトの6カ国歴訪

121日にメキシコ大統領に就任するペーニャニエト氏が、917日から24日にかけて、夫人を伴い6ヵ国を歴訪した。

大統領就任前の外遊は、2011年のウマラ・ペルー大統領の例が記憶に新しい(本ブログhttp://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2011/07/post-b38e.htmlご参照)。彼は、自国と共に地域統合体を構成する「南米諸国連合(Unasur)」の他の11ヵ国の内、ガイアナとスリナムを除く9ヵ国と、メキシコとキューバの計11ヵ国を、やはり夫人を伴って訪れている。ペーニャニエト氏の6ヵ国は、ペルーのUnasurに相当する地域統合体がメキシコに無いのだから、少ないとは言えまい。訪問先は隣国グァテマラの他に、メキシコ以外で「太平洋同盟」(http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2011/04/4-2ae6.html参照)を構成するコロンビア、ペルー及びチリの3ヵ国、及びラテンアメリカでG20を構成するブラジル及びアルゼンチンの2ヵ国だ。 

歴訪はグァテマラで始まった。ペレスモリーナ大統領と、治安と人的移動を二大懸案事項、として意見を交わした。前者は、メキシコの麻薬カルテルの暗躍が大きく影響していることが、つとに知られる。後者については、米国に向かう中米人がメキシコで大量に殺害されている、と言う事実がある。いずれもメキシコ側にとって耳当たりの悪いテーマだ。次が、コロンビアで、丁度サントス大統領が、バレラがコロンビアに移送された(http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2012/09/farc-ac1a.html参照)、と発表した当日だった。同大統領と語りあった最重要テーマは治安問題で、麻薬及び組織犯罪との戦いにおけるコロンビアの経験を讃え、自らの政権運営にも活かしたい、と述べた旨が伝えられる。

話は飛ぶが彼の6ヵ国歴訪が終わった後の926日、ペレスモリーナ・グァテマラ大統領が国連で演説し、麻薬犯罪に関わる従来の対策では問題は解決しない、として、新たな選択肢を国連主導で求める時期に来ている、と訴えた。第六回米州サミットで唱えた主張を国連の場で伝えたようなもので、その際に述べた「免罪化(despenalización)」(http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2012/04/post-b2f1.html参照)を含む新たな戦略」の流れだ。同じくこの日に国連で演説したサントス・コロンビア、カルデロン・メキシコ両大統領も、申し合わせた如く、麻薬問題への新たな戦略を訴えた。後者の場合、有力幹部を含むメンバーの多くを武力で逮捕、乃至は殺害した華々しい戦果を有し、誰しもが強硬策の代表格、と見て来たのに、ペレスモリーナ氏と意見を一致させた。 

次に訪れたのはブラジルだ。サンパウロでの経済界との交流で始まり、ブラジリアでのルセフ大統領との会談で終わる、2日間の日程だった。ブラジルで貧困層人口が3千万減少した社会開発の経験をメキシコに教示して欲しい、と同大統領に申し入れた旨を記者団に語っている。ブラジル同様の貧困層への給付と雇用創出を、彼の政権として政策運用に採り入れるに当たり、知恵を貸して欲しい、と言うものだ。また、衰退するメキシコ国営石油会社Pemex社の近代化に、成長著しいPetrobras社の民間との合弁手法を参考にする、とも述べた。ルラ、ルセフと続いたブラジルの中道左派政権下、この合弁手法が築かれた。一方でメキシコでは現カルデロン右派政権下、これが放置されてきた。公営企業の従業員の既得権など、労働法上の障害があったものと思われる。

両国はラテンアメリカ十九ヵ国のGDP総額、対外貿易額及び総人口の三分の二を占める、文字通りの域内二大国だ。だがメキシコは対米依存度が極端と言って良いほどに高く、ブラジルは低い。ラテンアメリカの中ではいずれも工業国で、域内でライバル同士、色々と軋轢も出る。彼は、両国間の補完関係構築への道を強調した。

一つ置いて5番目の訪問国、アルゼンチンは、工業品輸入規制問題で日米欧と共にメキシコも世界貿易機構(WTO)に提訴している。加えて、カルデロン政権はYPF問題で、ラテンアメリカ諸国では珍しいことに、アルゼンチンを批判した。ペーニャニエト氏は、フェルナンデス大統領に対し、両国関係を貿易増強と戦略的連携で素晴らしい将来を築いていくと申し入れた。同大統領の対応は、礼儀正しく友愛に満ちたものだった、と記者団に述べた由だ。 

アルゼンチンの前後に訪れたチリとペルーはコロンビア同様、「太平洋同盟」の相手国だ。前者は一人当たりGDPでラテンアメリカ随一、貧困率は最も低く、経済社会政策で最も成功した国である。彼はピニェラ大統領に、チリに見習い、メキシコにおける貧困との戦いを自らの政権の最優先課題として取り組む旨を述べた由だ。最後の訪問国ペルーは、ここ数年、年率ではラテンアメリカで最も高い経済成長を謳歌する。ウマラ大統領との会談では二国間経済・貿易関係の増強は勿論、ラテンアメリカ域内での麻薬、組織犯罪対策での情報共有化や、通商連携の強化で意見交換したようだ。 

ペーニャニエト氏のブレーンによれば、国民行動党(PAN)政権時代、メキシコのラテンアメリカ域内での存在感は薄かった。域内との経済補完関係を深化させることで、貿易(輸出)が増え、メキシコ国内の雇用増が図れる。加えて、経済、社会政策で域内諸国の成功例を追求し、学び、彼の政権運営に活かしていく重要性は大きい。以上については正しい見かただろう。

彼らは、今回の歴訪は、域内存在感の回復に繋がった、とも言う。一方で、彼を迎えた国々の専門家らは、メキシコの次期大統領が真っ先に、具体的なアジェンダを持ってラテンアメリカ諸国を訪問したことを歓迎する。従来では考えられなかった、と言う。また、近年イデオロギーを重視する政権が域内諸国に続出して来たが、「太平洋同盟」は環太平洋の巨大市場を睨んだグローバリズムを重視する。ラテンアメリカでは新たな発想だ。彼らは、対米依存が極端に高いメキシコが、ラテンアメリカ諸国との同盟に本気で取り組む姿勢を見せた点、大きく評価したのだろう。

 

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