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2011年1月15日 (土)

ホンジュラスの大統領再選への道

112日、ホンジュラス議会は憲法第374項削除を決議した。政府形態、国土、大統領任期、大統領再選に関わる改正を禁止する、"pétreos"(石のように硬い、の意)と呼ばれる、いわば不可侵条項だ。全128議席中、103の賛成票を得た。与党の国民党は勿論のこと、野党の自由党も、執行部は反対指令を出したのに、半数以上の議員が賛成に回った。国民党一院制であっても、25日に召集される次回会合で再可決に付され、86以上の賛成票で最終的に決着する。憲法改正に繋がるので、国民投票に付される。この実施手続及び規程も併せて決議された。

いうまでもなく、20096月セラヤ前大統領が、違憲に当たるので思い止まるべし、との最高裁勧告を無視して強行しようとしたのが、全く同様の国民投票だ。この時にはクーデターを招き、彼は追放された。追放後のミチェレッティ暫定政権は、国際社会が彼の速やかな復帰を促すのを内政干渉と断じ、頑強にクーデターを擁護する最高裁の判断を理由に復帰を認めなかった。総選挙を経て発足したロボ国民党政権は今もなお、南米の大半とニカラグアに承認されていない。クーデターで発足した暫定政権下で強行された総選挙への正統性が疑問視されているからだ。

僅か1年半前には、かかる国民投票を違憲として、クーデターすら擁護した最高裁は、今もなおセラヤ前大統領が亡命から帰国すれば、国家反逆罪で直ちに逮捕させる、とする。今回の議会決議に対しては、国民投票までのプロセスの中で判断する由だ。彼が属していた自由党は、少なくとも指導部は、ホンジュラスは独裁者の再登場を阻めるほどには政治的に成熟していない、として決議反対の立場だ。企業経営者や宗教界指導者らも、一般的に再選解禁を含む政治改革に反対の立場、とされる。

ラテンアメリカには、大統領再選そのものを認めない国は、他にメキシコ(但し任期は6年)、パラグアイ(同、5年)及びグァテマラがある。私のホームページ中ラテンアメリカの政権地図政権一覧表参照。歴史的に、長期独裁を経験した国ばかりだ。ホンジュラスでもカリアス将軍(在任1933-49)の例はあるが、メキシコのディアス期(1876-1911)、グァテマラのカレラ期(1838-65)及びエストラダ期(1898-1922)、パラグアイのストロエスネル期(1954-89)と比較すれば、在任期間は短い。カリアス期は、やはりグァテマラのウビコ(在任1930-44)将軍など、中米・カリブ諸国の大半が軍人による十年を上回る長期政権時代だった。だから、ホンジュラスで独裁者の出現を阻むため、として、大統領再選禁止の条項を不可侵とする憲法規定が、私には理解できないでいた。

とまれ、ホンジュラスもキューバを除く他ラテンアメリカ14ヵ国同様、大統領再選を認める国になって行くかどうか、注視したい。護憲派から違憲訴訟が出されると、最高裁がこれを認め、次の段階で議会が最高裁判事の交代人事が出され、新たな政治危機に発展する可能性も囁かれる。そもそもセラヤ追放は、チャベス・ベネズエラ大統領との関係深化を嫌った結果であり、違憲は二の次、として、すんなり通る、との見方も有る。彼は、二年前の犯罪性が今や合憲に、と皮肉る。ロボ大統領は、任期終了後は一日たりとも大統領の座に残らぬ自分と、自らの再選を狙ったセラヤ前大統領の前回の行動とは全く意味合いが違う、と言う。だが共通するのは、二人ともこれを歓迎している点で、自由党内外の親セラヤ派の面々も同様だ。

もう一つ注視すべきは、この「再選」の中身だ。一期、とか二期を経るのか、一気に連続再選まで進むのか。トルヒーヨ期(1930-61年)を経て、バラゲル期(1966-78年、86-96年)を経験したドミニカ共和国は、今も連続再選を認める。ソモサ家支配(1936-79年)を経験したニカラグアでも、オルテガ大統領の年頭演説を見る限り、連続再選は既定路線となっている。南米に眼を移すと、ペルー、チリ、ウルグアイ及び再選自体を認めないパラグアイ以外は連続再選が可能だ。だがそうなるには時間がかかった。ホンジュラスの政治成熟度を見る上でも、気になる。

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