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2010年5月11日 (火)

南米諸国連合(UNASUR)初代事務総長の誕生

いささか旧聞だが、54日、ブエノスアイレス郊外で開催された(UNASUR)特別サミットで、キルチネル前アルゼンチン大統領(60歳)が初代の事務総長に指名された。事務総長は、その職に専念することが求められる。米州ではOASにも事務総長がおり、現在は元チリ上院議員のインスルサ氏が就いているが、その前任者はガビリア元コロンビア大統領だった。OAS本部はワシントンにあり、事務総長はそこに常駐する。彼もUNASUR本部所在地のキトに常駐するのだろうか。少なくとも、これで政権与党の党首を辞任し、代議士としての活動も休止することになる。アルゼンチンの次回総選挙は201110月、つまり1年半後に行われる。妻のフェルナンデス大統領の後任を狙っていた筈だった。一方でUNASUR事務総長の任期は2年だ。キト常駐、ともなれば、どう考えても大統領選に立候補するのは無理だろう。

キルチネル氏は、政治家としては37歳で就任したリオガジェゴス市長を皮切りにすれば23年間の活動歴、と言える。リオガジェゴスはパタゴニア半島の南端、つまりマゼラン海峡に近い。地図で見ると、マルビナス諸島も近い。彼が同市長に就任したのは、アルゼンチンの民政移管後初代のアルフォンシン急進党政権期に行われた中間選挙の直後だ。ここで、軍政時代の弾圧の標的だったペロン党が大躍進した。アルゼンチンは巨額対外債務、ハイパーインフレと、軍幹部への人権裁判問題に対する軍部の反発、それに対する政権側の宥和、と揺れていた。19895月の大統領選でペロン党のメネム候補が当選すると、7月にはアルフォンシン大統領が12月の筈の政権交代を前倒しで実施した。メネム大統領がカバロ経済相を抜擢し、インフレ終息に入った年に、キルチネル氏はリオガジェゴスを州都とするサンタクルス州知事になった。メネム政権は199912月までの10年半続いたが、キルチネル州政権は2003年までの12年間も続いた。

アルゼンチンは、2000年に通貨流動性が一気に硬化し、国としての資金繰り難に陥った。急進党のルア大統領は2002年に退任し、議会がペロン党のドゥアルデ氏を臨時大統領に指名、彼は200310月の選挙を4月に前倒しすると言明、キルチネル知事を候補指名した。だが、ペロン党として候補者が一本化されず、メネム元大統領も出馬、得票で1位だった。その後に行われた世論調査で、決選投票では第二位のキルチネルが60%以上を取るとの結果が報道されると、元大統領が辞退した。この結果、キルチネル当選が決まった、という経緯を辿る。メネム氏の新自由主義路線に対し、彼が明言した社会的平等や国民健康を推進する、という社会民主主義路線が受けた。

政策政権に就くまで、アルゼンチン国内ではいざ知らず、国際的には知名度は高くなかった、と思う。食糧資源価格の高騰という追い風を受けた経済回復、期前返済の断行を含む国際通貨基金(IMF)への強硬姿勢、隣国ブラジルのルラ、ベネズエラのチャベス大統領らと共に米国が推進する米州自由貿易地域(FTAA)構想に反対する抗米姿勢で高い国民支持を得ると同時に、国際的知名度も高まった。南米では米国とは離れた地域連合体構想が潮流になりつつあった。だがこの点を除くと、良好な対米関係を維持した。2007年、大統領選でのフェルナンデス勝利に向けた不正工作でベネズエラ人が米国で起訴される事件が起きたことから、政権交代後、対米関係が冷却したこともあったが、米国政府が同事件に一切の関わりを否定したことから、正常化した。

アルゼンチンの場合、大統領の連続再選は可能である。それにも拘わらず、彼は2007年選挙には出馬せず、ペロン党首の道を選んだ。妻のフェルナンデス大統領が食糧輸出税引き上げ問題で、農園主側に付いた党内勢力が党内野党としての存在を高め党首の求心力が落ち、昨年央の中間選挙で党自体が大きく議席を減らした。この責任を取って一旦党首を辞任している。妻の支持率も、近隣諸国の大統領とは異なり、20%台に過ぎず、と大変に低い。UNASUR初代事務総長への要請は、彼が次回選挙での大統領立候補を断念した、と見たためだろうか。実はこの3月、彼は党首に復帰している。フェルナンデス大統領が第二回ラテンアメリカ・サミットの場で、或いはヒラリー・クリントン米国務長官にマルビナス領有権を主張した頃のことだ。キルチネル大統領時代に、ウルグアイ川の東岸に建設されたセルロース工場の汚染問題で同国との外交関係が冷却化し今も続いている。この特別サミットの最中に、出席した同国のムヒカ大統領がキルチネル就任要請に加わったことで、UNASUR初代事務総長誕生が実現した、ともいわれる。地域連合構想の実現には断りきれない面もあったのかも知れない。

なお、同サミットにはウリベ(コロンビア)及びガルシア(ペルー)両大統領は出席せず、外相が派遣された。持ち回り議長のコレア・エクアドル大統領が、近く開催されるEU・ラテンアメリカ首脳会議には、ホンジュラスのロボ大統領が出席する以上、UNASUR諸国の大半の首脳は出席を断念せざるを得ない、と言明し、結果として、同会議にはロボ大統領の方が欠席することになった点も、追記しておきたい。

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