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2009年3月 5日 (木)

中南米の麻薬問題と米国

メキシコのカルデロン政権が最近最も注力している1つに麻薬犯罪組織の制圧がある。20092月末のAP電が伝えるところでは、同大統領は麻薬組織による暴力を自らの任期中(2012年まで)に制圧する、と語った。また同国検事総長の話しとして、かかる暴力による死者は086,290人、前年比倍増、09年は最初の8週間で1,000人以上出た、ともいう。数字の凄まじさに驚く。彼は、0612月のカルデロン政権発足以来、麻薬組織の暴力制圧作戦(いわゆる麻薬戦争)で、今日まで65億㌦が費消され、死亡した警官及び兵士は800人にも上る由だ。それでもカルテルのメンバーが死者の9割を占める、とし、最近の死者数の急増は、カルテル自体の瓦解が近いことを示す、とも言う。米国に対しては

l       消費国としての麻薬犯罪取り締まり

l       武器密輸の取り締まり

l       汚職撲滅

を注文する。

中南米の麻薬問題は、対米問題でもあるようだ。私のホームページ中の「米国とラテンアメリカhttp://www2.tbb.t-com.ne.jp/okifumi/CI12.htmではあまり述べていないが、米国は麻薬犯罪撲滅をラ米諸国に要求してきた。米国で起きる麻薬犯罪の根っこは供給国にあり、だから生産国も流通ルート諸国も麻薬組織退治が必要、との考えからだ。ラ米側には、麻薬消費国の責任はどうなのか、という不満は強い。消費が無ければ供給も無い。米国内の麻薬密売ルートが取り締まりきれないのに、供給国に責任を押し付けるのは如何なものか、というわけだ。米国でも警察組織の一部が密売組織と繋がりを持っている、との疑惑もある。また供給側の責任を言うなら、供給国側の麻薬犯罪組織が入手する武器は、米国から入っている。

麻薬、といえば、有名なのは何といってもコロンビアだ。下院議員を務めたエスコバル(Pablo Escobar Gaviria)が作ったメデジン・カルテルは、1980年代に暴力組織化した。政治家や検察官が誘拐、殺害され、同カルテル幹部が米国に引き渡されてもいる。898月には当時のバルコ政権(1986-90)が麻薬戦争を宣言した。おりしも大統領選挙運動が行われており、同カルテルによって与党自由党候補が暗殺されたばかりだった。その後、カルテルによる暴力の激化で治安も急激に悪化、他大統領選候補者らも暗殺された。落ち着いたのはコロンビア人犯罪者の他国への引渡しを禁止した新憲法制定によって、である。79年に米国と締結した犯罪人引渡し条約の対象が80年代に麻薬犯罪に関るコロンビア国民への適用が要求された。米国で裁かれるべき、との考え方からだ。また麻薬組織は当局との癒着関係があり根絶は難しい、という見方もあった。これがカルテルの暴力激化を呼んでいた、といえよう。

エスコバルは、憲法制定後一旦服役した。その後脱獄したが、結局は米国への引渡しにあう、と怖れたため、と言われる。同カルテルは199312月、彼が暗殺された後分裂し、カリ・カルテルが頭角を現したものの、90年代後半にはこれも幹部の大半が逮捕され、衰退する。問題は強力なカルテルを潰しても、コカインの輸出は一向に無くならないことだ。その後にノルテデルバリェ・カルテルが頭角を現した。左翼ゲリラからの自主防衛を目的とする自警団にも麻薬取引に関るところが多かったようだ。97年には自警団の全国組織、AUCが結成されていた。99年、コロンビアの麻薬撲滅のため総額75億㌦の半分を国際支援するプログラム、「プラン・コロンビア」が始まった。に米国が主導したのは勿論だが、コカ栽培農家への転作奨励や経済支援、法治システム近代化に加え、米国からは治安保全面でのソフト、ハード両面での協力を得ることとなった。

2000年代になると、ノルテデルバリェやAUCの幹部が米国に引き渡された。ベネズエラやエクアドル、中米諸国、メキシコの取り締まり協力をも得た。それでもコカインの対米輸出はなくならない。FARCなど左翼ゲリラも麻薬取引に携わる、と言われるが、実態はどうだろうか。

米国に入る麻薬は、コカインばかりではない。メキシコで生産する麻薬、マリファナの方が数量的にはずっと多い。アジアからのヘロインも、さらにはコロンビア産コカインも多くがメキシコ経由で米国に入ってくる。その額は米国政府の推定で年間200億㌦以上にもなり、全体の8割を占めるとまで言われる。長い国境線を考えると、米国にとってはメキシコの方が厄介だ。麻薬組織としてはシナロア・カルテル、ガルフ・カルテルなどが知られる。カルデロン政権の麻薬戦争宣言に至ったのは、カルテル同士の縄張りを巡る暴力抗争によるもので、背景や経緯は十数年前のコロンビアのそれとは異なる。

20086月に発効した米国の対メキシコ・中米治安保全協定「メリダ・イニシアティヴ」は、向こう3年間に亘り最大で16億㌦を、主としてメキシコに供与するもので、ヘリコプターや小型飛行機、近代的情報システムの供与や各種訓練を含む。初年度4億㌦と決まっていたが、どうも3億㌦に減額されたようだ。ともあれ始まったばかりで、実効性が問われるのはこれからだ。

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