サントス次期大統領の課題-コロンビア
6月20日のサントス候補の得票率69%もの大勝利は、予想していなかった。何しろコロンビア近代選挙史上、最高の得票率、という。5月30日の第一回選挙で稼いだ46.5%に、現与党の急進改革(バルガス候補)及び保守党(サニン候補)二人分の得票率16.2%を加え、更に6%もの上乗せした格好だ。モックス候補は、世論調査では5月下旬までサントス候補と拮抗していた。第一回選挙で21.5%、と、サントス候補に25%ポイントまで離された時点で驚いたが、実は、その直後の6月早々に、サントス氏への投票方針、とした有権者は、それまでの4割から6割へ一気に上がっていた。決選投票でモックス候補が上積みできたのは6%のみ、40ポイントもの大差を付けられる凄まじい大敗だった。
理由としてよく言われるのが、投票率だ。第一回選挙では49%、これが決選投票では44%に、さらに下がった。低投票率は、組織票のある与党に有利に働く。3月の議会選挙でも43%ほどに過ぎなかった。結果としてあれほどの政治スキャンダルの逆風を受けながらも、現与党は大きく議席数を伸ばした。コロンビアの選挙では、ゲリラによる選挙妨害が恐れられるためか、低投票率は特徴的、と言える。。
決選投票の僅か1週間前の6月13日、ウリベ政権はFARCから国家警察の幹部3名と国軍の軍人1名を解放、今やFARCの抱えるいわゆる政治的人質は19名にまで減った、といわれる。さらに投票日の直前の19日、国軍がFARC基地を吸収し、ゲリラ6名を殺害した。これらが1年前まで国防相を務めFARCの組織力を大きく減殺した本人であるサントス候補に追い風となったことは間違いない。彼は何しろ、08年3月のエクアドルにあったFARC拠点を越境襲撃し指導者を含む25名を殺害することで組織弱体化に繋げ、また同年7月には元大統領候補を含む15名のFARC人質の無血救助を行った際の、直接の最高責任者だ。いずれも何十年も続くゲリラ戦争に倦んできた国民の大喝采を得た。
だが、エクアドルはその越境襲撃直後に、領土侵犯の国家主権侵害を理由に、国交を断絶した。つい一月前、エクアドル司法当局は、法治国家たるエクアドル当局の許可なしに爆撃、略奪を犯したコロンビア軍の最高責任者たる当時のサントス国防相に対し、逮捕状を発出した。コレア大統領は、6月21日朝、選挙後直ちに、サントス候補に祝意の電話を掛け、昨年11月に相互設置した利益代表部を早期に大使館に格上げし外交の前面復活に向けた協力をし合うことを述べたが、一方で、司法当局への指揮権は大統領には無いことを理由に、逮捕状の撤回には乗り出せていない。
サントス次期大統領は、自由党で政治活動を始め、ウリベ同様に離脱し、「国民社会連合党」(la“U”)創設に参加した。彼は勝利演説の中で、「我が国を変貌させた例外的な巨人」と讃え、勝利がウリベ政治への信認によるもので、それを継承していく、と持ち上げた。その意味では、2002年から2014年までのウリベ路線継続が決まった格好だ。
強硬なゲリラ対策は継続されよう。サントス氏は、誘拐や麻薬犯罪に手を染めている間はゲリラとの協議は無い、と断言した。これは対決型のウリベ路線そのものだ。選挙が終わったばかりで、国連はコロンビアのコカ生産高はペルーに追い越され、世界第二位に下がった、という報告書を出した。コカ栽培面積はまだペルーを上回っているようだが、その削減は着実に進んでいる。さらに進めねばならない。
従って、米軍に対する基地供与も続く。だから上述のエクアドルの逮捕状以上に難題とされるのが、ウリベ大統領の直接的な対決姿勢で毀損したままのベネズエラ関係だろう。チャベス大統領は基地供与協定を徹底的に非難する。ウリベ大統領は、FARCに対してベネズエラから武器が流れていた、と攻撃する。両国間貿易関係も著しく落ち込んだ。同国外務省は一応サントス勝利を祝うメッセージを発してはいるが、両国関係の改善に向けての行動を注目していく、と、冷淡だ。サントス氏はこのメッセージに謝意すら表明したが、ラテンアメリカ諸国の首脳が祝意を電話で、或いはメッセージの形で寄せている中で、チャベス大統領のメッセージは選挙後2日経って、まだ発されていない。
コロンビアは、1980年代の対外債務危機の際にもリスケはやらず、南米では優等生として知られた。国民は穏やかで教養もあり、彼らと話していると、半世紀近くもゲリラと麻薬で揺らいできたなど、信じ難いくらいだ。失業率が高く、貧困層が国民の半分、とも言われる。プラン・コロンビアで米国から巨額支援を受けながらも、ラテンアメリカの中では対GDP比で軍事費が突出し、財政赤字は非常に大きい。エドゥアルド・サントス元大統領(自由党。在任1938-42)を祖父に持ち、独立革命で殉死した女性英雄、アントニア・サントスを出した名家出身のサントス次期大統領の課題は、考えるだに大変だと思いつつ、彼の大変に真面目な勝利演説を聴くにつれ、健闘を祈らずにおられない。