ペルーの選挙
4月10日、ペルーで大統領と130名の国会議員、及び5名のアンデス議会議員を選ぶ選挙が行われた。大統領選は、開票率88%の段階でウマラ元陸軍中佐(48歳)が31.5%、ケイコ・フジモリ議員(35歳)が23.2%、高名なエコノミスト、クチンスキー候補(72歳)が18.9%の得票で、第一位から第三位に付け、最初の二人が6月5日に行われる決選投票への進出が決まった。国会議席数は、ウマラ氏の「ペルーの勝利同盟」は、本日現在確定されていないものの、四十数議席で第一党に、ケイコ氏の「2011年の力」は三十数議席を確保し第二党になることが確実視される。
今回立候補したトレド元大統領(65歳)は、3月半ばまで全候補者中、最高の支持率を享受していた。だが、ウマラ氏とクチンスキー氏が支持率を急伸させたことで、決選投票にも進めなくなった。ノーベル賞作家のバルガス・リョサ氏やデクエヤル元国連事務総長の支持も得ながら、選挙戦終盤で沈んだ格好だ。
ウマラ氏は、2006年選挙では、31%の得票率で第一位を付け、24%で第二位だったアプラ党のガルシア現大統領に、決選投票では47%対52%で敗れた人だ。1968年10月に成立したベラスコ軍政の国家主導型経済政策とナショナリズム(私のホームページ中「ラ米の革命」のペルーとチリの「革命」参照)を志向する。国民の平等と貧困追放を前面に挙げ、ペルーの変革を訴え、経済活動への国家の役割を強調する。人口の3分の1、つまり1,000万人が一日当たり3㌦の収入しか無い貧困層に属し、経済成長の恩恵から見放されているが、彼らの多くがウマラ氏を支持している。
一方でペルーの変革は急進的なものではなくあくまでも漸進的なもの、とし、投資家保護を約束する。近年、ラ米で最も経済成長を見た現実を見つめている、と言える。ルラ・前ブラジル大統領のスタイルを意識している、と見られ、本人も政策モデルとしてブラジル型を唱える。2006年選挙の前に強い支持を公言したチャベス・ベネズエラ大統領との距離も置いている。それでも、国内外の経済界には彼への懸念が拭えないようだ。
対するケイコ氏は、06年総選挙ではペルー史上最高得票で議会進出した。やはり国民の平等と貧困追放の貧困層救済を政見の一つに掲げる。彼女の政治資産は、現在懲役25年の刑を受け服役中の父、アルベルト・フジモリ元大統領の実績だ。センデロ・ルミノソ及びMRTA(私のホームページ中「軍政とゲリラ戦争」のゲリラ戦争 参照)という左翼ゲリラを抑え、国内治安を回復させ、且つ、対外債務やハイパーインフレで破綻していた経済を再建させた。経済再建手法は、新自由主義に依る。結果的に、これが彼の失脚後も綿々と受け継がれ、近年の好況に繋がってきている。
だが、1990年から10年間に及ぶフジモリ政権期、議会解散、改憲、軍事行動など、強硬策が多用された。特に左翼ゲリラ制圧の過程で多くの犠牲者が出たことから、人権侵害、として非難を受け、現在の収監に至っている。彼女にはそのマイナスの政治資産も有る。
2000年10月、ウマラ中佐率いる39名の国軍兵士がフジモリ退陣と彼の側近の逮捕を要求し、反乱を起こした。ケイコ氏の父親が失脚したのは、この1ヶ月後のことだ。決選投票は、文字通り因縁の対決、となる。彼女と熾烈な二位争いを演じたクチンスキー氏は、国際的エコノミストとして長く米国を拠点に活躍した。新自由主義を奉じる立場からウマラ氏は受け容れられない。決選投票では彼女を支持する、と明言した。
1005年1月、ウマラ氏の弟アンタウロ陸軍少佐(当時)が、トレド大統領退陣を要求して警察署占拠の挙に出た。その際警官4名が殺害された、とし、懲役25年の刑を受けた。元大統領が、イデオロギーの差に加えウマラ氏を敬遠する理由の一つだ。だが一方で彼は彼女の父親のアンチテーゼとして大統領になった人で、彼女への抵抗感も強い。
ペルー人は一般的にイデオロギーには恬淡とした部分が強く、選挙戦は人物本位に行われる、と言われる。つまり、右派か中道左派(チャベス氏と距離を置いた)か、ではなく、ケイコ氏か、ウマラ氏か、である。フジモリ元大統領の実績を率直に評価する層も多いが、独裁的、として憎む人も多い。ケイコ氏は宿命的にそれに向き合うしかない。ウマラ氏には行動的なイメージが強烈だ。労働界のカリスマだったブラジルのルラ氏に通じるが、同じく軍人時代に行動を起こしたベネズエラのチャベス氏にも通じるところがある。積極的な支持を集める一方で、強い反発を受ける。
ペルー国民は、どちらに軍配を挙げるのだろうか。
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