キューバ・欧州連合(EU)関係
10月25日、EUのアシュトン外務上級代表(EU外相)が対キューバPosición Común(Common Position。共通外交政策)は据え置くが、キューバ当局の政治犯釈放を歓迎し、対話を進める旨表明した旨を複数の外電スペイン語版が伝えている。サパタ受刑囚がハンストで死去した2月時点から、このEUのCommon Position据え置き、見直しの問題が、6月に始まった「黒い春」(2003年3月の75名の政治犯一斉逮捕、即決裁判と収監)服役囚釈放の動き以来、よく語られる。10月20日、EU議会がギイェルモ・ファリーニャス受刑囚に対しサハロフ賞の授与を決議していた。同受刑囚は、サパタ死去以来「黒い春」事件服役囚の釈放を求め134日ものハンストで、死の一歩手前まで行った人だ。服役囚釈放が十数名になった時点でハンストを終了し、受刑囚のまま入院、かなり回復したようだ。
対キューバCommon Positionは1996年、EUとしてキューバに対し民主化、経済自由化を求めたことが発端、と私は理解している。一方で同年、米国で制定された悪名高い「ヘルムズ・バートン法」(もともとは米国(法)人の所有資産に対し、投資を行う第三国企業には罰則を科す、という法律)には、EUは同法が域外適用でありWTO違反、と非難し、EU諸国企業のキューバ投資を後押しすらしたものだ。事実、ヨーロッパからの投資は増え、ヨーロッパ人のキューバへの旅行客も急増した。
キューバでこのCommon Positionが問題化されるようになるのは、その「黒い春」事件に関連し、2003年の6月、EUがこれを民主化への逆行と人権侵害、と厳しく糾弾し、政治犯の即時無条件釈放を求めると共に、加盟国とキューバ政府とのハイレベル交流禁止、公式行事への反体制派指導者招待、などを決めた後のことではなかろうか。EU加盟国の首脳、閣僚級の対キューバ折衝に関する情報が無くなった。いわゆる「カクテル戦争」(在キューバEU加盟国大使館主催の祝祭日のパーティーに、これ見よがしに反体制派の人たちが招かれる事件)もあった。かかるEU側態度を内政干渉、として、当時の(フィデル)カストロ議長は激しく反発した。それでも2004年末までに数名が釈放され、EUはこれを歓迎して翌05年1月、キューバに対する「外交制裁」を凍結、08年6月には公式に解除した。ただ、人権問題に関わる前進を求め続ける、とした。
このブログでも紹介したことがあるが、「黒い春」事件の服役囚釈放に当たっては、スペインのモラティノス前外相が大きな役割を果たした。5月末時点で既に52人に減っていた当該服役囚は、9月末までにさらに39名減少し、13名になっている。39名全員が、スペインに出国した。大半が家族を帯同した。キューバ残留希望者は、今のところ収監されたままだ。(ラウル)カストロ政権は当初、4,5ヵ月以内に全員の釈放、と言っていた。彼ら全員の釈放が何時になったら実現するか、気になるところだ。EUのCommon Position解除を待つのだろうか。その一方で、「黒い春」事件以外で収監されていた政治犯も既に8名が釈放されたか、される方針で、やはりスペイン出国者が対象とされる。
EUとの経済関係は、債権問題で足踏みしている我が国とは異なり、ずっと順調に推移している。外交制裁の一方で、EU加盟国から最恵国待遇を受けているキューバの立場には変わりが無い。特にスペインとの貿易額は、石油供給で特別の関係にあるベネズエラと、最近急増している中国、ニッケル取引でやはり特別な関係にあるカナダに次ぐ規模である。最近の投資活動については、私は不案内だが、観光客も相変わらず大挙してキューバに押し寄せている。今やキューバの外貨取得源のトップに躍り出た観光収入に、ヨーロッパの観光客は大きく貢献する。これだけを捉えれば、キューバにとってCommon Positionによる実害は、小さい。
だが、EU諸国首脳や主要閣僚との交流無くしては、関係の深化は図れない。(ラウル)・カストロ議長も、ラテンアメリカの他の首脳らと異なり、EU諸国は招いてくれず、来てくれない。79歳と言う高齢もあろうが、ロシアなどの訪問に出かける体力はあるし、明らかにEUから疎外を受けている。彼の政権は発足以来、幅広い社会的規制の緩和にも乗り出し、最近では、公営企業の人員整理、という必要性もあろうが、1993年に解禁した自営業の分野を拡大、従業員雇用を可能とする小規模私企業の設立を認めた。EUは政治犯釈放と共に、これを歓迎している。
Common Position見直しには、EU加盟27カ国全ての賛成が必要、と言われる。特にドイツや、元社会主義国のチェコなどが反対しているそうだ。チェコ政府はこのほど、スペインに出た元キューバ人政治犯の引受を発表した。アシュトン上級代表がいかなる発言をしたか、外電を読むしかないが、12月の見直し可能性を示唆したようでもある。実は、米国議会が米人のキューバ渡航解禁に向けた法案を準備しているが、提出は中間選挙後に延ばされている。世界で最も自由な国、米国の国民が、キューバ渡航の自由は奪われたまま半世紀過ぎた。米国にとって大転換となる。これに合わせよう、という思惑から、とは思わないが、タイミング上、興味深い。
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