南米諸国連合(Unasur)ジョージタウンサミット
11月26日にガイアナのジョージタウンで開催されたUnasurサミットにおいて、いわゆる民主主義議定書(Democracy Protocol)が締結された。加盟国でクーデターが起きた場合、他加盟国は当該国との国境封鎖を含む制裁を行う、とするもので、このブログでも紹介した9月30日のエクアドルクーデター未遂事件を念頭においたものだ。Unasur憲法条約(2008年5月23日のブラジリアサミットで締結)の付帯条項となる。エクアドルのケースでは、当時のキルチネル総長がブエノスアイレスに緊急サミットを招集し、コレア大統領への連帯を表明したことが記憶に新しい。2008年9月15日、初代持ち回り議長だったチリのバチェレ大統領(当時)が、ボリビアのモラレス政権が政治危機に見舞われた時、サンティアゴに加盟国首脳を招集し、政権転覆に繋がる如何なる行動も容認できない、とする決議を採択した。同じ性格のものだ。ジョージタウンサミットでは、条約上の新たな条項に加えられ、強制力が強まる。
ラテンアメリカは歴史的にクーデターが頻発した地域であるし、軍事政権や軍人個人による独裁政権は枚挙にいとまが無い。それでも二十一世紀の今日、すっかり影を潜めている。南米では、2002年4月にベネズエラのゼネストで2日間、チャベス大統領が失権した。これをクーデターと位置付ければ、二十一世紀では唯一のケースだ。ラテンアメリカ全体では、他では2009年6月のホンジュラスがあるのみだ。それでもかかる民主主義を守るための条項の必要性が認識された、と言うことだろう。
Unasurは、アンデス共同体(CAN)及びチリ、ガイアナ、スリナムをメルコスルに一体化し、購買力平価ベースのGDPで4兆㌦を超える世界第5位の経済力を持つ地域統合体(私のホームページの中のラ米の地域統合参照)だ。経済力のみならず、国際政治への発言力強化も睨む。構成国12ヵ国の内、ブラジル及びアルゼンチンの2ヵ国はG20の世界19ヵ国の一角を成し、ブラジルは国連安保常任理事国入りが射程内だ。手本とするのは欧州連合(EU)で、中央銀行と議会、及び共通通貨を持つ強力な地域統合体を目指す。だが、本部所在地がエクアドルのキト、議会はボリビアのコチャバンバ、中銀たる南米銀行(Banco del Sur)本社がベネズエラのカラカス、と分かれており、各論に入ると、各国の思惑が交錯し、進み難い。Unasur憲法条約を発効させるには、9ヵ国の批准が必要だが、現時点では1ヵ国不足しており、未発効の状態にある。ブラジル、ウルグアイ、パラグアイ及びコロンビアの批准が遅れている。
EUは常任議長(大統領に相当)制を導入したが、そこまではいかないようだ。EU委員長に相当する事務総長の初代は、Unasur発足から2年も経った2010年5月にキルチネル前アルゼンチン大統領で漸く決まった(残念なことに半年足らずで死去)が、性格付けや権限で、未だ発展途上の感がある。軍事面では、実力組織の北大西洋条約機構(NATO)軍のようなものは作らず、南米防衛評議会に留める。
憲法条約が未発効であれ、首脳間交流は実に活発だ。何かあると集まる。2010年では、2月、ハイチ支援のためのキトでの特別サミット、5月、総長を選出したブエノスアイレス郊外のカンパナにおける特別サミット、10月、エクアドルクーデター未遂事件でのやはりブエノスアイレスでの緊急サミットの他にも、ウルグアイ(3月)、チリ(5月)、及びコロンビア(8月)の大統領就任式、アルゼンチン独立革命200周年記念式典(5月)、最近ではキルチネル総長の葬儀、などがある。2月のラテンアメリカ・カリブサミット、5月のラテンアメリカ・EUサミットでも顔を合わせる。今回のジョージタウンサミットの次に、12月早々、イベロアメリカサミットも控える。
ペルー、ボリビア、ウルグアイ及びチリ(いずれも代理派遣)を除く8ヵ国の首脳が集まった今回サミットでは、左翼思想の強いチャベス(ベネズエラ)、新自由主義の信奉者サントス(コロンビア)両大統領が、米軍基地問題が未解決な中で関係修復を見せ、またサントス、コレア(エクアドル)両大統領が、クリスマス前の大使級外交実現を確認したのも、イデオロギーより地域統合を優先させる政治意識の為せる技だろう。Unasur諸国は政権のイデオロギーの幅が右派から左派まで、EUやASEANなどとは比較にならぬほど広い。逆に、EUにある西欧型民主主義価値観、という共通項が薄い。それでも纏まる。ルラ大統領の存在もあるが、基本は頻繁な会合で首脳同士の個人的関係が深まってきたためではなかろうか。なお、今回サミットで、持ち回り議長はコレア大統領からガイアナのジャグデオ大統領に移った。キルチネル後任の総長選出は見送られている。