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2010年7月 9日 (金)

キューバの人権問題(3)

77日、カストロ政権は20033月の「黒い春」事件で一斉逮捕した反体制活動家で今なお収監中の52人全員の釈放を決定した。223日にサパタ受刑囚が85日間のハンストの結果死亡した際、国際人権諸団体、ジャーナリズムがキューバの人権侵害への非難の声を高め、EUも呼応し、国際社会におけるキューバの孤立が際立っていた。その翌日から、ザパタ死亡への抗議と服役中の重症患者25名の釈放を求めハンストに入り、病院で治療受けつつも継続中のファリーニャス受刑囚が危機的な容態に陥った。仮に死亡してしまうと、国際的非難は当然増幅する。キューバ政府がいくら受刑囚は政治犯ではない、という立場にあろうとも、避けたいところだ。彼はこの決定を受け、直ちにハンストを中断した。釈放履行状況を見て再開する積りらしい。

620日、ヴァチカンからマンベルティ枢機卿兼外務長官がキューバを訪れていた。519日のキューバ・カトリック教会最高位のオルテガ枢機卿がカストロ議長と会談し、釈放1名、家族在住地近くの刑務所への移送12名の成果を得た。外務長官訪問はヴァチカン・キューバ修交75周年記念行事主催を目的としたものだが、5日間の滞在最終日にカストロ議長とも会談の機会を持っている。そして76日、スペインのモラティノス外相がハバナを訪れた。カトリック教会とキューバ政府とのさらなる対話推進への支援、を目的に挙げた。だが彼はそれまでにも二度訪問し、その直後に計5名の釈放が実現している。到着時、政治犯全員の釈放はファリーニャス受刑囚のハンストを何としても止めさせねばならない、と言っていた。つまり25名の釈放を念頭に入れていたのだろう。ところが7日のカストロ議長との会談結果、52名全ての釈放を引き出した。取り敢えず重症の5名の釈放がここ一両日中に釈放されスペインに向け出国する。残り47名の釈放はここ34カ月中に行われる見込みで、その内の6名は家族在住地近くの刑務所に移送されたようだ。

モラティノス外相の努力を過小評価したいスペインの野党は、上記釈放を歓迎しながらも、あくまでもカトリック教会の努力の賜物であり、国際的孤立を深めるカストロ政権には他に選択肢は無かった、とする。この意見は、キューバ系アメリカ人下院議員3名の共同発表にも示された。肝心のEUは、これまでの強硬派だったフランスも歓迎するなど前向きな評価だが、チェコとポーランドがあくまでも全ての政治犯釈放を求める姿勢を表明した。これは上記スペイン野党と同じだ。

199612月、EUは対キューバ関係深化には人権問題の解決と民主化への確かな動きが不可欠である、との共同宣言を出し、毎年延長され、実は今日も生きている。27ヵ国の加盟国全てに課せられる。キューバ側はこれを一方的な不当な内政干渉、として非難し続け、スペインのサパテロ政権にとってもこの解除が悲願で、2010年の実現に向けEU内での説得を続けていた。ところが2月、サパタ受刑囚が死亡することでこれが遠のいた。モラティノス外相のキューバ訪問は、この挽回を狙ったもの、と思われる。

米国は、モラティノス外相から報告を受けた、として、政治犯釈放に就いて、早速クリントン国務長官の歓迎コメントを出した。遅すぎるが、将来に向かっての確かな一歩になる、というものだ。オバマ政権に代わり米国のキューバに対する見方には、本音はどうあれ前向きの変化は出ていた。ところが、200912月にキューバでパソコンを配った米人がスパイ罪で拘留され、政府は米国側からの度重なる釈放要求を無視し続けている。さらにサパタ死亡事件が起きた。在米キューバ人の里帰りと送金の規制解除以外に遅々として進まぬ対キューバ関係は、一旦休止状態に入った。

6月のマンベルティ・ヴァチカン外務長官滞在中に行われた国内外専門家、聖職者、学会の100人ほどが対話集会に参加した。今はキューバ国内外の全てのキューバ人社会が対話を通じて和解すべき時、との発言が目立ったようだ。米国からの参加者(大学教授)は、キューバのベネズエラ依存度を低減させるためにも、観光収入急増が確実に期待できる米国民のキューバ渡航自由化を呼び掛ける一方で、オバマ政権がこれに踏み切る最大の障壁が政治犯問題、と述べていた。次には米人のキューバ渡航が実現するだろうか。同月末に米国下院の農業委員会(外交委員会ではない)でこの自由化を認める法案が決議されているが、今後自由化に向けた声が高まっていくだろうか。

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