「黒い春」事件の服役囚釈放完了-キューバ
キューバの人権問題についてはこのブログでもhttp://okifumi.cocolog-wbs.com/blog/2010/06/post-1cb0.htmlなど何度か採り上げたが、2010年7月11日に始まった黒い春事件服役囚釈放が、3月23日に漸く終了した。それまでに健康問題を理由に釈放されていた23名を除く52名について、キューバのカトリック教会とスペイン外相の努力で、ラウル・カストロ議長が3,4ヵ月以内の釈放を約束し、国際ジャーナリズムではその期限を教会の説明をもとに同年10月末、としていた。実際にその期限までに釈放されたのは40名で、全員が家族と共にスペインに亡命した。国内残留を求めていた残る12名の釈放は、11月に健康問題で釈放された1名を除き大幅に遅れ、2011年2、3月、一月半を費やして実現した。また黒い春事件以外で74名が釈放され全員がスペインに向かった。こちらの方は、大半が、いわゆる政治犯とは看做し難い。
ともあれ彼らを含めると、釈放数は1998年の法王ヨハン・パウロ二世訪問時に釈放した約100名を上回る。欧州連合(EU)のアシュトン外務上級代表(EU外相)も歓迎する、旨の声明を直ちに発した。EUと言えば、キューバ制裁に関わるCommon Position(共通の立場)が、未だに有効だ。対キューバ共通政策判断は、4月の共産党大会を見据えてのことだろう。EU内のキューバ擁護派の筆頭は、カトリック教会と共に、政治犯釈放に取り組んできたスペインだが、この国とて一枚岩ではない。最大野党の人民党は、EUの共通制裁強化さえ訴える。
キューバ国内の反体制運動は、一般的に非暴力を基本とし、民主体制への平和的移行を訴える。これが現下のリビアの反体制派と大きく異なる。また政府も武力制圧は行わない。これが現下の民主化運動に対する長期政権下のアラブ諸国と違う点だ。活動家の逮捕収監は、あくまで「外国、とりわけ米国の意向により、彼らから資金供与を受け」「革命体制を崩壊させる目的で行う」スパイ行為や国民扇動を理由としており、その証拠が無い非合法組織の活動は、事実上黙認している。
国際ジャーナリズムによく登場する「人権と国民和解のキューバ委員会(CCDHRN)」も非合法組織だ。主宰者エリサルド・サンチェス氏に逮捕歴があるかどうか私は知らないが、黒い事件での服役囚釈放完了を率直に歓迎しながらも、政治犯はまだ50人以上残っている、民主活動家に対する人権尊重を強く求める、と公言する。その服役囚の妻たちが結成した「白衣の女たち(Damas de Blanco)」も、「Gusaneras(ウジ虫ども)」呼ばわりされながらも、毎日曜日デモを繰り返してきた。釈放終了を喜びながらも、まだ収監されている75人の政治犯の釈放まで、活動を続けると言う。一方で、52名の釈放を求め135日間のハンストを決行した後保釈中だったファリーニャス元服役囚(黒い春事件とは別)は、この日、再び逮捕、収監された。
米国政府からは特段の声は本日3月26日現在、聞こえて来ない。オバマ政権は、EUが態度を硬化させたサパタ服役囚の83日に及ぶハンストでの死亡事件(2010年2月23日)を経ても、対キューバ制裁を大きく緩和してきた。寧ろ、2009年12月以降収監されている米国人のアラン・グロス氏の釈放の方がずっと重要だろう。3月11日、キューバ法廷が15年の懲役刑を言い渡した。求刑(20年)から数日遅らせての判決だった。罪状は、米国政府によるキューバ体制転覆のための地下情報網整備プロジェクトへの直接関与だ。実際には、キューバ在住ユダヤ人社会にパソコンを配布し、インターネット通信を可能にする請負契約の資金が、USAIDから出ていることを問題視したものだ。
判決から1週間後、米英仏軍がリビアへの軍事行動を開始した。フィデル・カストロ前議長はこれを国内問題に関する欧米の介入であり、内戦助長に繋がり大量の犠牲者を出すもの、と強く非難している。米国人への実刑判決に続くもので、米国世論が毀損されることは想像に難くない。28日、キューバ政府の招きでカーター元大統領が2002年に次いで二度目のキューバ訪問を行うが、カストロ議長に対し人道的特赦を要請するのではないか、との見方が出ている。