« ボリビアの先住民運動(1) | トップページ | ボリビアの先住民運動(2) »

2011年10月 2日 (日)

廃止されたキューバ砂糖産業省

629日のキューバ共産党の機関紙グランマが、砂糖産業省の廃止と、代わりに砂糖農工企業グループの創設を伝えた。検討を重ねた結果として、24日に行われた閣僚評議会会合で決まった。一方で、革命前、砂糖産業は最も革命的な労働力を出したセクターの一つであり国内経済の機関車となったことは、忘れるべきではない、とのラウルのコメントも出された。

実は、砂糖産業の再構築はラウル・カストロ氏が兄フィデル氏から議長を正式に移譲された2008年に始まり、同年ブラジルの協力で近代化計画がスタートしている。昨2010年、生産高を2015年までに250万トンにするための砂糖産業の再構築を行う、としたが、その具体策が見えて来た。キューバではセントラル(centrales)と称される砂糖コンビナートは現在61箇所にある。これを56箇所に減らすが、取り敢えずは12月から始まる次の生産期(サトウキビの伐採から砂糖生産まで。キューバではサフラzafraと言う)の生産高を145万トンとした。5月に終わった前生産期は、120万トンだった。各コンビナートには経営面での雇用や資機材調達や販売面で輸出入を含む裁量権を付与すると同時に、資金調達や採算性への責任を課す。国家全体として、効率化に繋がる、とする。 

キューバは、197080年代にキューバに駐在した私どもには、砂糖産業と切り離せない国だった。ご存じの通り、砂糖産業は第一次産業に留まらない。サトウキビ栽培は農業だろうが、砂糖と副産物の生産は工業だ。その一環生産活動を行うのに広大な農園と工場敷地が要る。サトウキビを絞り煮込み、遠心分離器にかけ、最終的に糖度96%の粗糖に持っていく工場の一部の機械や部品は内製する。また、サトウキビから抽出するアルコールは、ラムに使われる。絞り粕(バガス)はボイラーの燃料としても、板状にして家具材にも使われる。バガスの一部は家畜の飼料にもなる。一部は、薬剤の材料にも使われる。キューバの砂糖産業は、サトウキビを徹底的に利用し、市場を開拓して、商業生産に乗ると分かると新たな製品の生産工場も作った。複合産業であり、その職員たちの質は高い。そこの様々な研究開発チームが、キューバの技術向上に大きく貢献してきたことは、197080年代のキューバを知る人たちには常識で、MINAZと略称で呼ばれる砂糖産業省は就職先として、当時技術系の勉学に励んでいたキューバの若者たちにとり、憧れだったようだ。 

ある外電の記事を読んでいたら、キューバ経済の脊髄だった砂糖生産はソ連圏消滅により、820万トンから100万トンを僅かに上回る程度にまで落ち込んだ、2003年、155か所にあったコンビナートは61カ所に減らされ、サトウキビ生産農地の60%が他の農産物生産に転用され、砂糖関連労働者も配転された、とあった。

私の認識は、キューバの砂糖生産高は悪くて600万㌧、良い時は800万トンで、毎年400万トンを輸入してくれるソ連東欧圏の存在も有り、世界砂糖貿易の中では常にトップだった。ソ連崩壊後も200300万トンを買う非ソ連圏は厳として存在していたし、特に中国が購買量を増やしていた。加えて、ロシアはキューバ糖輸入継続の意向を持っていた。ソ連崩壊から10年以上も経って漸く半減以下となったコンビナートは、それでも400万㌧以上の潜在生産能力があった。世界の砂糖需要が減ったわけではない。国際砂糖価格は、それまでとは一変して高水準下にある。だから、100万トンにまで落ち込んだのには、別の理由があろう。ソ連東欧型経済システムが、効率面でも採算面でも今の時代に合わなくなってきた。 

外電が伝える政府筋の情報として、本年中に中央省庁の再編成が行われるそうだ。砂糖産業省の廃止は、24日の閣僚評議会で採択された広範囲の再編成の第一号と言う。4月の共産党大会で承認され、8月の人民権力全国会議(キューバ国会)で追認されたラウル・カストロ改革の目的は、効率化と採算性向上、及び企業に対する政府の役割縮小にある。どの省も中央政府組織としての機能が無くなれば、廃止される。

だがこの中で、基礎産業省はエネルギー、鉱山両省への分割も決まった。ご存じのように、メキシコ湾のキューバ領内には大規模油田が存在する。このオフショア油田からの産出が、もうじき開始されよう、としている。石油は、国内生産が需要を賄えず、ソ連圏が健在の頃はソ連から不足分全量を賄った。その崩壊後キューバ経済が塗炭の苦しみを経験したのは、輸入量が激減した石油の不足に負うところが大きい。チャベス・ベネズエラ政権発足後キューバが経済を回復できたのは、ベネズエラとの医療チーム派遣と石油との交換スキームの賜物だった。オフショア油田はそのキューバに、石油の自給どころか輸出を可能とする。

どこの石油輸出国にも石油省やエネルギー省があるが、これを基礎産業省から切り離して創設しよう、というものだ。鉱山資源も本来国家に帰属するもの、との考え方も世界では一般的だ。ニッケルと言う希少金属の鉱山を持つキューバには、その管理を独立企業に委ねる訳にはいかない。だから鉱山省の新設だろう。個人的には、単に鉱山エネルギー省に名称変更することで構わない気もするが。

|

« ボリビアの先住民運動(1) | トップページ | ボリビアの先住民運動(2) »

キューバ」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。