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2009年12月15日 (火)

オミナミ票の行方-チリ大統領選

1213日に行われたチリ大統領選で、野党連合「チリのための同盟(以下同盟)」候補の元国民革新党(RN)党首、ピニェラ上院議員が、与党、「諸党連合(以下連合)」候補でキリスト教民主党(PDC)のフレイ元大統領を14ポイント強の差を付け、44%の得票で第一位となった。大統領選で第三位だが社会党を離れ独立候補として出馬し20%得票のエンリケス・オミナミ下院議員の票が、117日に行われる決選投票でフレイにどれだけ流れるか、が注目される。

同時に行われた議会選挙結果は全議席を更新する下院の場合、「同盟」が58議席、「連合」が57議席と拮抗している。だが、2005年選挙との比較では前者が3議席増、後者は8減である。政党別では、1989年の民政移管後、議会第一党の座を守ってきた「同盟」の独立民主連合(UDI)が37議席で2005年選挙に比べ4議席増やし、同じくピニェラ候補のRN1減の18議席だ。一方の「連合」は、フレイ候補のPDC1減の19議席とし、民主の党(PPD)が3減、社会党が4減、急進民主党が2減の、夫々18115議席になった。少なくとも「連合」を構成する諸党の退潮が見て取れる。仮にフレイ候補が逆転勝利しても、議会対策に苦労しよう。バチェレ大統領の国民支持率は、政権末期の今も80%近い。不思議な現象ではある。一般的にピニェラ候補の勝利が伝えられるが、議会対策で苦労するのは同様だ。

ピニェラ勝利で政権交代となると、ピノチェトの19739月のクーデターを支持したことで知られるホルヘ・アレッサンドリ(チリ史上改革者として名を残し1920-26年、32-38年の二度大統領を務めたアルトゥーロの息)の政権(1958-64年)以来、56年ぶりに選挙を経た右派政権の誕生である。このことは又、ラテンアメリカで進んでいる政権左傾化に逆行する。今頃からピニェラ政権誕生を歓迎する旨を公言するのが、海域の国境線を巡りハーグ仲裁裁判所に訴訟を起こし、最近にはスパイ事件が発覚した、としてチリを非難するガルシア・ペルー大統領で、何としても現与党の継続を、と公言するのが、再選なったばかりのモラレス・ボリビア大統領だ。

「同盟」を構成するUDIRN1983年、未だ政党合法化が成らない時に保守派勢力によりUDIが創設された。彼らは、ピノチェトの自由主義経済政策を支持し、彼の政権にも関わった、といわれる。1988年に行われた1997年までのピノチェト大統領続投の是非を問う国民投票では、これを認める側に回った。その前年、露骨な親ピノチェト路線に嫌気したメンバーがUDIを離党し、RNが創設された。だが、国民投票で「ノー」が決まった後、両党は大統領選で連合を汲むようになる。一本化が崩れたのは、この前の2005年選挙だ。UDI自体は常に議会第一党の座を守ってきたが、そのラビン候補は第三位、第二位は僅差ながらRNのピニェラ候補だった。だが決選投票ではピニェラ候補を支持、バチェレに敗れはしたが、得票率は45%に上った。概ねラビン候補の得票分を上積みできた。

オミナミ候補の票がフレイに流れない、とすれば、2005年の右派勢力とは全く逆の現象が起きることになる。また中道のPDCと左派の社会党、中道左派のPPD及び民主急進党による「連合」の枠組みに対する左派の反発が、彼を出馬に駆り立てたことを考えると、政界再編に進むのではないか、と考えたくなる。

だが、あまりチリの政権交代に神経質になることもなかろう。チリは、ピノチェト独裁の印象が余りに強すぎるため理解できない方も多いが、ラテンアメリカでは最も民主主義が根付いた国だ。政見の違いがそのまま政党として纏まるため、1930年代から多党化が進んだ。どこも議会勢力の過半数が取れず、結果的に連立政権が常態化した。共産党主導、とされる人民戦線(1936-46年)も、社会党主導のアジェンデ政権も、社会党と共産党だけではなく、急進党やキリスト教民主党の一部が合流した。「連合」も然りである。従って、政権交代で国家社会が急変することは考え難い。20年間も続いた現与党政権は中道左派と言われながら、ピノチェト時代と同様の市場主義経済政策に徹しており、米国との自由貿易協定も南米では真っ先に実現させた。「同盟」が政権を取っても、政策に継続性が断たれる大変動は考え難い。だから有権者は安心して、野党候補を当選させるのだろう。

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