パラグアイの独立200周年記念式典に思う
5月14日、大雨の中、パラグアイ独立200周年を祝い、アスンシオンのロペス元帥通りを国軍、警官隊、市民によるパレードが練り歩いた。ホストのルゴ・パラグアイ大統領の他、ムヒカ・ウルグアイ、モラレス・ボリビア両首脳も参列した。ルセフ・ブラジル大統領は最近肺炎を患い病み上がり、と言うことで大事を取って欠席した。フェルナンデス・アルゼンチン大統領は悪天候下の移動は控えるべき、と言うことで参列を見合わせた。元々、メルコスル原加盟国プラスボリビアの首脳全員が集合する筈だった。いずれも外相が代理参列しているとは言え、昨年5月のアルゼンチンの200周年記念式典に比べ、かなり寂しい(http://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2010/05/200-26a9.html)。大寺院での讃歌式典の最中に停電が起き、外部では豪雨の中で雷鳴が轟いた、という。
パラグアイとアルゼンチン、ウルグアイ及びボリビアは、1776年に設置されたラプラタ副王管轄領だ。1810年5月25日、ブエノスアイレスのカビルドが副王を罷免し自治評議会(フンタ)を立ち上げた。その支配権は当然、副王領全体に及ぶ、とした。だが、パラグアイはスペイン王室から派遣された知事(インテンデンテ。私のホームページ「ラ米の独立革命」の独立前夜参照)ベラスコ(1765-1822)が健在でフンタ支配下に入らない。ボリビアは隣のペルー副王が軍を派遣し支配下に置いた。ウルグアイに至っては、罷免された副王がモンテビデオに拠った。フンタは、ベルグラーノ(1770-1820)に北部遠征軍を委ね、先ずはパラグアイとボリビアの武力制圧を図った。ウルグアイではアルティガスが独立運動を開始する(同、スペイン領独立革命の勃発参照)。
ベルグラーノ軍は、1811年1月のパラグアリの戦い、3月のタクアリの戦いを経て、取り敢えずパラグアイから撤退した。すると、アスンシオンのカビルドがパラグアイのフンタ立ち上げをベラスコに受諾させた。これが5月14日のことだ。彼は数日間、フンタのトップに立ち、その後1ヵ月間はフランシア(1766-1849。下記ロペス父子共々、「カウディーリョたち」のラプラタ諸国のカウディーリョたち 参照)らと三頭政府の一角にあった。彼が最終的に追放された後の同年10月、ブエノスアイレスのフンタがアスンシオンのフンタの自治権承認を確認するフンタ間条約が結ばれる。だが2年後、元々この条約に異議を唱えていたフランシアの独裁体制が整い、失効する。
またボリビア制圧も捗らず、サンマルティンがペルー解放に向かったのは、ボリビア奪還作戦の一環だった(「ラ米の独立革命」独立革命の再開参照)。結果的に1825年、ボリーバルに解放され、建国している。ウルグアイのモンテビデオは1814年6月、フンタの派遣した軍が制圧したが、アルティガスがフンタ支配を受け容れず、一旦撤収した。彼は1816年7月のリオデラプラタ諸州連合の独立宣言にも参集しなかった。そして半年後、ポルトガル・ブラジル連合王国に併合されてしまう。スペイン王室から出たカルロタ・ポルトガル王妃の領地、というのがその理由だった。「ブラジル・アルゼンチン戦争」(「ラ米の戦争と軍部」独立黎明期(1820-50年代)の戦争参照)を経て、独立国となる。
つまり、この5ヵ国は独立期から因縁が深い。さらに、パラグアイは他4ヵ国との交戦関係を経験する。パラグアイに破局的敗戦をもたらすブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ三ヵ国同盟との戦争に発展した「パラグアイ戦争」(同、ラ米確立期(1860-1910年代)の戦争参照)は、唯一パラグアイと国境を接していないウルグアイの建国以来の政情不安が火元だった。その62年後の「チャコ戦争」(同、二十世紀の国家間戦争参照)は、チリとの太平洋戦争に敗れ内陸国になったボリビアが相手で、ブラジルとアルゼンチンを含む4ヵ国の調停による講和の末、事実上の勝利を得ている。
ラテンアメリカ十九ヵ国で最も早く独立を達成したパラグアイは、1870年3月までをフランシアとロペス親子の三人だけで支配した。「パラグアイ戦争」は、最後のロペス・ソラーノがウルグアイから対ブラジル調停を依頼された結果起きたものだ。パラグアイにとり、彼は今なお最大の英雄として敬愛される。「チャコ戦争」勝利から暫く軍部の発言力が強まり、クーデターなどによる政情不安期を経て、1954年から89年までストロエスネル(「軍政時代とゲリラ戦争」の軍政時代前夜参照 )時代も経験した。パラグアイ200年は、実に94年間がこの4人により支配された。南米で唯一、大統領の再選そのものを禁じるのには、かかる時代背景がある。
だが、隠し子やら健康問題やらの一方ではルゴ大統領の国民支持率は高く、彼の連続再選を期待する声も高まっているようだ。
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