南米・アフリカサミット
2008年11月のワシントンでの第一回会議(ワシントン)から、2009年4月のロンドン会議を経て第三回会議が9月にピッツバーグで開催されたG20サミット。EU委員会を入れて20なので、国としては19ヵ国だ。もともと環境問題や昨年来の世界金融・経済危機に関してはG8に限らず主要新興国とも話し合う機会が必要、との考えからスタートしたものだが、今やG8に代わる役割すら期待されるようになった。G8のGDP合計は34.5兆㌦、全世界の55%を占める。これに対し他11ヵ国は12.6兆㌦、20%(以上、数字はCIAのThe World FactBookによる2008年、以下同)。一大勢力であるのは間違いないが、G8の三分の一強の水準で、聊か見劣りがする。だがGDPだけでいえば中国は世界第三位だし、ブラジルはカナダを凌ぐ。
G8は1975年の東西冷戦時代、日欧米の西側先進7ヵ国で構成されるG7が出発点だ。当時GDP第七位のカナダが入った。西欧4ヵ国にバランスをとるためかカナダが入った。ソ連崩壊から1年半後の1993年、ロシアが加わったG7+1になり、それが発展したものだ。これ以外の11ヵ国は、どのような基準で選ばれたのか。国際的発言力が強いBRIC’sの非G8の3ヵ国が選ばれたのは自然な流れだ。この内の中国はGDPでも世界第三位の経済大国だ。国連安保常任理事国でもある。インドは人口で中国に次ぐ世界第二位で、それも中国を追い越そうとする勢いだ。また、世界の酸素の四分の三を供給している。だから、分からないでもない。GDPが1兆㌦を超える、という基準なら、メキシコとオーストラリアが入る。五大陸全てから、且つイスラム圏からも、という意味なら南アフリカとサウディアラビアが入っているのも分かる。以上で15ヵ国になる。安保常任理事国プラス10ヵ国だ。それでも、年2回のサミットを開催、となると、事務方は大変だ。鳩山さんがG8の機能は残すべき、と言ったのも感覚的にはよく分かる。それに韓国、アルゼンチン、トルコ、インドネシアも入る。
これに出席したルラ(ブラジル)、フェルナンデス(アルゼンチン)両大統領は、その後ベネズエラのリゾート都市、マルガリータ島のポルラマル市に向かった。第二回南米・アフリカサミット(ASA)に出席するためだ。9月25日、ペルーとコロンビアを除く南米諸国連合(UNASUR)とアフリカ連合(AU)加盟国から、28ヵ国の首脳が集まった。殆どが国連総会から駆け付けた。AUはモロッコを除くアフリカ53ヵ国で構成され、1年持ち回りの議長国は、現在リビアである。勿論、カダフィ大佐も出席した。AUの経済データには私は不案内だが、UNASURとは落差がかなり大きいのではなかろうか。人口は合計で8.5億人、インド並みで潜在性は高い。地図で見ると南米とアフリカは結構近い。ブラジルとベネズエラはアフリカ系国民が多く民族の絆もあろう。
対アフリカ外交に積極的なのはEUも同じだし最近では中国の積極性が目立つ。大西洋を隔てただけの南米にとっても絆を強めておくべき地域であることは間違いない。だが、AUの本当の魅力は、国の数ではなかろうか。ブラジルは国連安保常任理事国となる悲願を抱く。53ヵ国は、大票田でもある。ブラジルの常任理事国入りは、UNASURとして応援している。
ガイアナとスリナムを除くUNASUR10ヵ国のGDPは、The World FactBookによれば計3兆㌦、世界シェアで5%だ。UNASURを一つ、と見れば、中国やイギリス、フランスと遜色が無い。一つと見て良いか。確かに言語でいえば、スペイン語とポルトガル語の僅かな違いしか無く、首脳同士が通訳抜きで、相手をファーストネームで呼び合う。何かと言えばよく集まる。ラテンアメリカ統合は解放者ボリーバルの見果てぬ夢だったが、チャベス大統領は彼を崇敬する。南米でも異端児といえる彼は、二十一世紀の社会主義を目指す立場からは、政治路線に大きな違いのあるルラ、フェルナンデス、バチェレ(チリ)、ルゴ(パラグアイ)、タバレ・バスケス(ウルグアイ)とも親密な付き合いを続ける。勿論、コレア(エクアドル)とモラレス(ボリビア)は同志扱いだ。皆、ASAサミットに駆け付けた。ここで、UNASUR下部組織ともいえる南米銀行設立合意書に署名した(チリは同銀行ではオブザーバーの立場だ)。
だが、コロンビアの7ヵ所の基地に米軍が配属されることを巡り、ベネズエラは同国との亀裂を深めている。UNASURは8月のブエノスアイレスでのサミットで米軍の国境を越えた作戦展開が無いように監視することを決めたが、具体策はまだだ。何より、チャベスは米軍を、且つコロンビアのウリベ大統領をまるで信じようとしない。ここでは、UNASURの構成国同士でありながら、主権国家と内政不干渉を高々と叫ぶ。ついでながら、ボリビアが太平洋への出口を確保するため行っているチリとの交渉に、ペルーが強く反発する。ベネズエラのメルコスル加盟は、ブラジルとパラグアイの議会が批准せず、中ぶらり状態だ。アルゼンチンは、UNASURやメルコスルでの盟主を、ブラジルに挑んでいるかのようだ。救いは、2008年3月以来国交断絶状態のコロンビア・エクアドル間に関係修復の兆しが見え始めたことだろう。