第五回米州サミットとキューバ
4月17日にトリニダード・トバゴで開催される第五回米州サミットには、隠れたテーマがある。言うまでも無く米国によるキューバ制裁の解除問題である。
キューバを除く米州34ヵ国首脳が一同に会する米州サミット。1994年12月に、当時のクリントン米大統領の提唱によって始まった。FTAA(米州自由貿易圏)の構築を最大のテーマとした。同年1月、NAFTA(北米自由貿易協定)が発効し、またほどない翌95年1月にはメルコスル(南米南部共同市場)が発足しようとしており、MCCA(中米共同市場)は前年組織化を終えていたし、CAN(アンデス共同体)の組織化も近かった(私のホームページ中の「ラ米の地域統合http://www2.tbb.t-com.ne.jp/okifumi/CI11.htm」を参照)。FTAAに参加し得ない共産主義国キューバは、当然が如く排除されていた。
第一回目は米国のマイアミで開催され、その後チリのサンティアゴ(98年)、カナダのケベック(2001年)、メキシコのモンテレイ(2004年)、アルゼンチンのマルデルプラタ(2005年)へと会場が移った。この内のモンテレイ会議は、元々2005年をもってFTAAを発足させる、という当初趣旨が一向に現実化しない状況下、臨時に開かれたもので、マルデルプラタの第四回サミットでは、特にメルコスルとベネズエラから「反市場原理主義」が強く打ち出され、FTAAは事実上潰えた格好だ。
第五回サミットのテーマは、「国民の繁栄とエネルギーの確保、及び環境保護による将来への保障」となっている。ここに、何故キューバが参加できないか。
サミットに先立ち、ベネズエラのクマナ市でALBA(米州ボリーバル代替統合構想)首脳会議が開催され、チャベス(ベネズエラ)、ラウル・カストロ(キューバ)、モラレス(ボリビア)、オルテガ(ニカラグア)及びセラヤ(ホンジュラス)に、非加盟国からルゴ(パラグアイ)の6大統領が集まった。チャベス大統領が代表して、米国は制裁解除に踏み切るべきだ、キューバを米州サミットに入れるべきだ、と叫んだ。ラ米の旧スペイン、ポルトガル植民地諸国は十九ヵ国。この内の6ヵ国だが、小国ばかりだ、大したことはない、と言うなら、サミットに先立ち、域内大国のブラジル、メキシコ及びアルゼンチンの大統領も共同声明の形で、同じように制裁解除を、と呼びかけている実態も有る。それどころではない。米国の対キューバ経済制裁は、毎年国連総会で非難決議を浴びているのだ。
4月13日、オバマ大統領はキューバ系アメリカ人のキューバへの里帰り自由化(回数制限を解除)と、米企業による通信事業参入の認可を発表した。その10日前、米国の民主党下院議員7名がハバナを訪問し、ラウル・カストロ議長との会談だけでなく、病気の兄、フィデル見舞いまでやった。その議員団が、米人旅行規制は解除すべき、米国による半世紀近い制裁はまるで効果が無かった、と言っており、オバマ大統領が大きな政策変更に踏み切るか、多少なりとも期待が広がったものだ。だが、キューバ系米人に限った措置に留まった。フィデル・カストロは、直ちに、一般米人にもキューバ渡航を解禁して貰いたかった、とのコメントを出している。
オバマ大統領の措置は、ちょっと見た目には如何にもケチケチしている。経済制裁解除こそが、採るべき道、であろう。だがこれには米国サイドの法的手続き(45年も続くキューバ資産令、ブッシュ政権時代のテロ国家指定、或いは、1992年のトリチェリ法や06年のヘルムズ・バートン法もある)が必要で、簡単にはいかない。キューバ国民に情報が伝わり易くなり、自由と民主主義に資する、といった理屈はどうあれ、通信事業に限ってではあっても、米企業の参入を認めるのは、大英断だろう。在米キューバ人の里帰りだって、ブッシュ政権時代は3年に一度しか認められなかった。
チャベス大統領らも、その辺の事情はよく分かっていよう。彼が叫んだもう一つの、キューバの米州社会への復帰を米国に促す、ということの方が、実際の隠れたテーマに思える。エルサルバドルの次期政権は間違いなく対キューバ復交を実現しようから、米国は米州でキューバを疎外する唯一の国、ということになる。その米国の意向で米州サミットからキューバが外されている現実の不自然さに、民主主義を何よりも尊ぶオバマ大統領が、果たして耐えられようか。
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