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2012年4月19日 (木)

第六回米州サミットに思う(3)

サントス大統領がサミットの閉会式で、キューバ問題以外で述べた問題の一つが、麻薬との戦い、だ。麻薬との戦いが40年経って(1971年に当時のニクソン大統領が開始)、いかなる結果をもたらしているか、サミットで初めて討議の場を持つ、と語った。

議題に乗せる、と主張したのは、グァテマラのオットーペレス大統領だ。3月始め、中米諸国首脳はバイデン米副大統領との会合の場を持った。このフォローアップの一環として、32324日に、オットーペレス氏が中米首脳をグァテマラのアンティグアに招集したが、出席したのはコスタリカのチンチーヤ及びパナマのマルティネッリ両大統領だけだった。この2ヵ国には、メキシコやコロンビアが動員した軍そのものが無い。オットーペレス氏が主張する麻薬の免罪化(despenalization)については、チンチーヤ氏は売買と消費くらいなら検討の価値あり、という立場で、マルティネッリ氏は反対だが、現在の麻薬対策以外に選択肢を追求するのには異議を唱えない。またブラジル、コロンビア、メキシコの元大統領に合法化(legalization)検討を主張する人もいる。要するに、麻薬需要が有る限り、麻薬を違法としたままでは、麻薬犯罪は無くならない、軍や連邦警察で進める麻薬戦争は、犠牲者を増やすもの、との考え方から来ている。

1週間後の30日、欠席したホンジュラスのロボ、エルサルバドルのフネス及びニカラグアのオルテガ3首脳がサンサルバドルに集合した。フォンセカ湾に面する3ヵ国固有の問題を協議するため、としているが、何とも不思議な光景だ。その際、アンティグア欠席理由を、麻薬の免罪化には反対なのに、オットーペレス氏が中米の総意として第六回米州サミットに挙げよう、としたため、と説明した。 

主催国コロンビアのサントス大統領は、オットーペレス氏の意を組んだ形で、サミットの共同宣言には盛らないとの条件で、免罪化、合法化を含む麻薬対策の討議テーマに採り入れた。現在のコロンビアの麻薬対策は多くの人命を奪い、多少下火になったところで、密売組織は活動の場をメキシコ、中米に広げ、同様に多くの人命を奪い続けている、他にやりようが無いか、米州全体として検証し新たな対策を講じていくプロセスは必要、と言う論理で進めた。米国は、麻薬取引は違法であり、整備面や技術面、或いは訓練の一環として、供給国政府を支援し麻薬組織との戦いを強いる立場に変わりは無い。選挙を控えるオバマ大統領は、免罪化も、まして合法化は、決して容認できない。だがサミット直前に、実態を検証し、新たな対策を議論し合う場は必要、と認めた。且つ、米国内の需要と、米国からラテンアメリカへの武器と資金の流れを問題視するところまで発言を進めた。

結局、オットーモリーナ氏の提起は首脳会合の場に持ち込まれ、結果として米州機構(OAS)に検証と対策を寄託することが決まる。皮肉なことに、共同宣言が出せなかったサミットで、これだけが効力のある合意、となった。またサントス氏は、共同宣言無きサミットはコロンビア外交の失敗、との声が渦巻く中、首脳同士が真剣に討議し合うサミットであり成功だった、とする中で、首脳会合で麻薬問題を初めて協議し、結論を得たことを誇示した。

国際連合薬物犯罪事務所(UNODC)が出している世界の殺人率一覧表(本ブログでもhttp://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2012/03/post-f442.htmlで紹介)には、殺人数も出ている。ラテンアメリカで殺人数が最も多いのはブラジルで、2009年で43,909人(法務省による)、続くのがメキシコで20,585人、その次がコロンビアで15,459人(いずれも2010年、当該国国家警察)だ。この3ヵ国だけは、米国(15,241人。09年、国家警察)を上回る。メキシコとコロンビアは、麻薬組織の存在、という共通項がある。サントス大統領の説明によると、コロンビアではここ10年間で80億ドルという米国からのプラン・コロンビアが奏功し、密売組織が弱体化した。だがメキシコと中米に飛び火した。Baloon Effectと呼ぶ。

カルデロン大統領のサミットでの発言が殆ど伝わって来ないが、よく言われるのは彼の政権下で、5年間の内に麻薬犯罪絡みで5万人の犠牲者が出た、ということだ。年を追って増えており、2010年には1.5万人に達したことがWikipediaTimeline on Mexican drug warsに出ていた。同年のメキシコの殺人による犠牲者数が20,585人なので、その3分の2に相当する数字で、俄かには信じ難いが、外電を追っていると殺害による大量の遺体発見、などのおぞましいニュースが頻繁に飛び込んでくる。1.5万人と言う数字は、米国全体の2009年の殺人数と同じだ。

カルデロン政権は、大統領の出身地ミチョアカン州を皮切りに、軍・連邦警察動員による麻薬カルテル撲滅を図る実力作戦を次々と打ち出した。2008年には米国からの16億ドルに上る「メリダ・イニシアティヴ」が発効した。一方でカルテル同士の報復や見せしめを誇示する首なし死体、橋げたに吊るされた裸の死体、と、おぞましいニュースも多く伝わってくる。動員された軍や連邦警察との戦闘でも死者が続出し、警察や軍、或いは地方行政の幹部らの暗殺も起きた。またカルテルの組織員を逮捕すれば、今度は大量脱走や刑務官暗殺も多発するようになった。麻薬組織と行政、警察との癒着関係も取り沙汰されるが、彼らとて命がけだ。 

中米の、いわゆる北の三角地帯諸国、グァテマラ、ホンジュラス及びエルサルバドルの3ヵ国は、殺人率だけをとればメキシコの比ではない。軍や警察の実力差、貧困の度合いを理由にするのは簡単だが、それにしても高い。殺人実数は2010年で計16,284人だが、総人口で12倍もある米国の、09年の数字を超える。麻薬犯罪に絡むのがこの内の何パーセントか私は存じ上げないが、コロンビアやメキシコの取締りの厳しさから、麻薬組織が中米に足を延ばしてきたことは間違いあるまい。しかし上述の通り、グァテマラと他の2ヵ国は、麻薬対策では意見を異にする。何か勝算があるとも思えないが、今後のOASによる検証と寄託の結果を見ていきたい。

ところで、米国南方軍が推進する「ハンマー作戦」がある。カリブ及び太平洋沿岸で通行する麻薬組織を拘束するものだ。今年1月にスタートし、既に50名の拘束と25キロのコカインの押収を実績として挙げた、と言う。米国政府が麻薬との戦いでラテンアメリカ諸国に協力するわけだが、これには見直しはあるのだろうか。

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