第二十回イベロアメリカサミットに思う
12月3、4日、アルゼンチンの保養地、マルデルプラタでイベロアメリカサミットが開催された。先日このブログでもお伝えした南米諸国連合(Unasur)同様、民選の国家指導者を追放する国家への制裁を巡る、いわゆる民主条項が決議されたが、エクアドルが提起した最近のウィキリークスを通じ暴露された米国の公電内容に対する非難決議案は見送られている。またニカラグア-コスタリカ間の領土紛争についは、何の進展ももたらしていない。2021年まで総額1,000億㌦を教育振興に充て、2015年には地域からの文盲を一掃する、とする意欲的な教育投資決議も採択された。
第二十回という区切りの良さにも拘わらず、スペインのサパテロ首相(但しフアン・カルロス国王は出席)の他、2009年の第19回エストリル(ポルトガル)会合同様、ホンジュラスは招かれず、ニカラグア、ベネズエラ、ボリビア、及びキューバの左派政権4ヵ国も連続で副大統領乃至は外相が代理出席し、首脳は欠席した。
キューバの首脳出席は、フィデル・カストロ前議長が出席した2005年のサラマンカ(スペイン)の第十五回サミットが最後で、彼を継いだラウル現議長は一度も出席していない。一方で、今回サミットでも従来の通り、キューバに対する米国の経済制裁に対する非難決議が出された。ベネズエラのチャベス大統領はサンティアゴ(チリ)で開かれた2007年の第十七回サミットで、スペインのアスナール前首相(在任1996-2004)をファシスト呼ばわりし、フアン・カルロス国王より「¿Por qué no te callas?(煩いよ、ほどの意味)」、と窘められ、次回から出席しなくなっている。ニカラグアとボリビアは二回連続の首脳欠席だ。恣意性はなかろうが、気になるところだ。オルテガ・ニカラグア大統領はコスタリカのチンチーヤ大統領との同席を嫌ったのではあるまいか。
イベロアメリカサミットの第一回会合は1991年7月、グァダラハラ(メキシコ)で行われた。同年、メルコスル創設に関わる「アスンシオン条約」が締結され、また中米統合機構(SICA)創設に関わる「テグシガルパ宣言」が採択されている。マドリードで第二回会合が開かれた92年には、NAFTA合意が成った。サンサルバドルでの第四回会合の94年、マイアミで第一回米州サミットが開催され米州自由貿易圏(FTAA)が議題に上った。そしてビニャデルマル(チリ)での第六回会合の96年、アンデス共同体(CAN)発足のための「トルヒーヨ議定書」が調印されている。この辺りまで、ラテンアメリカの地域統合に関わる組織化が進められていた。
2004年11月に行われた第十四回会合で、ピレネーのミニ国家、アンドラへの参加資格付与と常設事務局(Secretaria。1999年ハバナ会合で設置が決まった。所在地マドリード)の事務総局(Secretaria General)への格上げが決議された。同年12月、第三回南米サミット(クスコ)で、EUをモデルとした「南米共同体」創設のための「クスコ宣言」調印が成っている。言うまでも無く、2008年5月の南米諸国連合(Unasur)憲法条約に発展するものだ。翌2005年、サラマンカ(スペイン)での第十五回会合より22ヵ国目としてアンドラの行政府長官(首相)、及びイベロアメリカ事務総局初代総長に選出されたウルグアイ出身のイグレシアス前米州開銀(IDB)総裁が出席するようになる。
2006年のウルグアイでの第十六回会合辺りから、幾つかの国が代理出席者を送るようにもなった。この年、ベネズエラがCANを脱退しメルコスル加盟を申請した。そして、Unasur憲法が決まった年の第十八回会合からチャベス大統領は出席しなくなった。
イベロアメリカサミットとは、本来スペイン及びポルトガルと、その旧アメリカ植民地の指導者が揃って同席する会合を指す。だから、メキシコと、現に存在するSICA、Unasurを更に発展させた地域統合体を目指すことを、私は考えてしまう。だが、イベロアメリカそのものが、自己主張が非常に強い国家群であり、SICAもUnasurも纏まりきれないのに、大西洋を挟んだ統合体に発展するイメージは、どうにも湧いてこない。現在、ベリーズと東チモールから参加申請が出されてもいる。SICA加盟国でもある前者はともかく、後者が入るとなると、昨2009年にフィリピンと赤道ギネア両国が「準参加資格(Associate member)」を得たのとは異なり、サミットの性格は極めて希薄化しよう。
次に、スペインもポルトガルもEU加盟国だ。EUの実際の首相であるバローゾ委員長は、元ポルトガル首相でありイベロアメリカサミットにも参加している。だからイベロアメリカとEUの統合だって考えてしまう。実際にはSICAもUnasurも統合体としての完成度がEUとは比較にならぬほど低い。EUすら加盟国の自己主張を抑えて一つの統合体として纏め上げることが、見ていて大変なようだ。実現するのは、せいぜい関税同盟による単一市場形成くらいだろう。実際にサミット参加国のGDP及び人口の合計を出して、敢えてEUや米国のそれと比べてしまう気の早い人たちもいる。経済統合体としての評価だ。それなら、可能かも知れない。
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