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2012年3月10日 (土)

中米の麻薬問題とバイデンの訪問

 

35日から3日間、バイデン米副大統領がメキシコとホンジュラスを訪れた。外電が伝えるのは、麻薬問題の解決に向けた取り組み方のすり合わせだ。 

最初に訪問したメキシコのカルデロン大統領は、米国の支援で取締り技術や装備を得て、軍隊を動員し麻薬組織の武力制圧を図ってきた。その過程で、彼が大統領になってこの方、5万人もの犠牲者が出た。組織の構成員は、警官や逮捕された後は刑務所の職員を脅迫し、或いは脅し、或いは殺害し、一般市民をも巻き添えにしてきたこともあるが、大半は異なる組織同士の抗争による。麻薬組織の幹部たちは米国から引き渡しを要求されることも多い。これを嫌い、益々凶悪化する。彼らの武器も、多くが米国から、こちらは密輸される。いっそのこと、麻薬の合法化を唱える声も高まって来た。 

ホンジュラスの首都、テグシガルパには中米統合機構(SICA)を構成する7ヵ国の内、ベリーズを除く6ヵ国首脳が顔を揃え、バイデン氏との協議に臨んだ。ここでも、麻薬合法化に加え、米国の責任を問う声が高まっていた。 

 

20116月、グァテマラ市にクリントン国務長官が訪れた際には、7ヵ国に、準加盟国のドミニカ共和国、メキシコ及びコロンビアの大統領とインスルサ米州機構(OAS)事務総長まで集まった。「中米治安戦略のための国際会議」(以下「中米治安戦略会議」)の一環であり、スペインなど域外諸国や世銀などの国際金融機関も代表団を出した。この時世銀、米州開銀(IDB)のクレジットライン計15億㌦と、米国などの政府間援助が決まった。 

国際連合薬物犯罪事務所(UNODC)が世界の殺人率(homicide level。人口10万人に対する殺害された人数)を纏めた資料が有る。日本は2008年で0.5人、米国が2009年で5人だ。これらに比べ、SICA構成7ヵ国の内、ホンジュラスは2010年に82人、エルサルバドル66人、ベリーズ42人、グァテマラ41人となっている。40人を超すのは米州にはジャマイカとベネズエラがあるが、米州外では西アフリカのコートジボアールしかない。ラテンアメリカで治安が悪いと言われるコロンビアが33人、ブラジルが23人、メキシコが18人だから、SICA4ヵ国の、はっきり言って信じ難いほどの凄まじさだ。22人のパナマを加えた5ヵ国がメキシコを上回り、殺された人の数は合計で1.7万人にもなる。 

ホンジュラスについては、同国の人権委員会が、2011年に殺された人は7,101人、ロボ政権発足後23カ月で12,838人が殺されたことを明らかにした。UNODCの資料では10年の殺人実数が6,239人なので計算が合わないが、人口8百万ほどの国でこの数字は異様であること、言うまでも無い。 

 

中米の治安が悪さの相当部分が、麻薬密売組織による、と言われる。1年前のニューヨークタイムズ電子版に、米国向けコカインで中米を通過したコカインは、2006年で23%だったが、10年には84%に達した、とある。09年以前、米国はグァテマラ及びエルサルバドルだけを麻薬中継地リストに入れていた。だがホンジュラスも重要な中継拠点で、09年央、コカイン精製の実験所を立ち上げてもいる。同年中に同国と、ニカラグア及びコスタリカまでが中継地リストに加えられた。UNODCによる10年の両国の殺人率は夫々11人、13人だから、殺人率はぐんと落ちるが、それでも米国の倍以上だ。後者は太平洋岸のプンタレナスに高速麻薬輸送船が出入りし、前者は、カリブ海岸の麻薬取り締まりに国軍を配し、丁度コスタリカとの紛争地帯だったことから、同国との領土問題を惹き起こしたことは記憶に新しい。 

 

米国は自国民の麻薬消費を抑えるためには、生産地からのルートを断ち切るしか無い、との考え方を、ここ数十年、変えていない。これまでプラン・コロンビア、メリダ・イニシアティヴを打ち出し、前者はコロンビアに、後者はメキシコと中米地域に資金、装備、情報収集の技術、或いは専門家を提供してきた。米国のかかる支援を受け、コロンビアでもメキシコでも麻薬カルテルと必死に戦った。だがカルテルは一つ消えてもまた生まれる。且つ、コロンビアやメキシコの当局から追われる形で、中米に勢力を拡大した。 

