コスタリカの初代女性大統領
2010年2月7日、コスタリカで総選挙が行われ、大統領選は与党の国民解放党(PLD)のチンチーヤ(Laura Chinchilla Miranda)前副大統領(50歳)が、4年前アリアス現大統領と得票率で1%以下の接戦に追い込んだ市民行動(PAC)のソリス氏を、今回は20ポイント以上もの大差で下した。政党別議席数は未だ情報が入っていない段階だが、PLDが連続して政権党を務めるのは1982-90年以来のことだ。
チンチーヤ次期大統領は若い時分から国内外の行政組織で活躍し、フィゲレス・オルセン政権(1994-98)で35歳にして入閣、その後国会議員、副大統領と経歴を積んできた。政界では最も保守的な人として知られるようだ。コスタリカは国家としてローマカトリック共和国と規定される。アリアス大統領などは今や政教分離を実現すべき、との考えだが、彼女は反対する。堕胎は女性保護の立場からか強く反対し、同性愛や避妊にも疑問を投げかける。もともとPLDは社会主義インターナショナルに加盟し、中道左派程度に見られても良いほどだが、私は右派として扱っている。彼女がPLD政権を引っ張るようになれば、何となく我が見方に自信が持てる。
PLDは、彼女が初入閣した時の大統領、フィゲレス・オルセンの父、フィゲレス・フェレル(José Figueres Ferrer、1906-90)が1951年に創設した。以来今日までの59年間で、彼とアリアスの二回ずつを含め、32年間、政権を担ってきた。61年9月のキューバとの国交断絶は国民連合党という保守政権が行い、77年の国交再開はPLN政権が、そして81年の再断交は非PLN政党連合が行った経緯から、私自身、PLNが中道と思い込んできた。しかし以下のような背景で、思い直している。
1948年2月の総選挙で、与党のカルデロン・グァルディア(Rafael Ángel Calderón Guardia、1900-70。40-44年大統領)の大統領再選は成らなかった。この選挙に不正があった、として彼は不服を申し立て、3月に彼の政党が過半数を得ていた議会が、同選挙の無効を宣言した。この時フィゲレス・フェレルが「国民解放軍」の名で武力蜂起し、内戦に及んだ。国際調停により6週間で終わったが、その後、彼を首班とする革命評議会が、国軍廃止の平和憲法制定を推進、制憲議会の承認などを経て、日本の平和憲法に2年ほど遅れ49年11月に発効する。一方でこの革命評議会は、カルデロン・グァルディアを支持していた共産党と労働組合の全国組織を非合法にした。
カルデロン・グァルディアのいわゆる「カルデロドニスタ」勢力は残った。現在は83年に創設されたキリスト教社会統一党(PUSC)がその政党である。1990年、彼の息、カルデロン・フォルニエルが大統領になった。この後フィゲレス・オルセン政権を挟むが、98年から2006年までの二期8年間、ロドリゲス、パチェコのPUSC政権が続いた。ところが、2006年総選挙で大統領候補は3%台の得票で、議席は5議席(全57議席)に、一気に落ち込んだ。凄まじいばかりの凋落だ。理由はロドリゲス及びカルデロン・フォルニエル両元大統領の汚職疑惑にある。そして一気に大政党に躍り出たのが、オットン・ソリス氏の市民行動党(PAC)だった。だから、私にはPLNの対立政党こそが左寄り、に思えるようになった。もう一つの野党、自由運動(ML)は今回、PACに肉薄する得票だ。少なくともPACよりは、ひょっとすればPLNよりも右寄りかも知れない。いずれにせよ、左派票が大きく落ち込んだことは確かだ。
ともあれ、チンチーヤ次期政権である。民選の女性大統領は、中米ではニカラグアとパナマに先例があるが、じれも、夫々反ソモサ運動指導者、3度大統領になった政界の大重鎮の未亡人だ。アルゼンチンのフェルナンデス大統領は弁護士出身で政界歴も長いが、どうしてもキルチネル前大統領夫人、というイメージも付いて回る。何の家族的背景も無い女性大統領としては、チリのバチェレ大統領に次ぐ、と言える。
コスタリカは、米国と中米・カリブの自由貿易協定(CAFTA-DR)加盟国で、唯一台湾ではなく、中国と外交関係を有する。上記のようにPLNを右寄りに捉えると皮肉なことかも知れない。だが皮肉と言えば、左派政権のニカラグア、中道左派のエルサルバドル及びグァテマラは中国ではなく台湾と外交関係を持つ。政権の左寄り、右寄り、ということと繋げて考えることもあるまい。チンチーヤ次期大統領も勝利宣言の中で中国政府のコスタリカ支援(国債買いあげ)に深い感謝の念を述べていた。ブラジルやチリなどと違い、世界同時不況の真っ只中にいる。財政が厳しいだけに中国の対応は有り難い。
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