コロンビア大統領選の行方
5月30日、コロンビアで9人が立候補した大統領選で、「国民社会連合党」(la“U”)のサントス元国防相(58歳)が46.6%もの得票で二位のモックス元ボゴタ市長(58歳)を25ポイントも引き離す圧倒的第一位に付けた。憲法上、過半数得票が条件付けられているので、確定に僅か4%足りず今月20日に決選投票が行われる。
第三位までが二桁得票で、「急進変革」のバルガス前上院議員(48歳)が10%だった。このブログで彼を紹介したことは無い。1998年創設の「急進変革」は、議会勢力ではla“U”、保守党及び自由党の三大政党から大きく離れた第四党に過ぎない。彼はリェラス・カマルゴ元大統領(在任1945-46、1958-62)の孫に当たる。元大統領は、1957年、ロハス・ピニリャ軍政を終わらせるために、自由、保守両党から4年毎に大統領を出し合う「国民戦線」構想を主導し、その初代大統領となった人だ。米州全体としては、1947年に発足した米州機構(OAS)の初代事務総長としても知られる。チリ、コスタリカ、パナマ同様政治家ファミリーの存在が大きいコロンビアでは注目に値する人だったのに、私の方では保守党の女性候補、サニン前駐英大使、自由党のパルド元国防相、そして異色の候補と思われるM-19の流れを引く「民主代替の極」(PDA)のウレゴ上院議員の方にこそ眼が行ってしまっていた。そしてモックス候補の台頭にも素直に驚いた。
僅か1週間前まで、世論調査では、サントス、モックス両候補は、前者が後者の増税案という敵失を背景に追い上げてはいたものの、漸く殆ど同水準に並んだ程度だった。幾ら何でもこの大差は予想を遥かに超える。米州機構(OAS)の選挙監視団は、今回選挙はここ40年で最も平穏に行われた、と発表した。選挙妨害などの暴力行為が目立たなかった、と言うことで、事実、選挙管理委員会は2002年選挙時に比べ、暴力行為が78%減少した、と述べた。つまり、公平性に関して明確に断じるには時期尚早にしても、まともな選挙だった、と言える。投票率は51%、と低かったが、国民の投票は義務となっているラテンアメリカ諸国で、コロンビアは自由となっている。投票率動向で調査結果が実際の投票結果と変わり得るので、異様とは言えまい。
それにしても予想と結果の乖離は大き過ぎる。私は、このブログで触れたチャベス・ベネズエラ大統領の「サントスが大統領になれば戦争だ」発言や、エクアドル司法当局のサントス引き渡し要求が、一般コロンビア国民には内政干渉ととられたことが影響した、と思わずにおられない。2006年のペルー大統領選で得票第一位のオジャンタ・ウマラ候補が、決選投票でガルシア現大統領に逆転敗退した。その時も投票前にチャベス大統領から、ペルー有権者は彼を勝利させるべし、という露骨な口先介入が繰り返された。外国からの介入を嫌うのは、ペルーもコロンビアも同じだ。エクアドルのパティーニョ外相は、仮にサントス勝利でも昨年11月末の二国間合意(全面復交に向けた利益代表部相互設置による交渉推進)への対応は不変、と、コレア政権が司法当局とは一線を画す方針を早々と打ち出した。一方でサントス候補も、ベネズエラ、エクアドル両政権との関係修復に取り組む姿勢を示している。
議会第二党の保守党も第三位に付けたバルガス候補の急進変革も、元々はウリベ政権与党だ。モックス候補自身、決選投票での逆転は難しい、と認めている。それでも辞退はしない。投票率が上がれば変化も出てこよう。ただ、議会選挙では国民は現政権3党に対し、下院162議席中100議席を与え、前回選挙より28議席も増えさせた。両隣国と異なり、国民の投票姿勢からは、左派、中道左派政権が生まれる素地は見られない。両隣国と異なり、ほぼ半世紀にも亘り、活発な左派ゲリラの存在故に苦しんできた国だ。ウリベ政権で、治安が大きく好転した。ゲリラ活動を助長したのが右翼で、軍部や麻薬組織との繋がりも指摘されてきた自警団は、曲がりなりにも武装解除した。Uribismo、つまりウリベ路線には間違いなく国民の支持が寄せられている。その正統な後継者を名乗るサントス候補の勝利は、まず確実だろう。正式に決まるのは、3週間後だ。
この機会に、三位に付けたバルガス前上院議員に着目しておきたい。1994年、32歳で祖父同様、自由党から上院議員に当選、四期を務め、2006年選挙の時は全国で最多得票だった。パストラーナ前政権時、FARCとの和平交渉に使う非武装地帯の設営には反対し、2002年選挙では自由党候補では無く、対FARC強硬派のウリベ候補を支援、その機会に離党した。またテロに遭い、左手の指を何本か失った。2003年に急進改革に参加、翌年より同党代表を務める。同党は、パラポリティック(自警団に結びついた政治)スキャンダルを起こした政党の一つで、前回議会選挙でも議席数を減らしてはいる。大統領選初出馬で二桁得票は、歴史上の大統領を祖父に持つ毛並みの良さだけでは説明がつくまい。まだ48歳、と若い。
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