結局麻薬犯罪が拡大し凶悪化する。また一般犯罪にも連鎖し、一層の治安悪化を招く。昨年の治安戦略会議では、麻薬消費を犯罪、と単純に扱うことに疑問を呈する大統領もいた。その会議から1年近く経った今、いっそのこと麻薬を合法化すれば、犯罪は減る、との主張が高まっている。昨年の治安戦略会議の主宰者、グァテマラのコロム大統領(当時)を引き継いであまり日が経っていないペレスモリーナ大統領が、その急先鋒のようだ。 

米国は、麻薬合法化は論外、との立場だ。今回のバイデン訪問には、合法論を押さえる目的も有ったのではなかろうか。 

 

丁度バイデン氏が中米首脳との会議に臨んでいた時、コロンビアのサントス大統領がハバナに飛び、キューバのカストロ議長と会談し、4月にカルタヘナで開催する米州サミットに招かれないことを伝え理解を求めた。民主化されていないことを理由に、米国が強く反対したことによる。キューバ側は米国への非難は口にしても労をとったサントス氏に感謝した。丁度ハバナでの療養で滞在中のベネズエラのチャベス大統領とも会談、先般のALBAでの申し合わせ(キューバを招かない場合、米州サミット欠席)を見直すよう求めた。 

コロンビアと言えば、2002年、ウリベ前大統領が政権に就いた年には、左翼ゲリラへの対抗勢力として右翼パラミリタリーが活発だった。その年の殺人率は世界最高の67人、それが、右翼パラミリタリーが名目的に消滅して3年経った10年には、上記の通り33人へと半減した。とは言え、コカイン生産国のこと、強力な麻薬カルテルが分散しても、しぶとく残っている。 

 

サントス大統領はハバナからの帰国後、将来のキューバ受け入れについて議題に乗せる、と語った。重要なのは、麻薬合法化も議題に乗せる、としたことだ。米国の強硬な意向により、イベロアメリカサミット、ラテンアメリカ・カリブ共同体(CELAC)サミットなどどこにでも出席できるキューバを、米州サミットだけが排除する。米国の麻薬戦略により、コロンビアからメキシコにかけて麻薬カルテルとの戦争が繰り返され、暴力が広がり、関係地域の治安悪化は収まる気配さえ見せない。サントス氏は敢えて言わないが、米国の押し付けへの反発が、相当に高まっているように思える。

 

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コメント

バイデン米大統領→バイデン米副大統領 へ訂正願います.それにしてもホンジュラスの殺人率!

投稿: やぎ | 2012年3月15日 (木) 12時20分

ご指摘ありがとうございます。早速訂正いたしました。
国連機関の殺人率一覧表をご覧になれば、ラテンアメリカを愛する私も、ホンジュラスの凄まじさもさることながら、中米の4カ国とベネズエラ及びジャマイカの酷さに唖然としてしまいます

投稿: 管理者 | 2012年3月15日 (木) 14時53分

やっぱり南米はかなり違った世界ですね。スペイン人の征服がとても略奪と暴行に満ちたものだったと教えてもらってから少しスペイン人や欧米人に対する見方が変わりました。ゲルマン民族の大移動もゲルマン人が書いた歴史の表現で本質は征服だった筈です。蒙古や騎馬民族による征服もあり侵略は常だったので、欧州は利害対立には目をつむっても民族生き残りをかけて指導者の下に一致してまとまれるのでしょうね。

投稿: 元樹林の体操おじさん | 2012年3月27日 (火) 11時18分

元樹林の体操おじさんへ

麻薬問題と何世紀か前の欧米人征服者とを繋げて見るのは如何かと思います。米国という麻薬の大消費地と陸繋ぎになっている中南米で、先住民が好んだ南米原産のコカをコカインという麻薬に精製して米国に売りつけることを考えたのが誰か存じませんが、金儲けにちょっと機転のきくワルは今の世界、どこにでもいるのではないでしょうか。確かに、かのアヘンについては、イギリス人のアジア人蔑視の象徴で、僅か2世紀前のことですが。

投稿: 管理者 | 2012年3月30日 (金) 11時09分

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